第61話  危機から学ぶもの

 

ロベルトは文句なしの本戦判定勝ちで二回戦に進出。
相馬は、一回戦最後の試合、重量級選手相手に上段膝蹴りで一本勝ち。
会場を沸かせた。

「ロべよー、やっぱ相馬先輩は凄いな」

「オー、超凄いね! 僕の憧れ!」

「俺だって憧れてるさ」

有名な選手は皆、二回戦に駒を進める。

 

そして、太郎の二回戦が近づいてきた。

相手は総本山道場所属。
昨年度の体重別全日本大会重量級王者の山岸。
身長183cm、体重93kg。

対して、太郎は身長164cm、体重63kg。
体重無差別の大会ならではの組み合わせだ。

「太郎、あんな野郎に負けんなよ!」

「太郎! 厳しい稽古やってきたヨ! 大丈夫!」

「押忍、頑張ります!」

「おっ! 糞太郎のくせに良い面構えになってるな。さっきまでオロオロしてやがったくせに」

「お、押忍。か、覚悟を決めたんです」

 

『ゼッケン69番、水河太郎、東京! ゼッケン72番、山岸勝信、総本山! 』

 

「おっしゃー!」

太郎は大きな気合を入れ、壇上へ駆け上がる。

山岸は太郎の目を一直線に睨みつける。

「(や、山岸選手。凄げーにらんでいるな! 俺だって負けないぞ! なんたって同じ女性を愛する者同士だ。正々堂々、試合で決着をつけようじゃないか! )」

『構えてー! 始めい!』

太郎と山岸の戦いが始まった。

「うおおおお!」

先に仕掛けたのは太郎だった。

「(全力で飛ばすぞ! 本戦で力尽きるかもしれないが、後悔はしたくない! )」

太郎の渾身の突き、蹴りが繰り出される。

さすが重量級の山岸は後ろに下がらない。

山岸は大きく振りかぶって、正拳を太郎の正面に打ち込む。
重量級の大砲のような拳に、太郎は大きく後ろに跳ね飛ばされた。

「(な、なんて重い突きなんだ? ロベルトどころの話じゃない! やっぱ重量級王者は違うぞ! これは、全力のラッシュを続けていかないと判定でもっていかれる! )」

檀上の下で声援を送る、相馬も少々驚きの表情。

「ちっ! 山岸の野郎、なんてツラしてやがるんだ? よほど俺らが嫌いのようだな」

「お、押忍、そうだネ!」

山岸は、突きのラッシュを太郎に仕掛ける。

しかし、本戦中盤になっても太郎の勢いは止まらない。
小さな身体で、重量級の山岸に真っ向勝負を挑む太郎に会場が湧き上がる。

 

ドーーーン!

 

終了太鼓が鳴る。
本戦3分間を太郎は互角に戦いぬいた。

判定は引き分け。

 

「(重量級王者の山岸選手と互角に戦っていたぞ! 俺、強くなってるんだな。凄い、凄いぞ! )」

雲の上の存在でもある、重量級王者に対して、一歩も引けを取らない試合を演じた太郎。

「(よし、体力的にはまだ行ける! だが、この延長戦2分で終わりだろうな。この2分でケリを付けてやる! )」

 

2分間の延長戦が始まる。
太郎にとっては、初めて経験する延長戦。

試合開始後、山岸は、本戦のような突きのラッシュは仕掛けてこなかった。
しかし、一発一発が非常に重い下段蹴りを放ってくる。

「(なっ! 何だこの攻撃は! とても応戦できない! )」

山岸の威力十分の下段攻撃を受け止めるだけで精いっぱいで、攻撃に転じる隙が無くなった。
むしろ、山岸のサイドに回り込まなければ、足がもたない。

しかし、山岸は太郎を逃さなかった。

「(ふ、やはりここまでか! 軽量級では俺の下段蹴りは凌げまい! 体格差を生かした戦法でいささか腑に落ちないが、あずささんと不埒なことをしたこいつは倒さねばならん! )」

本戦よりも手数は少ないが、その分威力の大きい蹴りを繰り出す山岸。

「(だめだ! 手が出ない! )」

逆転の糸口が見いだせない太郎は態勢の崩れた状態から、不意に下段蹴りを放った。
その蹴りは山岸の下段に合わさり、軸足に当たった。
太郎はハッとした。

「(ん?今のは! 今のが軸足刈りなんじゃ! )」

山岸の下段に合わせて、太郎はまた下段を放つ。
同じように軸足にヒットした。

しかし、山岸は構わず攻撃を繰り出す。

「(これだ! これが相馬先輩の得意の軸足刈り! しかも俺は本家の技を一番近くで見ていたんだ。タイミングがわかる、コツはわかっていたんだ! )」

太郎は山岸の蹴りに合わせて軸足刈りを連続してヒットさせる。
山岸はバランスを崩しているがお構いない。

「(よし、山岸選手は頭がヒートアップしていて、攻撃がワンパターンになってる。行ける!)」

太郎は、山岸の下段には軸足刈り、突きには回り込んで脇に攻撃。

 

太郎の作戦は功を奏した。山岸はよりヒートアップしていく。

「うおおおおっ!」

山岸は大声を上げるが、逆に山岸の劣勢を際立たせることになった。

「山岸っ! 冷静になれ! 落ち着くんだ! お前の動きは読まれてんだ! 一度、後ろに下がれ」

総本山、山岸の先輩格の久我が叫ぶ。

山岸は、サイドに回り込む太郎を追うが、正面で捉えられない。
バランスの崩れた状態で、下段蹴りを放つが、太郎は的確に軸足に蹴りを入れる。
決して、山岸にダメージを与える戦法ではないが、客観的に見て、太郎の優勢は間違いなかった。

そして、延長戦2分が終了した。

 

「オー、相馬先輩! まさかの太郎の活躍だね」

「ああ。だが、前半攻めあぐねていたからな。どんな判定が出るか……」

 

主審の号令で副審の旗が上がる。

『引き分け1、白、1、2、3、4……白っ!』

太郎は山岸相手に4-0の優勢勝ちを収めた。

 

「か、勝った! 山岸選手に勝った!」

判定を聞きうなだれる山岸は、顔の汗を右手で豪快に払い、太郎に近づいてきた。

「水河君。俺の負けだ」

「お、押忍」

「頭に血が昇ってたってのもあるが、実力でも君が上だったな」

「そ、そんな……」

「相馬は気に入らないが、やはり……認めざるを得ないな。相馬を。なんたって、新人で軽量級の君をここまで強くしたんだからな」

「お、おす……」

「相馬にはこんなこと言うなよ。俺は総本山時代から、相馬との喧嘩関係を気に入ってるんだ」

そう言って、立ち去る山岸に、太郎はさらに一礼する。

 

試合場から降りると、相馬とロベルトが飛んできた。

「太郎! てめー! やったじゃねーか! まさか山岸の糞野郎に勝つとは思わなかったぜ!」

「太郎! 僕のカタキをうってくれたネ! 凄い!」

「押ー忍! ありがとうございます。もうヘトヘトです」

「何言ってんだよ、明日は全日本王者の志賀さんとやるんだろうが! 気合いれとけや!」

太郎は目を見開いた。

「そうだ、志賀選手……ついに、ついに戦う時が来た!」

「なんだ、大袈裟な奴だな」

「お、押忍」

 

第38回全日本大会途中経過

 


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