第60話  全日本大会初試合

 

『ゼッケン69番、水河太郎、東京!  ゼッケン70番、比嘉武志、沖縄! 』

正午過ぎ。
ついに、太郎の全日本大会の初戦が始まる。

太郎は軽くジャンプし、壇上に駆け上がる。
相手選手の比嘉は177cm、77kg。
体重無差別で行われる、この全日本大会においては決して大きい方ではないが、軽量級の太郎よりも一回り大きい。
沖縄の青年らしく彫が深く、褐色の肌。

 

『構えてー、始めい!』

 

試合が始まると、比嘉はゆっくりと太郎に近づいていき、右の中断回し蹴りを放った。
太郎は両手でガードする。

「(うわっ、強烈だ! 相馬先輩なら今のをカウンターで足を刈ったりするんだろうな。大会が終わったら、軸足刈り教わろう)」

比嘉の強烈な中段回し蹴りであったが、太郎は冷静であった。
普段から、ロベルトの思い蹴りを受けていたためだろう。

太郎は、比嘉の先制の中段回し蹴りをきっかけにラッシュを仕掛けた。
下突きの連打。

一回り大きい比嘉の懐に潜り込み、流れるような連続ラッシュ。

「よしっ、太郎、そのまま、たたみかけろ!」

愛弟子の全日本緒戦、相馬の応援にも熱が入る。

渾身の太郎のラッシュだったが、比嘉は落ち着いて捌く。
新人の捨て身の攻撃。
比嘉は、太郎の連打が、そのうち収まると踏んでいるようだった。

しかし、1分経っても、2分経っても太郎の勢いは止まらない。
比嘉は反撃のタイミングをつかめないまま、そのまま本戦が終わってしまった。

 

『白、1、2、3、4、5……白っ!』

太郎の本戦優勢勝ち。
太郎は全日本大会デビュー戦を勝利で飾ることができた。

「よー、やるじゃん。いつか止まるかと思ったけどな。次は負けないよ」

「お、押忍」

比嘉は負けてもさわやかだった。

 

 

太郎は壇上を降り、次の試合を見ていくことにした。
総本山の山岸の登場だ。
太郎とは反対側のコーナーから試合場に上がると、中央から太郎を睨みつける。
思わず太郎は目をそらす。

「(……やっぱ、あの夜のこと覚えてるな。それにしてもなんつー俺に対する憎悪の目。試合相手のことなんてまるで見てないじゃん)」

試合開始と同時に怒涛の突きを浴びせかけ、開始30秒で中段突きによる一本勝ちをおさめた。
夏の体重別の失態が嘘のような、圧倒的な強さだった。

「(やばい……殺されるかも)」

「山岸の野郎、凄げー迫力だったな。相手に恨みでもあんのか?」

「オー、山岸選手が恨んでるのは相手じゃなくて、た……オー!」

ロベルトの足を踏みつける太郎。

「あ? 相手じゃなくて?」

「お、おそらく山岸選手が恨んでいるのは、あの相手じゃなくて、前年度の大会で秒殺された、相馬先輩を恨んでるんじゃないかと」

「イチチ、イエース」

「ああ、なるぼどな。確かにあの野郎、こっちの方を睨んでたからな。まあ、あんな野郎は俺様が手を下すまでもないだろ。太郎、二回戦はパパッと片づけてこいや」

「お、押忍」

 

三人はサブアリーナに戻る。
まだ一回戦が残っているロベルトと相馬は軽いスパーリングのようなことを始めた。

太郎は壁を背にして目をつむる。
太郎には対山岸の作戦らしい作戦は無かった。
持ち駒はスタミナだけだ。

「(この3カ月の猛特訓でスタミナには自信がある。本戦3分、延長戦2分、再延長戦2分。まあ、そこまで互角に戦えるとも思えないが、可能であれば突進してくる山岸選手をかわしながら攻撃を打っていくしかないか。しかし、7分の試合後には板割りがあるからな)」

板割りとは、再延長戦でも勝敗が着かなかった場合の判定だ。
各々が割れる板の枚数を申告する。
ここでは、体重の重い選手が先に枚数を申告する。
無差別の大会なので、体重の軽い選手へ配慮するためだ。
お互いに枚数が決まると、体重の重い選手から割る。
割れた枚数の多かった選手の勝利となる。
失敗すれば0枚のカウントとなる。
この板割り判定でも勝敗が決まらなければ、引き分けなしの最後の延長戦2分間が待っている。

「(板割り判定で重量級の山岸選手に勝てる訳ないし……つか板なんて割ったことないしな。やっぱ、再延長戦までに勝負を決めないとな)」

 

 

太郎は、トイレに向かう。
次の試合の相手を考えれば、考える程、気合が失せていく。

「(よくよく考えれば、山岸選手は体重別重量級王者にもなってるし、全日本でベスト8にも入っている超強豪だ。ぽっと出の軽量級選手の俺が勝てる訳ないよなあー)」

「タロちゃん」

「へ?」

声に振り向くと、あずさが立っていた。

「あ、あずさ先輩!」

今回の大会は相馬、ロベルトの3人で来たため、会場であずさにあったのは初めてだ。

「凄かったね、一回戦。相手は沖縄チャンピオンなんでしょ?」

「お、押忍。はは」

会う度にぎこちない自分に腹が立つ。
あの夜のことは、現実なのだろうか?

「ねえ、タロちゃん。覚えてる?」

突然のあずさの問いに戸惑う太郎。

「お、押忍。な、なんでしょう?(キ、キスしたことかな?)」

「あたしとの、約束」

「(や、約束? なんだろ? なにか約束したか? あずさ先輩との約束を覚えてないなんて、俺って……)な、なんだったでしょうか?」

あずさは、太郎に近づき、耳元で囁いた。

「志賀君を倒すんでしょ?」

太郎はドキッとした。
はっとした。

「1年以上前の事だから忘れちゃったかな?」

思い出した。
確かに約束した。
と、言うか宣言した。
入門1カ月目の初心者大会の会場で。
慣れた感じであずさに話していた志賀に嫉妬し……

---あずさ先輩、ボクは志賀さんを倒します。見てて下さい!

……と。
あずさは覚えていたのだ。

「(そうだ。俺は何を弱気になってんだ? 俺の目標は打倒志賀じゃないか? 山岸の先に待ってる志賀だ! 俺は、倒さなければならない、山岸選手を! そして、志賀選手を!)」

「ね? 覚えてる?」

「もちろんです! 見てて下さい! 僕は、三回戦で、志賀選手を、倒します!」

「わ! さすが、タロちゃん! 頑張ってね!」

「お、押忍」

「……今後、他に……あたしと何か約束しても……忘れちゃ嫌だよ」

「お、押ー忍」

走り去るあずさを見て、太郎は気合を入れなおした。

「か、可愛い過ぎる! 俺は、なんて、幸せなんだー! やったる、重量級チャンピオンの山岸さんだろうが、全日本王者の志賀さんだろうが、今の俺を止められる奴はいないぜ!」

 

第38回全日本大会途中経過

 


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