第54話  全日本大会までに

 

太郎、ロベルトの長い夜は明けた。

相馬らと一階の食堂に向かった。

「ロベ、おめー、ちゃんと寝たか? 随分やつれてんな」

「押忍、大丈夫デス」

 

食堂に着くと、あずさと美雪がすでに朝食を食べていた。

「おいーす。何だよ、お前ら先に食べてんのかよ」

「おはよー。お兄ちゃん待ってたらいつご飯食べれるかわかんないじゃん」

 

バイキング形式らしく、ロベルトは皿に大量に食事を盛り始める。

気が付くと、ロベルトの隣に美雪が立っていた。

「わ、お、押忍」

「……昨日、太郎君、来なかったらしいね」

「え? あ、あれ、気が付いていたんデスカ?」

美雪は、美しい唇の片側をいたづらに上げ、肩をすくめた。

「当たり前でしょ。あんなヘタクソな演技」

「ハハハ……」

「でも、キヨにだけはばれないようにね」

「お、オス」

ロベルトは苦笑いをし、ほっと短いため息をついた。

 

相馬たちは食事を終えると、会場へ向かった。

 

試合会場には段々と観客が集まりだした。

相馬は、着替えをする弟子たちにハッパを掛けた。

「てめーら、去年は俺様の応援だったが、今日はお前らが体重別全日本の主役よ! 緑帯でただでさえ注目されると思うが……相馬軍団として大暴れして来いや」

「押忍」

「押ー忍、頑張るヨ」

 

『これより、第23回体重別全日本、決勝日開会式を始めます! 』

 

体重別全日本大会では、2日目の開会式において、各階級のベスト8、合計32名が檀上に上がり、紹介を受ける。
太郎とロベルトは、初出場であり、かつ緑帯である。

壇上の横で開会式を待つ、太郎、ロベルト。
選手入場のコールがされ、精鋭が檀上に集結した。
会場内は、ざわめきだした。

「あれ、緑帯がいるぞ」

「軽重量級と軽量級に」

「板橋道場……相馬んとこだな」

 

選手紹介が始まり、太郎は会場を眺め、思う。

「(俺は今、体重別の決勝日に、選手として紹介されているのか)」

 

 

決勝日開会式が終わり、準々決勝が軽量級から始まる。

第一試合は、津川vs太郎だ。

「あれー、俺からだ! あわわわ、うそーん! 全然把握してなかった!」

 

『それでは、軽量級準々決勝を始めます。ゼッケン1番、津川陽太、青森。ゼッケン10番、水河太郎、東京』

 

「津川選手……辻選手とともに軽量級の双璧を成している男。この人を初めてみたのは……去年の体重別の時! ブアリーナでのミット打ちだった。凄い迫力だったなー……俺は今からその人とやりあうのかあ」

 

『構えてー……始めえい!』

試合開始と同時に津川はガッチリとした構えから、じりじり近づいて来た。

「(どうする?戦略なんて、何にも考えてない。考えていたのは……あずさ先輩の事だけだ)」

津川は突きのワンツーを打ち込んできた。太郎は強烈な突きを何とか捌いた。

「(おお、何て重い突きなんだ?パワーが全然違う! )」

しかし、津川の攻撃はそれでは終わらなかった。
突きからのコンビネーションで下段を打ってきた。

「(うっ! ! )」

太郎は一発で膝をついてしまった。

「(しまった! 宮路戦で足を怪我していたのを見ていたのか?)」

 

『白っ! 下段回し蹴り、技あり』

 

「(くっ! 駄目だ、立ってるだけで精一杯だ)」

津川は変わらずにガードを固めている。

「(俺みたいな奴相手でも手加減なしってか。しかし、すげー迫力! やばいぜ)」

 

試合が再開すると、津川は重い突きの連打を放つ。
もはや太郎は下がるのみ。

津川は、太郎の空いた脇に中段回し蹴りを炸裂させた。

「うぐうっ!」

太郎はたまらず脇を抑えて倒れこんだ。

 

『白っ、中段回し蹴り、一本! !』

 

太郎は、しばらくうずくまったまま動けない。

「(ううう、痛い! 痛すぎる! ! )」

 

やっとのことで立ち上がった太郎は津川と握手をする。

「押忍。君、初出場だろ? いきなり準々決勝まで来るとはやるなー。またトーナメントの上の方で待ってっから」

「お、押忍」

 

太郎は顔を歪めながら壇上を下りた。

「おー、やられたな。あれが体重別トップの実力だよ。あいつだってトーナメント勝ちあがってんだぜ、お前と同じ試合数をこなしてな」

「お、押忍」

「まあ、秋の全日本大会までにまた頑張るんだな」

「押忍、またよろしくお願いします!」

「おう! よーし、次はロベ! てめーだ! 相手は元全日本王者であらせられる志賀さんだぜ! 軽く身体動かしとくかあ!」

「押ー忍!」

相馬とロベルトは会場の端で軽いスパーリングを始めた。 

「ロベの試合まで、まだ時間があるな。ちょっとトイレにでも行っておくか」

 

 

「タロちゃん」

試合会場の入り口近くに、あずさが立っていた。

「あ、あずさ先輩」

「……タロちゃん、かっこよかったよ」

「は、はひ。あ、ありがとうございます」

「じゃあ、お兄ちゃんにばれないうちに応援席に戻りまーす」

「はひひ」

太郎は、敗戦の悔しさは吹っ飛び、声が出た。

「あああああっ、やっぱりいー!」

「……何がかな?」

「へ?」

冷たい声に振り向くと、そこには東京都大会で戦った中条が立っていた。

「何故、君はこの厳粛な武道の大会で奇声を上げてるんだ?」

「あ、押忍。そうですね」

「女性に話しかけられただけで、あれほど興奮できるとは。羨ましい男だね」

そう言うと中条は試合会場に向かって行った。

「は、恥ずかしい。しかし……なんて嫌味な奴だ! 次、戦う時には、目にもの見せてやるぜ!」

 

【第23回体重別全日本大会途中経過】

 


NEXT → 第55話  プライドを捨てろ  へ


BACK ← 第53話  ロベルトの友情 へ


 

サブコンテンツ

このページの先頭へ