第51話  進撃、相馬軍団

 

ロベルトも一回戦を判定勝ちで突破した。
太郎と違い、身体が固まることもなく、強烈な膝で相手を追い込んだ。
その堂々とした組手は新人離れしたものだった。

「すげーな、ロベ! 圧勝じゃん」

「いや、太郎みたいに技ありとか取れなかったヨ」

 

しばらくして太郎の二回戦が始まる。
今度は試合前にシャドーで身体を温め、一回戦のような失態を演じないようにした。

『ゼッケン10番、水河太郎、東京』

太郎は顔をピシッと叩いてから壇上に駆け上がった。
相手は千葉支部の大滝。
太郎と同じくらいの年齢の茶帯だ。
太郎の前試合を見ていたのだろうか、ガードはやや高めだ。

「(俺の上段にびびってるのか?だが俺が今大会に向けて気合入れてきたのは上段だけじゃないぜ)」

太郎は相手に飛び込んで下突きを連打する。
相手がガードする上からもお構いなし。

「いいぞ太郎! てめーのやりこんできた下突きを味わわせてやれー!」

 

 

 

―――――――――――――――太郎は地獄の拳立て10000回+αの筋肉痛が治まった頃、肩が一回り大きくなったのを感じていた。

「なかなか言い感じで仕上がったじゃねーか。太郎! 次は、てめーの上段の精度を上げるために次の体重別までに下突きの連射を身に付けてもらうぜ!」

「下突きですか? 下突きが得意になると上段が良くなるんですか?」

「そーだ! 組手ってのは会話っつったろ? 下突きが強ければガードが下がり上段が入りやすい。逆に上段がポンポン飛ばせればガードが上がり下突きが入りまくるって訳よ」

「なるへそ」

「だがお前みたいな非力な野郎の下突きじゃ単発で打っても駄目だ。少なくとも3連打以上は一呼吸で打てるようにしないとな」

「押ー忍」

太郎はロベルトの持つミットに一呼吸での連打を叩き込んでゆく。

「駄目だそれじゃ! 一発一発が流れてねー! 連打ってのは全部ひっくるめて一つの攻撃なんだ! こうだ! 見とれ!」

相馬はミットに下突きを連打する。
3連打、4連打、5連打。
何連打しても確かに流れるような連続攻撃になっている。

「こんな感じだ。お前にゃまだミットは早いか……。じゃあひたすらシャドーで下突きをやりこんでもらおうか」

「お、押ー忍」――――――――――――――――――――

 

 

 

太郎は相馬に叩き込まれた下突きを大滝に打つ。
大滝が攻撃に転じてもお構いなしで下突きを打つ。

「そうだ、連打しろ。下からえぐるように! 突きに合わせて、蹴りを打つ瞬間に!」

一見でたらめに打っているようだが、そこには相馬が伝授したタイミングがあるらしい。
大滝の見せ場を作らぬままに本戦を優勢勝ちで勝利した。

「はあ、はあ、勝った。また勝てた。俺はだいぶ強くなってるぞ」

「おいおい、太郎。お前は誰に空手を習ってると思ってんだよ。この天才相馬だぞ。そしてスパーリングパートナーは、このデカブツ」

相馬はロベルトの腰を叩く。

「太郎、あと一回かてば全日本ダネ」

「え? ほ、本当? そうか、次が三回戦だもんな。うわわ、ひえー! ぜ、全日本大会が見えてきた」

「おー、太郎。次が正念場だぞ! 次はあいつだからな」

相馬が顔をくいっと試合場に向ける。
そこには因縁の男が気合十分で相手をどつきまわしていた。

「……宮路。そうだ、ついにこの時が来たのか」

「太郎、あいつにだけは負けんなよ!」

「押忍」

 

昨年、深夜のラーメン屋で絡まれた。
ただただ怯えていたあの日。
その借りを返す時がきたのだ。

「あいつは身長がおまえより15cm近くでかい。何か作戦はあるのかよ?」

「……押忍。あります。任せて下さい」

「おっ、太郎の分際で随分と生意気な事言ってくれるな。まあ、やってみろ」

「押忍!」

 

ロベルトも二回戦を勝利した。

 

三回戦までは休憩時間なども入り時間があるため相馬らは会場を見て回ることにした。

「おい、太郎。中量級んとこに、あのくそ中条がいるじゃねーの。空手着でアップしてるから当然勝ち上がってるんだろうな」

そして軽重量級の試合場では志賀が試合待ちをしている。

「志賀選手……」

「志賀、あいつは負けられないからな。すげー緊張してんだろーな」
 

 

『わー! !』

 

会場に歓声が上がった。
重量級の試合場の方からだ。
相馬らは駆け寄った。
試合は前王者の山岸だった。
そして、山岸が一方的にやられている。
相手は大柄な山岸よりも更に大きい選手。

「あれは、香川の伴兄弟の弟の孝二だ」

「伴兄弟?」

「ああ、二人とも120kg以上ある超重量級だ。試合場の下で大声出してるのが兄貴の信一」

「で、でかい」

「こいつら。今大会に向けてかなり頑張ってきやがったみてーだな。去年なんて体重別で二日目にも残らなかったのに。今年は山岸超えか」

「強い選手がたくさんいるんですね」

「俺から見たら、みんな雑魚だぜ」

「……押忍」

 

山岸は二回戦で格下相手に敗退した。
表情は憔悴し、涙を浮かべている。
逆に伴兄弟は迫力満点に抱き合って喜びで叫んでいる。

「これがトーナメントの非常さだ。負ければそれまで」

「押忍」

 

【第23回体重別全日本大会途中経過】

 


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