第50話  目覚めの薬

 

サブアリーナに着いた太郎らは、昨年と同じ場所を陣取った。

相馬は着くなり、ロベルトに毛布を敷かせそこに寝転んでしまった。
全国から集まったこのなみいる強豪達を前に、よくもまあこんな態度でいれるなと感心する太郎。

と、サブアリーナの入口付近で選手らしいジャージ姿の若者を先頭に5、6人がきょろきょろしている様子が目に入った。
しばらくすると、どこかの空いているスペースを指差し、申し訳なさそうにやはり固まってゆっくりとサブアリーナに入ってきた。
おそらく、道場として体重別全日本に出場するのが初めてなのだろう。
太郎には、なんの躊躇もなく堂々と、そして威圧的にサブアリーナに入って行く相馬がいたので、あんな肩身の狭い思いをしたことがなかった。

 

会場には四つの試合場が設けられている。
初日はそれぞれで軽量級、中量級、軽重量級、重量級の試合が行われ、各階級で64人から8人に絞られる。
この8人に入れれば、11月に開催される第38回全日本大会に出場することができる。

 

開会式が始まり、太郎は軽量級の壇上から会場を眺める。

「これが、選手としての風景か。去年来たときは相馬先輩の応援だったが、今回は俺が主役だ! ……なんてね」

 

今大会の選手宣誓は前大会重量級王者、総本山の山岸だ。
昨年は相馬だったが、選手宣誓をするということは優勝を義務付けられていることになる。
山岸も緊張の面持ちだ。

 

開会式が終わると早速、一回戦が始まる。
太郎はゼッケン10番で5試合目。

ゼッケン1番は昨年同様、前大会準優勝の津川だ。
強烈な突きであっという間に試合を決めてしまった。

太郎は段々と緊張してきた。

「やばい、気持ち悪くなってきた。……オエッ」

相馬や試合までまだ時間のあるロベルトも太郎の試合を待っている。

「太郎、一発目の相手も体重別は初参戦の新人らしい。まあ、新人っつっても茶帯だけどな。お前は俺様直伝の質の高ーい稽古をやってきたんだ。自信持ってやれや」

「お、押忍。頑張ります」

「何だよ! 試合直前になって一気に緊張してきたみてーだな」

「はひ……オエッ」

 

太郎の出番はすぐに回ってきた。

 

『ゼッケン9番、山城隆仁、山口。ゼッケン10番、水河太郎、東京』 

 

太郎の相手は、さきほどサブアリーナに固まって入ってきた集団の先頭にいた若者だった。
まっすぐに太郎を見つめている。

「しゃっ! !」

試合が始まると大きな気合と共に太郎に拳を叩き込んできた。
軽量級とは思えない思い突きだ。

「(うっ、さすが体重別全日本! 強烈だぜ)」

しかし、一方的に攻撃を受けているだけでガードも反撃も出来ない。
攻撃の意思はあるのに、身体が動かない。

「(あれ、どうしよ、手が出ない)」

相馬が苦い顔をしている。

「あちゃー! 太郎の野郎、全国大会独特の雰囲気に飲まれやがったな。気持ちが浮いてやがんだ。ったくよー、ここで試合経験の浅さが出やがった」

 

試合は中盤、いよいよ太郎の旗色が悪くなってきた。

「(やばい、やばい、身体が動かない……うそー! )」

「太郎ー! てめー、ここで終わったらぶっ殺す!」

しかし、相馬の脅しすら太郎に届かない。

「オー、太郎。ゴー」

「ロベ、無駄だ。あの野郎、終わったらヤキを入れちゃる!」

 

残り30秒。
もはや、ここから太郎が優勢になることは絶望的だった。

「まさか、こんな事態になりやがるとは。あいつには、メンタル面の稽古もしなきゃあならんかったらしいな」

「オー、太郎!」

山城の勢いはますます増していく。
会場も山城のラッシュに湧き上がって行く。

と、その時。

 

「タロちゃーーーん! ! !」

 

会場中に響く大声。

その声は、太郎の耳にしっかりと入り込んだ。

「(今のは……あずさ先輩? そうだ、俺は何やってんだ! こんなところで負けるわけにはいかないじゃないか!)」

太郎は後ろにステップして距離を取った。
「(よし、動く。動くぞ! もう判定で勝つのは無理だ。落ち着け。やりこんだあの技で決めるしかないんだ)」

山城は、初めて大きく動いた太郎に一瞬驚いたが、再度迫ってきた。
太郎は山城の動きに注視する。

「(あと、何秒だ? わからんが、もう時間はない!)」

太郎は大きく息を吸い込んだ。

「(相手の攻撃を良く見ろ)」

山城は下段を打ってきた。
その際に腕のガードが下がった。
太郎は右足を抱え込み、上段回し蹴りを放つ。
蹴りは山城のこめかみにきれいに入った。
山城は手をついた。
が、意地ですぐに立ち上がった。

「赤っ! 上段回し蹴り、技あり!」

山城はすぐに反撃に出たが、すぐに試合は終了した。
太郎の技ありによる優勢勝ち。
全国大会のデビュー戦を勝利で飾った。

「はあっ、はあっ、勝った、何とか」

 

試合が終わり、太郎と山城は握手をした。

「水河さん、きれいな上段でした。あれは相当稽古してないと打てないと思います」

「お、押忍」

「僕も、もっと稽古します。是非またお願いします、押忍!」

「押忍、こちらこそ(なんてさわやかで真っ直ぐなんだ。この人は強くなりそうだな)」

 

太郎が試合場を下りると、相馬に羽交い絞めにされた。

「おらっ、糞太郎! てめー、なんつーきわどい試合しやがるんだー」

「でも勝てて良かったネ」

「うぎぎぎ、押ー忍、すいませーん」

「しかし、試合途中に聞こえた声。「タロちゃん」だと? お前、大阪に女がいるのかよ?……いや、いるわけないか」

「押ー忍、そんな声聞こえました? 気のせいじゃないですか。なあ、ロベ」

「う、うん。僕もそんなの聞こえなかったヨ」

「あれ、そうか? 俺の聞き違いかあ」

「そ、そうですよ。はひひひ」

嬉しいが、ひやひやする太郎だった。

 

 

会場二階の応援席。
美雪はあずさを指でつつく。

「……あずさ、やるじゃん」

美雪に言われ、赤くなるあずさ。

「……言っちゃった。へへ」

隣で岩村はあさっての方向を向いている。

「ぼ、僕は何も聞いてませーーん」

 

【第23回体重別全日本大会途中経過】

 


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