第44話  中条との激突

 

太郎は、呆然として壇上を下りてきた。

「太郎さん、すごい! 体重別に出れるんですよ!」

あずさも興奮している。

「太郎ー、すごーい! やったネ」

ロベルトは喜び勇んで、太郎に抱きついてきた。

「太郎、こんなこともあるんだな。まあ五十嵐先輩はしょっちゅー怪我しまくりだからな。しかし、なんと運の良い奴だ」

相馬も信じられないといった感じだ。

「黄帯で出た地方大会で準々決勝まで行くとはなー。太郎、次はあの中条だぜ! ロベルトの敵を討てよ」

「ひ! お、押忍」

 

太郎はすでに体力も限界であり、体重別への参加資格を得られたことで戦意は完全になくなっていた。
太郎の勝利に沸いている板橋道場の一団のもとへ近づく男がいた。中条だ。

板橋道場の面々に緊張感が走る。

「どうも、目黒道場の中条です。ロベルト君、良い試合だったね。また、お願いしますよ」

普段は、太郎と同じく眼鏡を掛けているようで、中指でくいっと上げて見せた。

「水河君、次の相手は君だよね。よろしく」

太郎に握手を求める、中条。

「お、押忍、よろしくお願いします」

そんな中条に相馬は当然の如く割って入る。

「おうおう、中条! てめー、随分とすかしてやがんなー」

まるでヤンキーのような口調。そしてメンチをきる。

「相馬さん、全日本準優勝おめでとうございます。あなたは選手としてだけでなく、教える側でも優秀なんですね」

「あーん? 中条、てめー、その、しゃべり方どうにかならねーか!」

太郎には、相馬の目じりがひくひくと動いているのが見えた。
一触即発の空気にひやひやしてくる。

「すみません。私はもともとこうなんです。別に公務員やってるからではないので、では失敬」

そう言うと、中条は去って行った。

「こ、殺す」

「わわ、相馬先輩、落ち着いて下さいよ」

「太郎、てめー、あいつに負けたら、殺す」

「ひーー! えー、何でこうなるの?」

中条は、相馬の嫌いなタイプらしい・・・・・・想像に難くはないが。

 

『それでは、これから準々決勝に進出の8名の選手を紹介いたします。準々決勝に進出された選手の皆さまは檀上にお集まりください』

突然、アナウンスが流れた。

「おい、太郎! 呼ばれてんぞ。早く行けや」

「へ?」

「屁じゃねえよ! 檀上で紹介いただくんだよ!」

「ええー! やだなあー、緊張する!」

「つべこべ言わず行けやー!」

「お、押ー忍!」

 

突然、檀上に並ばされた太郎。
予期せぬ事態に緊張がほとばしる。

元々人前に出ることが大の苦手なのだ。
それが、大きな会場の舞台に立たされている。

太郎の隣には、ロベルトを倒した中条が立っている。

見ると、ほとんどが黒帯。
茶帯は総本山の百瀬のみ。
そして、太郎は黄色帯だ。

 

「あいつ、黄色帯だぜ」

「しかも軽量級だな」

会場がざわついている。
相馬はその光景をニヤつきながら眺めている。

「ふふ、どうだ、俺の弟子だぜー、ははははは」

「お兄ちゃん、さっきは、太郎さんはもう終わりだ、なんて言ってたくせに」

「あ?知らねーよ、そんなこと」

「調子いいんだから」

 

『それでは、これより、本大会を準々決勝まで進出し、夏に開かれる『第23回体重別全日本大会』への出場権を獲得された8名の選手をご紹介いたします』

会場が盛り上がる。
太郎は頭がぼーっとしてきた。

『ゼッケン1番、菅沼 忠士選手。ゼッケン16番、高畑健選手・・・・・・』

「ん?」

太郎は、聞いたことのある名前が耳に入り我に返った。

高畑健

太郎は横をそっと見ると、確かにいる。
公式戦デビューで圧倒的力を見せつけられた。
総本山の高畑健だ。

「あの人も出ていたのか・・・・・・」

 

 

選手紹介が終わると、すぐに準々決勝が始まった。

 

太郎を初心者大会で破った高畑は、本戦であっけなく敗退した。

「あの高畑選手がいとも簡単に負けてしまった。ここまでくるとみんな強いなあ」

 

総本山の百瀬は、164cmの太郎よりも小柄だが、一回り以上大きい選手相手に最後まで食らいつき判定勝ち。
準決勝に進んだ。

 

そして、準々決勝第四試合。
太郎の出番となった。

『ゼッケン73番、中条選手。ゼッケン88番、水河選手』

「よーし、太郎! あの野郎をぶちのめしてこい!」

「押ー忍!」

太郎は中条と対峙する。
やるしかない。
とにかく持てる力の全てをぶつける。

太郎は、ゆっくりと構えた。

試合開始。
太郎は突きのラッシュをしようと前に出た。
しかし、足がもつれる。
三回戦の石川との戦いですでに身体はパンクしていたのだった。

「うう、動かない」

中条はそんな太郎にボディーへの攻撃を集中してくり出す。
実は中条は太郎の試合も見ており、太郎のこの状態にも気づいていたのだ。

「もう、身体は限界だね。早く終わらせてあげよう」

中条は突きからのコンビネーションで鋭い前蹴りを太郎に放つ。
太郎は、うっ、と声を上げ、その場に倒れた。

中条の前蹴りでの一本勝ちである。

「オー、太郎」

「あいつ、あっさり負けやがった。体重別までにディフェンス力を鍛えねーと駄目だな」

 

そうして太郎は目標のベスト8に入賞し、来年度の第23回体重別全日本大会への切符を手にした。
四回戦で敗退したロベルトは、切符を逃している。
太郎にとって、内容はどうあれ、初めてロベルトの先を行ったことになる。
今大会の優勝は中条、準優勝は百瀬が勝ちとった。

 

 

太郎、ロベルト、あずさは岩村に道場まで送ってもらった。
美雪は相馬と会場から二人で帰るそうだ。

「ふわー、疲れたヨー」

道場に戻ると、ロベルトは早々と三階の部屋に昇って行ってしまった。

突如訪れた、あずさと二人きりの空間。

「太郎さん」

「ふぁ、ふぁい」

「もらった賞状を飾りましょうよ」

太郎は入賞した賞状を道場に飾らせてもらった。
並んでいる相馬のトロフィーやメダル、賞状の数々からすればほんの小さなものだが。

「おめでとうございます、太郎さん」

「あ、ありがとうございます」

「来年、体重別に出れるんですね。入門1年で出場する人なんていないですよ」

「あ、ありがとうございます」

三歳児でさえ、もっと語彙が多いような気がする。
あまりのたどたどしさに、情けなくなってくる太郎であった。

「……太郎さん、もう外は暗いんで、お家まで送ってもらえませんか?」

突然のあずさの言葉に、太郎の身体に電撃が走った。

「ふぁ、ふぁい!」

 

あずさや父・源五郎師範の住む自宅は、道場から100m程のところにある。
ほんの短い時間ではあるが、太郎にとっては貴重で重要で恐怖の時間。
太郎は、頭をフル回転させていた。

「もがもが(何か、何か話さないとー! ! )」

先に口を開いたのは、あずさだった。

「そーいえば、今日、私太郎さんの手を見せてもらったじゃないですか」

「ふぁ、ふぁい」

「お兄ちゃんから聞いたんですけど、太郎さん、お兄ちゃんに言われて、木に突きを打たされたんですよね」

相馬と出会った、夜のことのようだ。

「そ、そういえば、そんなことがありました」

「その時の太郎さんの突きが気に入って、弟子にしたらしいんですよ」

「へ? そ、そうなんですか」

「お兄ちゃんは人に教えるのが大嫌いな人だったから、太郎さんを弟子にしたときは驚いちゃいました」

「そ、そうなんですね」

そんな話をしている間にあずさの家にたどり着いた。

「今日の太郎さん、カッコ良かったですよ」

「ふぇ」

「ふふ。おやすみなさい」

そう言って、あずさは家の中に入って行った。

 

太郎は、あずさと別れた後、背中に羽が生えているような軽い足取りで道場に向かった。

「俺、カッコ良かったんだあああ! ああ、空手やってて良かったー!」

太郎は、眠そうなロベルトを半ば強引に銭湯に連れて行った。
太郎はいつになく饒舌であった。

 

東京都大会結果(5位から8位までは体重の軽い者が上位となる)

 優 勝     中条 貴久
 準優勝  百瀬 貫一
 第3位  稲原 英明
 第4位  菅沼 忠士
 第5位  水河 太郎
 第6位  高畑 健
 第7位  野崎 勝男
 第8位  日比谷 雄也

 

【東京都大会結果】

 


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