第42話  死ぬ気でやってみろ

 

上段回し蹴りによって、初戦を一本勝ちで飾った太郎は、放心状態のようなたたずまいで檀上から降りてくる。

「おう、タイミングバッチリだったな!」

相馬は嬉しげに、太郎の肩を叩く。

「押忍、ありがとうございます。やりました」

「これで浮かれるなよ! あと3人だ!」

「押ー忍」

「太郎、やったネ」

太郎の一本勝ちにはロベルトも満足そうだった。

 

 

東京都大会は100人近い選手が出場しているが、4面で試合を行うので、すぐに二回戦が始まる。
太郎と同じDブロックでは、一回戦シードだった、目黒道場の中条が登場する。
身長は相馬より若干高いくらいで、175cmほど。
細身で、なんとなく冷たい印象がある。

 

組手は、相馬の言うように、相手の攻撃を受けながら、じっとパターンを読んでいるようだ。
本戦中盤、相手選手の下段に合わせて、上段を放ち、技ありを奪う。
単発の下段を打つ時にガードが下がると分析したのだろうか、タイミングはバッチリだった。
そして、そのまま優勢勝ちを収めた。

「ロベ、見たか。あいつが中条だ。どうだ、行けるか?」

「ウーン、今の僕じゃ、体格を活かしてファイトするしかないね」

「そーだな、それがいいかな」

相馬とロベルトは四回戦でぶつかるであろう中条の対策を話している。

 

ロベルトは二回戦、茶帯相手に奮闘して、優勢勝ち。

相馬ら一行は、控えエリアに向かう。
そんな中、太郎は、次の試合が始まるまで次の相手を探していた。
太郎の挙動不審に相馬が気が付いた。

「おい、てめーは何をキョロキョロしてやがるんだ?」

「押ー忍。次の対戦相手はどの方なのかなあ、と」

「ちっ、小せえ野郎だ」

相馬は呆れたような表情を浮かべている。

「小さい男と思われてもいい。俺と戦う奴を一目見ておきたいのだ」

すると、太郎の眼前にゼッケン90番の背番号が。

「90番の丸選手、丸選手ー……あ、うえ! あのしとー?」

ゼッケン90番、丸。茶帯を締め、完全に重量級だ。

「うそーん、めちゃ重量級だ……」

太郎の驚きに反応する相馬。

「ワハハハ! 太郎、ずいぶんでかい奴と当たったな」

「相馬先輩ー、どうしましょ?」

「どうってことねーよ。いつもロベルトとやってんだろ? あいつ、体重は重そうだが、身長はロベルトよりも小せーじゃねーか。あーゆー奴はな……」

「……押忍、なるほど」

 

 

試合が進んでいき、ついに太郎が呼ばれた。
相手は、茶帯の丸。
身長は170cmちょいだが、体重は90kg以上はありそうだ。

 

試合が始まると丸は体重の乗った突きを放つ。
太郎は回りこんで避ける。
丸は追いかけるが太郎はさらに回り込む。

「そうだ! 奴の攻撃はもらうな。正面にいると後ろに吹っ飛ばされるぞ!」

太郎は相馬の作戦通りに敵の死角に入り込み、下段で動きを止める。
太郎は、相馬によるスタミナ稽古のお陰で、どんなに攻撃を繰り広げても、3分間は動き続けられる。
重量級の選手はやはり攻撃はそんなに早くは出来ない。
太郎は丸の攻撃をほぼ避けきった。
たまに受ける突きに太郎は大きく後ろに下がった。

「(あぶない、やはり攻撃力の差は歴然としてるな。絶対まともにもらえないぞ! )」

 

本戦を終え、判定となった。

『判定をお願いします! 判定っ!』

主審の号令の後、4人の副審が旗を挙げる。
太郎は白。
丸は赤。
旗は引き分けが2本。
白に2本挙がっている。

「オー、太郎」

「主審だ! 主審の判断で勝負が決まる!」

相馬もロベルトも判定を食い入るように見つめる。

『引き分け、1、2、白、1、2、3……白! !』

「オーー! !」

「よっしゃあ! ! やった!」

太郎は僅差の3-0で二回戦優勢勝ち。
もはや、へとへとで延長戦はとても戦えない状態だった。

 

「押ー忍、相馬先輩の作戦通りにやりましたああ」

「うむ、さすが俺! だがな、太郎。次は頑張り時だぜ。相手は黒帯だ。石川とか言ってたな」

「え、つ、ついに! あわわ」

「さすがに黒帯相手だと小細工は通用しねー」

「そ、そうですよね」

「調度いい機会だから、死ぬ気で行け!」

「へ?」

「トーナメントってのはな、どうしても次の試合の事を考えてかなきゃならねー。だが、お前の場合、次勝手も、四回戦では五十嵐先輩と当たる。さすがに、俺もお前が五十嵐超えを出来るとは思えねー」

「先の事を考える余裕もありませんでした」

「だが、相手は次を考えてくる。しかも、お前みたいな黄帯相手に怪我もしたくないだろ。まず間違いなく前半は様子見、後半にまとめてくる。延長も考えて力を出し切らないかもしれない」

「そ、そこまで考えてるんですね」

「相手は黒帯だ。試合経験も豊富よ。だが、そこを逆手にとってお前は本戦決着で行くんだ。延長になったら即死だが、とにかく3分オールラッシュだ! 死ぬ気で行け!」

「お、押忍。やって見ます」

「俺の弟子が二人とも黒帯を倒したってなれば、師範共も俺にうるさいこと言わなくなるしな」

「お、押忍」

 

 

試合はスムーズに進み、いよいよ三回戦、太郎の出番が来た。
太郎には、黒帯の石川の構えには隙がない気がした。
さすが、黒帯。

開始の合図とともに太郎は石川に突っ込んだ。
突き蹴りをむちゃくちゃに打ち込んだ。
石川は冷静に捌いているが太郎の勢いは止まらない。
中盤、石川は巻き返しを狙うが太郎はペースを崩さない。

「太郎、いーぞー。ここからだぞ! とにかく逃がすな!」

石川は強烈な突きを繰り出すが、太郎は相手の肩や肘にもやみくもに攻撃しているので、上手く反撃できない。

最後まで、ラッシュを止めなかった太郎は、黒帯の石川から優勢勝ちをおさめたのだった。

 

【東京都大会途中経過】

 


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