相馬は開会式を終え、戻ってきた太郎とロベルトを呼んだ。

「わかってんな! お前らが今日まできつい稽古に耐えて身に付けた必殺技! 試合の開始直後にぶちかませ! 運が良ければそこでKOだ」

「押ー忍」

「押忍」

太郎の右上段回し蹴り、ロベルトの左上段膝蹴り。
3ヶ月間、一点集中で身に付けた必殺技。
果たして、どれほどのものになっているのか。

 

今大会は、試合場が4つ用意され、それぞれのブロックで試合が進む。
総本山の百瀬はゼッケン39番のAブロック。
73番中条、80番ロベルト、88番太郎、96番五十嵐は同じDブロック。

太郎は周りからの視線を感じていた。
それは茶帯、黒帯の選手がほとんどという地方大会で黄色の帯を巻いている太郎、ロベルトは目立った。
そもそも太郎らはまだ入門1年未満であり、黄色の帯を巻いていることもおこがましいほどの空手暦である。
このような大きな大会で黄色の帯を巻いていることは、むしろ結果を出さないと恥ずかしい状態だ。

 

太郎は緊張で段々と気分が悪くなってきた。
太郎は、何度もトイレに出たり入ったり。

「はあーー、おえっ、ふう」

気づくとすでに一回戦は始まっているようだ。
四つの試合場で戦いが繰り広げられている。

「ああ、やばい! また、相馬先輩にヤキを入れられる! つか、ロベルト3試合目だったなー」

 

トイレから出ると、あずさが太郎を探していた。

「あっ、太郎さん! ロベルトさんの試合始まっちゃいますよ」

「あわ、お、押忍。すいません」

太郎は、あずさが何やら、自分の腰の辺りを見ていることに気づいた。

「……お、押忍、あずさ先輩? 何故、僕の下半身を見てるんですか?」

「えー! 違いますよ、手ですよ。手! 拳!」

「こ、拳。僕のですか?」

「……太郎さん、ちょっと、手を見せていただけませんか?」

「ひえっ、手、手ですか!」

太郎は、震えを我慢し、右手をあずさに差し出した。あずさは太郎の手をとった。

「はひひひ、ほ」

太郎は、すでに頭の中が真っ白だった。
いったい、試合前の自分に何が起こっているのかわからなくなった。
すべすべしていて、温かい、きめ細かい肌。
太郎は、血が逆流しそうな感覚に襲われる。

「……ふうん。これが、そっか」

「ななな、なんでしょう?」

「ううん、何でもないんです、ふふ。さあ、ロベルトさんの応援しましょう!」

あずさは何事もなかったように、試合場に向かった。

「ななななんあななな、なんだ。俺は、モテ期か?」

太郎は、試合への緊張が一気にふっとんだ。脳内麻薬が出ている気がした。いける気がした。

「あれが、太郎さんの拳かあ……三人目の男だって、ふーん」

 

 

試合場に着くと、ロベルトの試合が始まるところだった。

「貴様、糞太郎! 毎回毎回、どこをほっつき歩いてやがるんだ! ちっとは落ち着いてろや! !」

「押ー忍! !」

「なんだよ、やけにハイテンションになってやがんなー」

「押ーー忍! ! !」

「ちっ、なんなんだよ」

 

ロベルトの初戦の相手は黒帯。
いきなりの試練となった。
中量級ほどの体つきだ。

ロベルトは、相馬の言いつけ通り試合開始と同時に左の上段膝蹴りを放った。
しかし、後ろに下がられヒットしなかった。
しかし、すぐさまボディーに膝を打ち込んでゆく。
2発、3発と連続で。
ロベルトの体格を活かした作戦だ。

「いいぞ、ロベ! そのまま壇上から落としちまえ! !」

ロベルトは勢いそのままに相手選手を試合場の外へ追い出した。

「おおっ、ロベルト君! 行けー!」

温厚な岩村も、黒帯を追い詰めているロベルトに興奮気味だ。
ロベルトはそのままのペースで黒帯選手から優勢勝ちを収めた。

「おおおおお」

会場からも歓声が起こる。
黄色帯が黒帯を下したのだから。

 

礼を終え、壇上を降りてきたロベルトと太郎は抱き合った。

「ロベー! やったなー! すげーじゃん! 黒帯倒したぜー」

「オー、太郎、やったヨ! !」

相馬も、腕組しているが喜んでいるようだ。

「おう、ロベ! やったな。だが、体重別にでるには後3人倒すんだぞ!」

「押忍!」

 

 

そして、2試合後、すぐに太郎の出番は回ってきた。

『ゼッケン88番、水河選手。ゼッケン89番、山根選手』

「よーし、行ってきます!」

「オー、太郎、がんばって」

「何だよ、あの野郎。いつもの感じとちと違くない?」

「いいじゃん、いいテンションじゃない?」

美雪も、太郎のハイテンションに気づいている。

 

「お互いに礼! 構えてー」

「押忍(最初だ! 最初に打つんだ! )」

「始めい! !」

試合が始まった。
茶帯を締めている山根選手は太郎と同じくらいの身長。
太郎は、一歩踏み出し、右ひざをかかえる。

「(右膝を相手の中心線よりも抱え込んで、バネを利用して……打つ)」

パアアアン!

会場に乾いた音が響いた。
太郎の右上段回し蹴りが炸裂した。
山根も試合開始と同時に前に踏み出していたので、蹴りはカウンター気味に入った。
山根は膝をつき前のめりに倒れた。

「白っ、下がって! ……」

主審に言われ、太郎は開始線まで下がった。

「おおおお、太郎の野郎! やりやがった!」

「オーマイガー! ! 太郎!」

「太郎さんっ! やったー!」

山根は頭を抱え左右に振り、起き上がって開始線に戻る。

 

『白、1、2、3、4、5、上段回し蹴り、一本! !』

太郎は、開始5秒、練習を重ねてきた、必殺技右上段回し蹴りによる一本勝ちを収めた。

「あ……勝った。初めて勝った。勝っちゃった!」

 

【東京都大会途中経過】

 


NEXT → 第42話 死ぬ気でやってみろ へ


BACK ← 第40話 東京都大会開幕 へ