第40話  東京都大会開幕

 

1月に行われた3回目の昇級審査を終え、太郎とロベルトは共に5級に昇級し、黄色の帯を巻くことが許された。
ここまで、全て飛び級であった。

 

そして2月、微かに雪が降る中、東京都大会が開催される。
都道府県別の地方大会に位置する大会で、ベスト8に入賞すれば、6月に開催される体重別全日本大会への参加が認められる。
今大会は、東京近郊から100人近い選手が出場することになった。

 

いつものように、岩村の車で会場に向かう相馬一行。
あずさや美雪はすでに会場入りしているようだ。

「相馬先輩、そういえば師範から今日の大会のパンフレット預かってました。どうぞ」

「押忍、岩村さん、ありがとよ。どれどれー……さすがに地方大会ごときだと知ってる奴があんましいないなあー」

小馬鹿にしているような態度でパンフレットを眺めている。
ワゴンの最後列では、太郎とロベルトが座っている。

「ああ、緊張する」

「グオー、グオー」

太郎の緊張をよそに、ロベルトは大いびきで寝ている。

「ああ、本当羨ましい奴だなあ。まあ、こいつなら、ベスト8入りしそうだもんなー。同時入門なのに随分と差をつけられてるからな。俺も頑張らないと」

相馬は、パンフレットを指しながら、後ろを向いた。

「おっ、太郎。総本山で会った、つるっぱげの百瀬が出場してるぞー! あいつはお前と同じような体格だからな。体重別では同じ軽量級だろうぜ」

「押ー忍、全日本のときに宿舎を案内してくれた少年ですか。確か茶帯なんですよね。随分先にいるようだなあ」

「あ? 何言ってんの、糞太郎。東京都大会は体重別全日本への切符が得られる地方大会だぜ。ほとんどが茶帯か黒帯だよ」

「えーー! そうなんですか?」

「おおよ、てめーらみてーな黄色の帯び締めてる奴なんていねーよ。プログラム見ても……5級の黄帯の奴なんていねーな」

「あわわ……」

「いいじゃんかよ。目立って、存分に相馬軍団を売ってきてくれや。ねえ、岩村さん」

相馬は、岩村が命名した『相馬軍団』というネーミングが気に入ったようだ。

「まあ、今回は、ベスト8に入ればいいんだからよ。4人倒せばいいんだよ……とと! ! うおっ! ! こ、こいつはっ! !」

相馬は突然声を上げ、パンフレットを凝視している。

「ど、どうしたんですか? 相馬先輩」

相馬は珍しく固い表情になっていた。

「……太郎よ、てめーが運よく3人倒し、ベスト16に進出したら……」

「したら?」

「次の相手は……五十嵐先輩だ!」

「……へ?……えー! 五十嵐選手ですかあ? ちょっ、3ヶ月前の全日本で第3位の五十嵐選手ですかー! あの不動師範と一時代を作った?」

「残念ながら、その通りだ。あの人は、地方大会だろうが何だろうが、試合があれば出るからな……太郎、ご愁傷様だな」

「あわわわわわ」

太郎は、目の前が真っ暗になったような感覚に陥った。
今までの熾烈極まる稽古は何だったんだ、と。
一段一段階段を上がって行きたかった太郎だったが、気まぐれなレジェンドによって、その堅実な上昇志向は、もろくも崩されようとしていた。

「もう太郎は終わりだからいいや。ロベルトは……お! ロベルトもベスト16でなかなかの奴にぶつかるな」

太郎は、無言で聞いている。

「目黒道場の中条! この頃、体重別全日本中量級で上位に進出してくる奴だ。相手の行動パターンを読み、カウンターで仕留める。冷静沈着で、どんなに自分に流れがあろうとも、決して熱くならない。いけすかねー野郎よ」

「確か、現役の官僚さんなんですよね。凄くクールな感じの」

岩村がバックミラーで相馬を見ながら言った。

「え? 官僚? なんとか省とかの?」

「確か、神覇館空手雑誌に載ってたよ。仕事が忙しくてあまり稽古が出来ないから、物凄く計算して練習してます、って書いてあったなあ」

「そうそう、そーなんだよ! いい訳くせえ、気にいらねえ! ロベ! 中条とぶつかったらぶっ殺せよな!」

「グオー、グオー」

「……てめー、いつまで寝てやがんだ! このでくの坊が! !」

相馬はプログラムを細く丸め、ロベルトの鼻につっこんだ。

「イヂイヂヂヂ、オーノー! !」

 

一行は、都内郊外の会場に着いた。
鼻が真っ赤に染まっているロベルトはまだ眠そうだ。
外は寒かったが、会場内は熱気で暑いくらいだった。

太郎は、入り口に張られているトーナメント表を見た。
ゼッケン96番、最後の番号。
確かに五十嵐徹平の文字が。
太郎は88番で、相馬の言うように、勝ち進めばベスト16、体重別のチケットが掛かっている試合でぶつかる。

太郎は、全日本での五十嵐の戦いを思い出した。
気合と根性で相手をたたみかける。
あの髭面の巨漢、全日本優勝経験もある大阪の下村をもなぎ払った。
今の太郎にはとうてい勝てる相手ではない。
あまり五十嵐との対戦のことは考えないようにした。

太郎は、自分とロベルトがどこでぶつかるか、トーナメント表で線を追った。
ロベルトは79番。
二人は、うまくいけば準々決勝で出会う。
つまり二人とも体重別のチケットが手に入っている状態だ。
だが、それは太郎が五十嵐を、ロベルトが中条を倒せたらの話だ。

 

【東京都大会トーナメント表】

 


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