第37話  先人たちの思い

 

総本山道場の1階の奥にある大広間。
押忍の掛け声とともに、屈強な男たちが部屋から続々と出てくる。

第37回全日本大会後、臨時の全国師範会議が行われていたのである。

 

そこには、板橋道場師範の相馬源五郎と、横浜道場師範の山下の姿もあった。

「いやあ、あっという間に決まったな」

山下は、安堵の表情を浮かべている。

「ああ。全日本王者返り咲きが決め手だったな」

相馬清彦の父、源五郎は腕を組んでうなづいている。

「お前んとこの清彦君も惜しかったな。あれだけ不動を追いつめたんだ。悔しがっているんじゃないのか?」

「いやあ、今回に限っては、勝ち負けはあんまり気にしてないさ。あいつは不動にぞっこんだからな。憧れの先輩と全日本の決勝の舞台で戦えたんだ。負けても、悔しさなんて感じてないんじゃないかな」

 

会議の中で、全日本大会を制した不動暁が副館長に任命された。
実質上の、次期館長に選ばれたのだ。

若干37歳での副館長就任は、異例である。

だが、会議の場では、反対意見はいっさい出ず、満場一致で幕を閉じた。

 

不動は、各テーブルに座っている師範たちに挨拶をしている。
皆、不動副館長に歓迎の様子。

ひと通り挨拶を済ませた不動は、末席にある自席に戻り、置いてあるぬるくなったお茶をすする。

と、総本山同期の野口が近づいてきた。

「よ、副館長」

「おいおい、よせよ。お前まで」

「いやあ、出会った時から凄い奴だと思っていたが、まさか神覇館のナンバー2になっちまうなんてなあ」

「ああ、全くな」

 

不動と野口が談笑していると、出雲と篠が近づいてきた。

「おい! 不動! ちっと面貸せや!」

「押忍」

不動は、出雲と篠に連れて行かれた。
全日本大会前の師範会議の時と同じ光景。

「ま、まさか、正式に副館長に就任したことについて、いちゃもんをつけるつもりでは……」

野口は不安そうな面持ちで不動の後ろ姿を見つめる。
前回の師範会議の時は、個室に呼ばれ、出雲にどなり散らされていた。

野口は助けに入ろうか迷っていたが、足が動かない。
それほど、出雲・篠は別格なのだ。

しばらくすると、出雲と篠が個室から出てきた。
前回のような大声は聞こえてこなかった。

だからこそ、野口は不安になった。

二人が去った後、野口は、個室になだれこむようにして入った。

「おい、不動! 大丈夫か?」

「ああ、野口か」

「一体何を言われたんだ! お、俺に出来ることがあれば、何だって・・・」

「うーん」

野口の言葉に、不動は少し悩ましい表情をしている。
野口には、どんな話し合いがされていたのか、見当もつかない。

「いや、大丈夫だ。心配かけたな」

そういうと、不動は、誰もいなくなった会議室に戻り、パイプ椅子に深く腰掛けた。

「いやー、しかし、疲れたよ。さすがに40近いおじさんに全日本大会はこたえるな」

不動は、深いため息をついて、頭を後ろにそらし、目をつむった。
普段見せたことのない動作に、よほど疲れたんだろうな、と野口は思った。

 


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