第36話  真っ向勝負

 

医務室では、志賀が医者から三位決定戦出場の禁止を言い渡されていた。
辻は、横になっている志賀の肩を、軽くポンポンと叩いた。
すると、志賀の目じりから涙がつたう。

「何故だ。何故、俺は、相馬先輩に勝てないんだ」

辻は志賀の言葉を黙って聞いている。

「天才なんて認めない。まともに稽古だってやってやしなかった。そんな男に俺は、また負けたのか・・・」

「創二、よせ。相馬は強いよ。努力だってしているさ。まあ、お前と相馬には、いろいろと因縁があるんだろうけどさ」

「・・・押忍」

「まあ、ただ、男を下げるような発言はよせ。お前は、もう全日本王者なんだからな」

そう言って、辻は医務室を出て行った。

三位決定戦は、志賀のドクターストップの為、実施されず、五十嵐の不戦勝となった。

決勝戦に向かうべく、不動率いる総本山一向が別館から移動し始めた。
と、その前に相馬が立ちはだかった。

「キヨ」

「不動先輩。ちょっといいっすか?」

相馬は、試合前の不動に話があるようだ。
後ろの方で、太郎がひやひやして見ている。

「相馬!お前はなんて空気の読めない奴だ。これから決勝戦なんだぞ!試合前の不動師範呼びつけるとはなんたる・・・・・・」

血相を変えて声を張り上げる山岸を不動が制止する。

「山岸、いいんだ。キヨ、これから試合だしな。話なら短めで頼むぞ」

相馬は、ふふっと笑った。

「不動先輩、演技が下手ですね」

突然の相馬の言葉に不動の表情が変わった。

「なんのことかな」

「次期館長の座を狙って、全日本大会に出場したんでしょ?」

周りにいる道場生たちがざわめきが起こった。

「・・・さすが、キヨ。よくわかってるじゃないか」

久我や山岸は不安そうに不動を見つめている。

「いつから、権力志向になられたんですかね」

「・・・」

相馬は、暗い雰囲気を打ち壊すように大きく声を上げて笑った。

「うそうそ、不動先輩が自分から館長になりたいなんて思うハズないですからね。本気だと思っちゃった奴もいるかもしんないけど」

黙り込んだ不動に相馬が続ける。

「次期館長になれる器は不動先輩しかいない。それは不動先輩自身もわかっている。しかし、若すぎる。反対意見も多い。と、いうことで、全日本復帰で王者に返り咲き、誰にも文句は言わせない。こんな台本書いてきたんじゃないですか?」

相馬の話に、不動も笑みを浮かべる。

「うーむ、キヨ。お前はやっぱり凄いよ。総本山にいるわけでもないのにな」

「だが、周りに悟らせないように、わざと、選手たちの前で暴言を吐く。昨日のアレね。でも、俺にはあれでわかっちゃいましたよ」

「そうか。演技が下手だな、やはり」

二人は声を上げて笑った。

「だが、キヨ。遠慮はするなよ。それは許さん。全力で立ち向かってこい」

「ふふふ。不動先輩、心配ご無用。俺は、誰が館長になろうが関係ないよ。組織がどうなろうと関係ない。俺が嬉しいのは、不動先輩を倒して全日本王者になれそうだってことですよ。往年の実力が戻っているわけじゃないしね」

「ふっ、キヨ。余計な心配だったな。さすが、私の愛弟子だ」

「それだけ伝えたかったんです。お互い遠慮は無用ってことで」

相馬は、不動に十字を切り、武道場の方へ向かった。

「突然、不動師範が復帰されたのには、そんな理由があったんですねー」

「まあ、俺には関係ねー話だがな」

「不動師範にとっては負けられない戦いですね」

「俺にとってもな。そんな本筋と違う思惑で全日本大会に出場されたらたまらねーぜ。この大会に命掛けてる奴が大勢いるんだ。俺も負けるわけにはいかねーな」

相馬の意外な発言に太郎は驚いた。
他の人のために戦うとは。

会場内にファンファーレが鳴り響く。

『お待たせいたしました。これより、第37回全日本大会決勝戦を始めます!』

檀上の左右には、128人の猛者達の中から勝ち上がってきた最強戦士二人。

『ゼッケン32番、不動暁、総本山!』

不動はゆっくりと檀上に上がり、大きく十字を切る。

『ゼッケン64番、相馬清彦、東京!』

「じゃあ、行ってくるぜ!」

「相馬先輩、頑張って下さい!」

「ファイトネ!相馬先輩!」

太郎とロベルトの見守る中、相馬はさっそうと檀上に上がって行った。
会場のボルテージもかなり高くなってきた。

「不動先輩、師であるあなたと、こんな素晴らしい舞台で戦うことができる。これほど嬉しいことはないっすよ」

不動は相馬の言葉に無言の笑みを返した。

檀上の下では、太郎とロベルトが拳を強く握っている。

「ロベー、ついに決勝戦が始まるぞー。俺たちの先輩が、日本最高峰の舞台で戦うんだぞ。俺たち、スゴイ人に弟子入りしたなあ」

「うん。相馬先輩は絶対勝つヨ」

開始太鼓が鳴らされた。

最初に仕掛けたのは、相馬だった。
しかも真っ向からの突撃だ。

「うわっ、相馬先輩!正面から行ったぞー!」

相馬は大振りの突きを不動目掛けて放つ。
不動は、冷静に突きを捌き、返しの下段蹴りを打ちこむ。
相馬はお構いなしに、突きの連打を放ち続ける。
鉄壁のディフェンスを得意とする不動だったが、鋭い突きの連打に、捌きが間に合わない。

会場内は、相馬の気迫に後押しされる形で、ますます盛り上がる。

「相馬先輩、スゴイ気合いだが、普段の組手とは全く違うよな。決勝戦だから、普段以上の力を出してるのかな?」

上手い組手。
天才的な組手。
そんな風に形容される相馬だが、今回は違う。

正面から、力とスピードで不動に挑んでいる。
不動の下段蹴りによるカウンターで態勢を崩されてもお構いなし。
突きを打ち続ける。

「何で、いつも通りの戦い方をしないんだ。不動師範は相馬先輩よりも一回りも二回りも身体が大きい。しかも、攻撃力、防御力ともに最強クラス。正面突破の組手は分が悪いんじゃないかなあ」

「たぶん、相馬先輩はわざとあんな戦い方してるヨ」

ロベルトは真剣な表情で言った。

「へ?わざと?」

「うん。不動師範は、次のボスになるために、この大会に出てるネ。相馬先輩は、不動師範の事をリスペクトしてる。だから、不動師範に勝たせたいんだヨ」

「で、でも、凄い気迫で戦ってるじゃないか」

「もちろん、手抜きの戦いなんて、相馬先輩のプライドが許さない。だから、不動師範の得意であろう力と力の勝負に出たんだよ。本気でぶつかれるようにネ」

「な、なるへそー!それで不動師範が負けるようなら、館長になる資格は無いってことね。しかし、凄いなロベ。賢いな」

「まあネ」

相馬は、ただやみくもに突きを打ち続けている訳ではなかった。
隙を見て、不動の懐に入り込み、肘を打ち込んだりもする。
捌きのバランスを崩すためだ。
不動は膝で突き放す。
一進一退の打ち合いが続く。

徐々に、相馬の連打に対して、不動は捌きが追い付かなくなってきた。
鉄壁である不動の防御が崩れ始める。

不動は、捌きを止め、攻撃のみに転じた。
とてつもない圧力が相馬を襲う。
しかし、それに屈さず、相馬は正面で耐える。
歯を食いしばるその姿は、相馬らしからぬ感じである。

しかし、後半、両者の攻防に差が生まれてきた。
徐々に相馬の突きの勢いが増し、不動の動きが鈍くなってきた。

「わわ、相馬先輩が押し始めたぞ!ロベっ、時間、タイム、後、どんくらい?」

「オー、残り30セコンド!このまま、止まらなかったら、相馬先輩、チャンピオンだヨ!」

「相馬先輩ー!あと30秒ですよー!」

太郎の声は相馬に届いたようだ。
相馬は歯を食いしばりながらも、口角を上げる。

と、不動は、突然大きく息を吸い込み、手を止めた。
相馬は何かを感じ取ったのだが、攻撃の手を緩めなかった。
攻撃こそ最大の防御。

「おおおお!」

不動は大きな気合いを入れると、大きな拳を相馬のみぞおちにめり込ませた。
攻撃のみを行っていた体勢だったため、その突きに反応できなかった。

相馬から息が漏れる。
間髪入れず、不動は全体重を乗せた右下段蹴りを打ち込む。
重い衝撃を受け、相馬の動きが止まる。
不動は、気合いとともに、右下段を連打する。

相馬は、不動の道着に掴みかかる。

「くそっ、まだか。俺は、不動先輩を超えることはできなかったか」

そのまま、相馬は膝から崩れ落ちた。

副審の四人が白旗を上げる。

「白っ、1,2,3,4,5!下段回し蹴り一本!」

主審による、一本勝ちの宣告。
不動の優勝が決まった。

会場からは割れんばかりの拍手喝采が巻き起こる。

不動は相馬に近づく。

「キヨ!強くなったな。私は嬉しいぞ」

「不動先輩こそ。長いブランクがあったのに。やっぱ、俺の不動先輩は強いや」

不動は少しうつむく。

「・・・・・・キヨ。すまなかったな。その、存分に戦えなかっただろ?」

相馬は笑顔で答えた。

「先輩、俺の、俺らしくない、あの気迫のこもった顔を見なかったんすか?男と男の戦いですよ。俺は、親だって容赦しない。でしょ」

「ふ、そうだな。すまなかった」

檀上を降り、神館長に挨拶をする二人に、会場は惜しみない拍手を送った。

「いやー、ロベ、相馬先輩惜しかったなあ!」

「うん。でも、とてもいい試合だったネ」

いつか自分も、この大舞台に立ちたい。
素直にそう思えた太郎だった。

 

第37回全日本大会結果(5位から8位までは体重の軽い者が上位となる)

 優 勝     不動 暁(37)      総本山 183cm 100kg
 準優勝  相馬 清彦(25) 東京   172cm 75kg
 第3位  五十嵐 徹平(36)熊本   173cm 86kg
 第4位  志賀 創二(22) 神奈川 178cm 83kg
 第5位  辻 巧(29)         神奈川  169cm 70kg
 第6位  山岸 勝信(25) 総本山 180cm 93kg
 第7位  下村 秀樹(29) 大阪    177cm 98kg
 第8位  大岩 和雄(31) 鹿児島 188cm 120kg

 

【第37回全日本大会結果】

 


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