第34話  負けられない戦い

 

準々決勝進出者の紹介が終わると、さっそく試合が始まった。

まずは、前回大会第4位の大岩と、全日本三連覇、元世界王者の不動との戦いだ。
他の選手の試合には、ほとんど興味がない相馬だが、腕組みをしてじっくり観察をする構え。

「今の不動先輩がどんなもんか見るには、いい相手だな。大岩とどんだけやりあえるか見ものだぜ」

「……相馬先輩、大岩選手は相馬先輩よりもかなりベテランなんじゃ」

「それがどうしたよ」

「呼びつけはやばいのでは……」

「糞太郎!俺様が大岩ごときを先輩で呼べるかあ」

「痛たた、押ー忍、失礼しました」

不動の強さは衰えていなかった。
大岩は不動よりも20kgも重い超重量級だが、不動の突き、蹴りで後ろに下がり始める。
開始30秒でその実力の差ははっきりわかった。

「うおー!」

大岩は、突きの連打を繰り出す。
しかし、不動はその全てを捌き、また強烈な下段を放つ。
大岩は膝をついた。

 

下段蹴りによる技あり。
もう、大岩に試合を巻き返す力は残っていない。
さらなる下段による技ありで、不動の合わせ一本勝ちとなった。

「……不動先輩、やるな」

「げげ、あんな大男を下段で葬るなんて」

「凄いパワーダネ」

さすがのロベルトも不動の底知れぬパワーに驚いているようだ。

続くは、五十嵐vs下村。

「相馬先輩と非常に仲の悪い大阪支部の下村選手と、五十嵐選手の戦いですね」

「五十嵐先輩は、不動先輩とともに日本の双璧として、世界でも活躍してきたレジェンドだ。観客も両先輩の一戦を見たいと願っているに違いねー。俺もだがな」

「しかし、下村選手は、前回大会準優勝ですよね。一方、五十嵐選手はここ数年は全日本大会でベスト8にも入れていないようだし」

「太郎よ。男には負けられない時がある。五十嵐先輩はそれを誰よりもわかっている人だ」

相馬は真剣なまなざしで檀上を見つめる。

試合が始まった。
五十嵐の気合の入りようは半端ではなかった。
全身から放たれている気合いは目に見えるようだ。
空手の華麗さはない。
ただ打ち、蹴るのみ。

不動との再戦。

五十嵐は負けられなかった。

実力者の下村であったが、徐々に五十嵐の勢いに飲まれ始める。
満足に技を決める前に、3分が過ぎ、五十嵐が優先勝ちを収めた。
これにより、不動との伝説の一戦が決まった。
会場内からは割れんばかりの大喝采。

全日本大会決勝で3度、世界大会決勝でもぶつかっている両者。
そして、総本山内弟子の先輩と後輩。
神覇館の歴史にあって、これほど確固たるライバル関係もまれであろう。

壇上から五十嵐が降りてきた。

「おう、相馬」

「押忍、五十嵐先輩。やりましたね。不動先輩との試合楽しみにしてます」

「わはは、何言ってんだ、相馬。俺は、お前と山岸の戦いの方が楽しみだがなあ」

「え?」

「俺と不動先輩との戦いよりもよっぽど興味ありだぜ」

五十嵐は楽しそうに笑いながら去って行った。

実は、相馬と山岸の戦いを楽しみにしているのは五十嵐だけではなかった。
相馬のすぐ近くにいる太郎もその一人だった。
檀上で喧嘩が始まるのでは。
太郎はわくわくしてきた。

檀上の反対側で、一人鼻息を荒くしているのは、総本山内弟子の山岸。
先輩の久我、後輩の百瀬、高畑の見守る中、名前を呼ばれ、檀上に躍り出る。
迎え撃つは、相馬清彦。

『ゼッケン65番、相馬清彦、東京!ゼッケン96番、山岸勝信、総本山!』

山岸は檀上に躍り出た。
迎え撃つは相馬清彦。

檀上中央でにらみ合う両者。
会場はヒートアップ。

「ひでー顔だな、山岸よ。俺様の上段回し蹴りで矯正してやろうか?」

「ほざけ、この不良空手家め。顔面を踏みつけられた恨みをここで晴らしてやる」

「あれ、あん時に、そんな面になっちゃったの?俺のせいだったかあ。しかし、10年も前の事よく覚えてるね。もしかして高学歴?」

雑言の応酬を止めない二人に審判が声を上げた。

「こらっ!相馬!山岸!神聖なる試合場で何たる馬鹿騒ぎだ!私語は慎め、礼をとらんか!」

会場はさらに盛り上がる。

「うわわ、相馬先輩、審判に怒られてるう。大丈夫か?」

「大丈夫だよ、相馬先輩は、頭はクールヨ」

開始太鼓が打ち鳴らせれたと同時に、顔を真っ赤にした山岸は相馬に一直線に突っ込む。

山岸は勢いよく大振りに右拳を相馬の胸元に放つ。
しかし、相馬はスルリとかわし、バランスを崩した山岸の死角から、上段回し蹴りを打ち込んだ。
カウンター気味に蹴りを受けた山岸は、顔面から檀上に倒れこんだ。

会場は大騒ぎ。
開始10秒も経たないうちに相馬は一本勝ちを収めた。

ピクリとも動かない山岸は、総本山道場生に囲まれながら担架で運ばれていった。

「ふう。山岸め、俺相手に策もなく突っ込んでくるとは」

相馬はゆっくりと檀上を降りていく。

「相馬先輩、スゴイです!」

「オー、相馬センパイ!ワンダフル!」

「大したことねーよ。それよりも次の試合は見ものだぜ」

準々決勝最後の試合。
辻vs志賀。
二人は神奈川支部横浜道場の先輩・後輩の関係だ。
初の師弟対決となる。

「軽量級最強の辻さんが、全日本王者の志賀とどう戦うのか」

相馬は腕組みをして檀上のそばで仁王立ち。

『ゼッケン97番、辻巧、神奈川!ゼッケン128番、志賀創二、神奈川!』

しかし、名前を呼ばれても辻が壇上に上がってこない。
志賀はうつむきながら檀上に立ち尽くす。
会場はざわめき始める。

しばらくすると、アナウンスが流れ始めた。

『辻選手は、4回戦での負傷によるドクターストップになりました。よって、志賀選手の不戦勝となります』

会場が大きくどよめく。

「ええ、辻選手ドクターストップ!?」

「まあ、あんだけロシア野郎に下段蹴りを受けたんだ。まともに歩けないわな」

相馬の予想通り、辻はイワンから受けた下段蹴りで太もも筋肉を負傷し、身動きがとれない状態になってしまった。

準決勝には、不動、五十嵐、相馬、志賀の四人が進出となった。

 

第37回全日本大会準決勝進出者

32  不動 暁(37)  (183cm・100kg)
33  五十嵐 徹平(36)(173cm・ 85kg)
65  相馬 清彦(25) (172cm・ 75kg)
128 志賀 創二(22) (178cm・ 85kg)

 

【第37回全日本大会途中経過】

 


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