第18話  深夜のラーメン屋

 

夕食を終え、各自部屋に戻っていった。
相馬はシャワーを浴び、ベッドに横になる。
ロベルトに一通りマッサージをやらせると、早々に寝入ってしまった。
よくみると、ロベルトもうつらうつら、船を漕いでいる。

太郎は気づいていた。
段々と相馬の口数が減っていっていることに。

「なんだかんだ言っても、やはりディフェンディングチャンピオンとしてのプレッシャーは感じているんだな」

太郎は、相馬らいる部屋の電気を消すと、カードキーをポケットに入れた。
そして財布や携帯電話を手に取ると部屋の入口に向かった。

「せっかく道頓堀に来たんだし、一人で夜の街を散策してみるかあ。なんかこーゆーのって楽しみだなあ」

ゆっくりと黒のスニーカーのひもを縛る。

「選手としてくることになったら、こんなお気楽なことはできないだろうしな」

そっと、部屋のドアに手をかける。

「だが、相馬先輩に見つかったら半殺しになるかもしれん・・・・・・そーっとね」

その時、太郎は肩を叩かれた。

「ぎゃ……」

叫び声を上げそうになったのを大きな手が塞いだ。

「ノー、タロウ。シズカニネ」

振り向くとロベルトが立っていた。

「ロベか!びっくりさせるなよー」

「ソーリー、タロウ。オデカケネ。イッショネ」

「わかった、わかった」

太郎とロベルトは夜の道頓堀に繰り出すことに。

六月。
大阪の夜は半袖でも大丈夫なくらい生暖かった。
たこ焼き、お好み焼き、鉄板焼き・・・・・・そんな看板が目立つ。
やはり東京とはカラーが違う気がする。

「ああ、そういえば、お金あるかなあ」

肝心な軍資金を確認していなかった。
財布を開けると、2000円しか入っていない。

「これだけかあ。これじゃあ、そんなに食べれないなあ」

太郎は夜の繁華街をきょろきょろしているロベルトに訊ねてみることに。

「ヘイ、ロベルト。マネー、持ってる?」

ロベルトは無言で、両掌を上に持ち上げる。
言っている意味が分からないと言わんばかりに。

「こ、こいつ!絶対理解しているハズ。相変わらず金に関してはすっとぼけるなあ」

そんなロベルトは太郎の肩を叩き、右斜め後方を指さす。
そこには白い建物のラーメン屋があった。

「タロウ、ラーメンタベヨウ」

「ラーメンかあ、いいねー。まあ、そんくらいしか食べられる余裕がないしな」

太郎は、外から店内を除く。
全てカウンター仕様。
行列こそできていないが、席はほぼ満席。

「なるほど。そこそこ期待できる店っぽいな」

「オー、ハイロー」

店に入ると、威勢のいい店員さん達からのお出迎えの声。
入口のすぐそばに券売機がある。

「いろんな種類のラーメンがある訳ではなさそうだな。こーゆー店は逆にうまいんだよ」

「ギャク?ナンノギャク?」

「ん?うーん」

突然のロベルトの質問に戸惑う太郎。

「なしなし、間違い。日本語は難しいんだ」

勉強熱心なロベルトだ。
うかつに適当な発言はできない。

二人ともシンプルなラーメンを選んだ。
店員に案内された席に着いた。
太郎の右隣には、カウンターに突っ伏して寝ている男がいる。
深緑のタンクトップから、凹凸のはっきりした腕が伸びている。
酔っぱらっているのだろうか。
まあ、時間が時間なだけに。
太郎はさして気にしなかった。

「あー、腹減った。楽しみだなロベルト」

「イエース、チョウタノシミダネ」

すると、太郎の右隣の男が突然両手でカウンターを叩いた。

「超楽しみなことあるかい!こっちは命張っとんじゃ!なめとったらあかんぞ!」

「うわっ!」

そして太郎は、この男に胸倉をつかまれた。
男は、酩酊しており、目がすわっている。
モヒカンちっくな短髪。
眉毛は極端に細く、メンチ切りは慣れている様子。
店員さんやお客さんも一斉に太郎らに視線を移す。

「ちょっ、何ですか?」

太郎は怯えながら、口を開く。

「おう、われ!何ですかも、ジンギスカンもあるかい!オドレら俺を舐めとんかっちゅーとんねん」

「あわわ、な、舐めてなんかいませんよー」

「オー、ヨッパライ」

ロベルトの間の抜けた発言に、男はさらに激高した。

「何!何じゃ外人!やっぱし舐めとるんやないかい!おう、外でーや!」

男は太郎の胸倉を掴んだまま立ち上がった。

その男は全体的に細身だが、身長はロベルトと同じく180cmくらいはありそうな大男。

「こちとら、下村の兄貴にどつかれて気ィ立っとんねん!」

兄貴?
これはまずい。
その筋の人かもしれない。
やっぱり大阪の夜は怖い。
後悔する太郎だったが、今さらどうにもならない。
ここはどうにか切り抜けなければ。

「す、すいません。ご機嫌を損ねてしまったのなら謝ります。僕も、こいつも悪気はないんですー!」

太郎は理不尽極まりないと思いながらも謝った。
なによりも周りの人々の視線が痛い。

「おう、そや。悪いことしたら謝らんとあかん」

そう言って、男は手を離した。
太郎は腰からすとんと地べたに落ちた。

「下村の兄貴は俺が謝っても許してはくれへんけどな。俺は広ーい心の持ち主やから許したる」

そう言って、太郎の頭をはたいた。

「おう、親父!ラーメン美味かったで。帰るわ!」

親父と呼べるような年齢の店員はいなかったが、皆ありがとうございましたの合唱。
男は店を出て行った。
ようやく解放された太郎。
しかしほっとしたのもつかの間。
直ぐに怒りが湧き上がってきた。

「何なんだよ、あいつは!俺が何したってゆーのよ!」

「オー、チンピラ、コワイネ」

そう言うロベルトは寸分も腰を動かした形跡はなかった。
やはりこいつは大物だ、と太郎は思った。

「はあ、でも情けないなあ。早く空手で強くなって、今回のような時でも堂々と対応できるようにならないとな」

「タロウ、キニシナイ」

そのあとすぐに太郎らのラーメンが運ばれてきた。
店員は何事もなかったかのよう。
ことなかれは大阪でも通じることのようだ。

「うん、美味い」

あっさししているが、しっかりした味付けのスープに、白菜がマッチしている。

「オー、オイシイ」

「これは忘れられない味になりそうだな」

何はともあれ、大阪の夜を満喫した。
来年は、あずさと来れればいいなあ、と考える太郎だった。

 

【第22回体重別全日本大会トーナメント表】

 


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