第13話  初試合

 

試合場の周りには、空手着を身にまとった男達が集まっている。
男達の視線の先には、大きなホワイトボードがあり、一枚の張り紙がついていた。
よく見ると、それは今大会のトーナメント表だった。
出場選手は、32名。
その表を見て、太郎は声を上げた。

 

【初心者大会トーナメント表】

 

「えええ!俺の番号は、2番。ってことは……第一試合?」

「オー、タロウ、ファースト、ファイト」

ロベルトは、22番で後半。
太郎とぶつかるとすれば決勝だ。

「えー、本当?あー最悪。せめて誰かの試合を見てからが良かったなあ」

トーナメントの名前の横には、所属の道場名が書かれていた。

「相手は、高畑健って人かあ。所属は……総本山?」

太郎の肩に、大きな衝撃が走り、高らかな笑い声が耳をつんざく。

「がははは!太郎、初戦から総本山の選手と当たるとは、運が悪い奴だなあ」

「相馬先輩!まさか、総本山って、先日説明していただいた」

「ああ、神覇館の中心の道場だよ。館長のお膝元。もちろん、稽古内容もハンパじゃねえ」

「げげげのげ!なんと」

「開会式は、番号順に並ぶからな。まあ、相手の面を拝んどくんだな」

太郎の顔から、血の気が引いていく。
半ばロベルトに支えられるように、檀上に上がっていった。

開会式が始まった。
檀上に、32人の空手家達が並ぶ。
ほとんどの選手が青帯を締めている。
オレンジ帯がちらほら。
やはり、白帯は太郎とロベルトだけであった。

そして、太郎の目の前に立つ男。
総本山の高畑。
青帯を締め、微動だにしない。
身長は180cmほど。
髪は短く刈り込まれ、分厚い背中。
太郎は目眩がしてきた。

「こ、こんな奴と殴り合うの、俺?」

『えー、皆さんは、神覇館空手を始められて、日の浅い方々です。本大会は、そんな皆様方のデビュー戦であります。恐らくは、一生の思い出になるかと……』

どこかの師範らしき人物が選手たちに向かって、口上を述べているが、太郎の頭には、ほとんど入ってこなかった。

開会式が終わり、檀上から降りると、板橋道場の面々が太郎を待ち受けていた。
太郎の青い顔を見た相馬は、太郎の肩に腕を回した。

「なんだあ、太郎!もうすぐ試合が始まるぞ。相手がデカブツ野郎だろうが、総本山だろうが関係ねーだろが!」

「お、押忍」

相馬は太郎の耳元に口を近づける。

「いいか、太郎。確かに相手はでかい。しかも総本山。間違いなく強敵だ。おそらくパワーで押しまくってくるハズだ。だが、てめーは今までの練習通りでいいんだ。敵をビックミットだと思って突きと蹴りを出し続けるんだ。3分で終わる。頑張れ!」

「……押忍」

『まもなく試合を開始いたします。ゼッケン1番から8番までの選手は、檀上横にお集まりください』

会場内にアナウンスが流れる。
時は来た。

「太郎君。眼鏡持っててあげるよ」

優しい笑顔をたたえた岩村が太郎に手を差し出す。

「お、押忍。恐縮です。ありがとうございます」

太郎は眼鏡を岩村に手渡す。
太郎はかなりの近視だ。
眼鏡を外すと、すさまじく視界がぼやける。
こんなことなら、もうちょっと前に外しておくべきだったと後悔する太郎。

自身なさげな太郎に、あずさが近づく。

「水河さん。お兄ちゃんの稽古を信じて!きっと勝てるよ!」

あずさの言葉を聞いて、太郎の目が少し輝いた。
そうだ、やるしかない。

「押忍。頑張ります」

檀上に審判団が上がっていく。
審判は、主審が1人。
副審が試合場の四隅に4人。
一本勝ちでなければ、この5人の判定になる。
3人以上に優勢と認められれば優勢勝ち。

番号の大きい選手には、赤いヒモが腰に巻かれる。
ゼッケン2番の太郎の腰には赤いヒモが巻かれた。
審判は白と赤の旗を持っており、赤が上がれば太郎が優勢と認められたことになる。

『では、これより試合を開始します。ゼッケン1番、高畑選手。ゼッケン2番、水河選手』

「押忍!」

檀上の反対側からは、高畑が大きな気合いを入れて上がる。

「よっしゃ太郎!ぶちのめせ!」

相馬は、太郎の背中を叩いた。

「押ー忍!」

太郎も、高畑の気合いに負けないような大声を上げて檀上に上がった。

「正面に礼!審判に礼!お互いに礼!」

号令に従い、まずは正面、主催者が座っている方に礼、腕で十字を切る。
そして、主審に礼をし、相手に礼をする。

「構えてー、始めい」

ついに、太郎の初試合が始まった。
太郎は高畑をビックミットを思い、突きの連打をしかけようとしたが、先に動いたのは高畑だった。
敵の突きが太郎の胸元目がけて飛んできた。
一発で体勢が崩れてしまった。

「う、しまった」

「おあー!」

高畑は気合い十分の突きの連打で太郎に襲い掛かる。
太郎は下がり続けて、試合場の白線の外に押し出された。

「待て!」

そう主審に言われ、太郎は試合場の開始線に戻るように促される。

「太郎!大丈夫だ!今のうちに息を整えろ!」

相馬の声に従い、太郎は深く息を吐き出す。
しかし、なかなか呼吸が元に戻らない。
高畑に攻められた胸元がじんじん痛む。

「よし、構えてー、続行!」

「ああー!」

高畑は変わらず、気合十分の突きを太郎に浴びせる。

「うおー、あー」

太郎も大声を出して応戦しようとする。

「太郎!そうだ、負けんなー!」

「水河さん、頑張って-!」

相馬や、あずさの応援を受けて反撃に出たい太郎だが、高畑の重い突きの連打で、態勢が整わない。
突きが打てない。

「しっ!」

高畑は、突きに続いて強烈な下段を打ち始める。
下段蹴りなどまともに喰らったことのない太郎は衝撃を受けた。
重い。

これが下段蹴りの威力。
道場のスパーリングで受けていたものとは、訳が違う。
相馬曰く、入門1年以内の雑魚共にはダメージを与えられる技は無いはずだったが、体格差のある高畑の下段蹴りは強烈だった。

試合の終了太鼓が鳴らされた。
どうやら、3分の本戦が終わったようだった。

二人は試合の開始線に戻された。
ここで、正面を向いて、自然体で判定を待つ。
息が上がっている状態で、背筋を伸ばしておくのは辛い。

「それでは、判定をお願いします。判定っ!」

主審の号令の後、笛の音と同時に四隅の副審が旗を揚げた。
全員が白旗を挙げている。

「白、1、2、3、4、5……白!」

主審を含めて、全員が白。
高畑の勝利、太郎の敗北が決まった。

「正面に礼!主審に礼!お互いに礼!」

礼の後、笑顔の高畑と握手を交わし、檀上を降りる。
太郎に笑顔はない。

太郎は、応援してくれた相馬達のところに向かう。

「すいませんでした。負けてしまいました」

相馬は、太郎の肩をポンポンと軽く叩く。

「まあ、最初だからあんなもんか」

「タロウ、ナイスファイト!」

ロベルトは大きく首を縦に振っている。

「水河さん、お疲れ様」

あずさの言葉を聞くと、太郎は皆の前ではばからずに泣き出した。

太郎のデビュー戦は、黒星となった。

 

 【初心者大会途中経過】

 


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