第198話 (最終話)  月の光の下で

 

会場がどよめく。

太郎は倒れたまま、ピクリとも動かない。

医務スタッフが駆け付ける。

 

主審は不動に判断を仰ぐ。

「館長。判定はどうすれば。行った後で、水河を運びますか?」

不動は、壇上に倒れた太郎を見つめある言葉を思い出していた。

それは、神が亡くなる5年ほど前。

次期館長を打診された時のことだ。

空手談義に華が咲き、いつしか話は勝敗の決し方に及んだ。

 

―――――結局な、男と男の勝敗なんてのはな、途中経過なんてのは関係ないんだな。最後に立ってる奴が勝ちなんだよ

 

「……神館長。それで宜しいですね」

不動は、審判を元の位置に戻し、マイクを取った。

会場の全員の視線が壇上の正面、執行席の不動に向けられた。

 

『会場の皆さま……ご覧いただきましたとおり、素晴らしい……史上最高の戦いが繰り広げられました。まさに心に残る。魂の戦い。私自身、熱く胸を打たれました。しかし、見てのとおり、水河選手は、試合後意識を失い、今、壇上に倒れております。この後、すぐに医務室に運ばねばならぬため、結論を急ぎます』

会場が水を打ったように静まり返る。

『今亡き先代館長神の言葉にありました。勝負は……最後まで立っている者が勝者であると! 』

どよめきが起こる。

『よって私、館長である不動の裁定によりまして……第10回世界大会の優勝者は、256人の死闘の末、最後まで試合場に立ち残っている、レオナルド・フェルナンデス選手に決したいと思います! 』

会場からざわめきが起こり、そして大きな拍手に変わって行った。

不動は、ゆっくりとマイクを机に置いた。

「水河・・・・・・よくやった。素晴らしかったぞ」

 

主審は、レオナルドの勝利を宣言した。

そして、すばやく医務スタッフが壇上に上がり、太郎をそっと担架に乗せる。

あずさは壇上に上がり、太郎のそばに駆け寄った。

相馬やロベルト、森、中条も太郎の元へ。

しかし、太郎の目は閉じられたままだ。
あずさは、そっと太郎の頬に手を添える。

「タロちゃん……」

医務スタッフ達は、素早く、しかし太郎の横たわる担架を揺らさないように、医務室へ向かった。

 

壇上から降りたレオナルドは、中央にいる不動の所へ行き、握手を交わす。

不動は、複雑な表情を浮かべるレオナルドの肩に手を置き、何度かうなづいて見せた。
レオナルドは軽く会釈し、大騒ぎのブラジル支部の道場生達の所へ戻っていった。

 

 

医務室の外には、太郎に縁のある人々がたくさん集まっていた。

医務室から出て来た看護師によると、太郎は命に別条は無く、安静にしていれば大丈夫ということだった。
それを聞いて一同胸をなでおろした。

「うーし! 皆さん方よ、太郎の野郎は安心のようだぜ。そろそろ表彰式が始まるからよ。会場に戻ろうじゃねーか」

相馬は皆を医務室の外から会場へ促した。

「ロベ、森、行こうか」

相馬は、医務室の外にいるあずさに声を掛けた。

「あずさ……お前は太郎を見てやっててくれ。俺が奴の代わりに準優勝のトロフィーを受け取っとくからよ」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

「……おう」

相馬は頭を軽くかき、ロベルトと森と会場へ向かった。

 

あずさはそっと医務室の中へ入った。

ベッドには太郎が横たわり、となりには、以前も太郎が運ばれた時に診てくれていた白髪の優しげな医者が立っていた。

「ありゃ、あんた、どっかで……ありゃりゃ、そういやこの患者さんも以前に」

「また、診てもらっちゃったみたいですね」

「ははは。まあ、今は眠っているだけですよ。私は近くの部屋にいますんで、あなたはここにいてもいいですよ」

「ありがとうございます」

医者は部屋を出て行った。

 

「タロちゃん……頑張ったね」

あずさは太郎の頭をそっとなでる。

と、あずさは部屋のドアを閉め、明りを消した。

「停電の時の……キラキラは、無いか。なんだったんだろ?」

暗い部屋の窓から満月の月明かりが煌々と差しこんでいた。

あずさは、ベッドの隣の椅子に腰かけ、太郎の両手を握る。

「ゆっくり寝てていいよ。起きたら、いろんなお話しようね。ありがとう」

あずさの背中がぼんやりと光り輝き、そしてゆっくりと消えていった。

満月は二人を優しい光で包みこんでいた。

 

      おしまい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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