第197話  戦いの果て

 

延長戦はお互いに技ありを取り合う凄まじい戦いであった。

判定は、0-0の引き分け。

決着は、再延長戦にもつれ込んだ。

 

太郎は、壇上に飛び上がってから頭をゆっくりと動かしながらレオナルドを見つめ続けている。

 

主審もこのまま試合を初めていいものかどうか迷っていた。

壇上の下、中央の席に座る不動に目配せをしたが、不動は軽くうなづいた。
不動は続行の意思と汲み、再延長戦が始まった。

 

太鼓が打ち鳴らされると、太郎は、一直線にレオナルドに向かっていった。

「おおおおおお!」

太郎は、大声を上げながら、レオナルドに突きや蹴りを浴びせる。

 

 

森は不安そうな顔で二人の戦いを見つめている。

「お、同じだ……」

「何が同じなんだよ、森!」

相馬が森に詰め寄る。

「ふ、二日目のアルベルト戦の後と同じなんです。ああやって、奇声を上げて、暴れまくる」

「しかも数時間もな」

「うおっ、中条!」

中条は腕を組みながら、メガネをくいと上げる。

「総本山の裏山の樹木に突きや蹴りを打ち続けていたんだ。4人がかりでやっと止めることが出来た」

「一体太郎はどうなっちまったんだ?」

相馬が唇をかむ。

あずさも両手を握ったまま、試合を直視している。

「タロちゃん……」

 

太郎は、レオナルドの攻撃をものともせずに突きや蹴りを放ち続ける。

レオナルドは、強引に膝蹴りや前蹴りで距離を取ろうとするが、太郎は、瞬時にレオナルドの横に回り込み、死角から攻撃を仕掛ける。

 

 

「しかし……あのレオナルド相手に、ここまでやる者が出ようとは」

太郎とレオナルドの死闘に見入る不動の肩を叩く男がいた。

隠岐だ。

「よお、不動!」

「お、隠岐先輩!」

「ああ、すまない。今は二代目館長様だったかな?」

「よして下さいよ、先輩」

隠岐は不動の横に中腰になり、壇上に目を向ける。

「どうだい、俺の弟子は? いや、相馬の弟子か。俺はあんまり教えてないからな」

「いや、隠岐先輩らしさが存分に活かされているじゃありませんか。あの、動き、パワー、そして鬼気迫る表情。隠岐先輩直伝の限界を超越した稽古を叩きこまれたんでしょ?」

「ふふ」

隠岐は無精髭を撫でた。

「実際、太郎の奴は凄かったぜ。俺の課した課題を全てこなしたからな……ただ」

「ただ?」

「……いや、何でもないさ」

 

「グオオオオ!」

レオナルドは大きな気合とともに、太郎の突きに割って入り、強烈な連打を太郎に叩きこむ。
誰も見たことがない、レオナルドの表情。

ついに太郎はレオナルドの本気を引きだしたのだ。

まるでライオンのような迫力の攻撃に、会場も言葉を失っていった。

しかし、レオナルドの猛攻をもひとまわり上回る太郎の動き。

段々と、その差は広がっていった。

太郎の動きは徐々に上がって行った。

もはや誰の目にも太郎優勢は明らかだ。

 

「再延長も残り僅か。今からレオナルドが逆転するのは不可能でしょうね」

不動は目の前の光景に信じられないような顔で話す。

「ああ。さすがのレオナルドも万策尽きたろ。自慢の超強烈な蹴りも全て岩のように硬いガードが待ってるからな」

「それも先輩の指導ですか?」

「いや、自分でだろ。それに、奴には相馬っていう師匠だいたんだ。相馬は試合に勝つ為の理論は半端ないからな。そんな実践的な考え方からあみだして鍛えてたんだろ。俺が教えたのは超人になるための方法だけだ。それに相馬の理論、テクニックが加わってんだから敵わねえな」

「キヨか……」

「不動よ。会場の外には救急車配備してんだろ?」

「ええ、3台呼んでありましたが……あと1台残ってますよ。ですが、二人とも運ばれるようなことは無いんじゃないですか?」

「……そうだな」

「何か心配がおありですか?」

「……まあ、なんかあったら宜しく頼むわ」

そう言うと隠岐は去って行った。

 

 

太郎の優勢のまま、再延長戦の終了太鼓が打ち鳴らされた。

太郎にはその音が聞こえていないらしく、まだ打ち続けている。
レオナルドは太郎をきつく、抱き締めた。

「O tempo feliz acabou! (楽しい時間は終わったぞ)」

しばらくして、太郎は落ち着きを取り戻し始めた。

「……あ……」

太郎は、ゆっくりと中央線に戻っていった。

「お、終わったのか……」

 

 

相馬やロベルトは深いため息をついた。

「ふあー、あの野郎……やりやがった。やりやがったー!」

相馬は両手を上げて喜んだ。

そんな相馬の行動を見たことのなかった板橋道場生達は、大きく笑った。

「太郎……やった。世界一だ……」

ロベルトの目にも涙が溢れている。

「太郎先輩……凄い……凄いです!」

森は歓喜の表情でその場に立ちつくす。

 

『それでは、判定を行います! 』

 

主審が判定を行う。

太郎は、視線をゆっくりと壇上の下に向けると、知っている顔が並んでいる。

そして、あずさの笑顔が見えた。

「あ、あずさ先輩……笑ってる。お、終わったんだ」

太郎は、あずさと目を合わせ、笑いながらその場に倒れこんだ。

 


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