第196話  一進一退

 

本戦の終了太鼓が鳴り響く。

観客の全員が、ふうっと一息を入れ、椅子に座り直す。
それほどまでに息つく暇のない戦いであった。

主審の号令の元、判定が行われる。

0-0の引き分け。

しかしながら、太郎は王者レオナルドと同等以上の戦いを繰り広げているのは、誰の目からも明らかだった。

会場は、どよめきに包まれた。

二人とも肩で息をしている。
だが表情には疲れは出ていない。

レオナルドは、頬を伝う汗を袖で拭い、天井を仰いで目をつむった。

 

延長戦が始まった。

レオナルドは初めて自分から襲いかかってきた。

大きな拳が太郎の胸に突きささる。

この高さの突きには肘ブロックは効かない。

そして強烈な前蹴り。

太郎は思わず息が漏れる。

「(く、苦しい。何て攻撃力だ。何だか、段々と、レオナルドのパワーが上がっていくような)」

レオナルドは、下がり始めた太郎を逃すまいと素早く太郎の周りを動きながら、下段蹴りを浴びせて行く。太郎の動きが明らかに鈍くなり始めた。

 

「ああ!  太郎先輩!」

「あいつの下段は、バットや鉄パイプ以上かよ!」

相馬や森も表情が曇る。

 

レオナルドは大きな気合と共に、左足を強く踏ん張り、渾身の下段を放ってきた。

「何度も……何度も、同じ技ばかり出しやがって!」

太郎は、レオナルドの軸足の踏ん張っている左太ももに自分の左足を乗せた。

そして、そのレオナルドの太ももの上で、太郎は左足を軸とし、半円を描くように、右の上段回し蹴りをレオナルドの頭上に落下させた。

その蹴り足はレオナルドの顔面に直撃し、なんとレオナルドは一瞬意識を失い、膝をついた。

会場は、いままでなかったような歓声が上がる。あの最強王者が膝をついた。

太郎の奇襲の上段回し蹴りは、技ありとなった。

かつて、レオナルドから技ありを奪った選手はいない。

 

信じられない事態にブラジル陣営も焦りの色を隠せない。

『レ、レオナルドが、膝をついただと……』

ヴィクトールは手で顔を覆う。

『レオナルド!  気にするな!  一気に決めに行け!  水河の足はもう駄目だ! 』

レオナルドの先輩のカルロは大声を上げる。

 

この光景には、相馬も言葉を失っている。

「まじかよ……太郎の野郎……・やりやがった!」

「オー!  太郎!  残り一分だヨー!  後、一分で世界王者だー!」

ロベルトは壇上を強く叩く。

 

技ありをとられたレオナルドは涼しい顔で構え直す。

太郎は、気付いた。涼しすぎる。
落ち着いてい過ぎる。

「(こ、これは、追い詰められているのは、俺の方じゃ……)」

太郎は、自分の足の感覚を確かめる。
痛みだ。
尋常じゃない痛み。

それに、止まらない震え。

「(やばい……これはやばいぞ。これ以上、レオナルドの破壊力抜群の攻撃を受けたら……死ぬかも)」

太郎は、気付き始めていた。

自分の身体が悲鳴を上げていることに。

隠岐によってまさに超人と言えるレベルにまで昇りつめた太郎であったが、レオナルドもまた人間離れした男だ。

「(どうする? 逃げるか? あと一分、奴の周りを回り続けるか?)」

レオナルドはゆっくりと間合いを詰めて来た。

「(無理だ。奴がそれを許す訳はない。と、すれば、俺が出来ることは……)」

レオナルドは一気に距離を詰めて来た。

「死ぬ気でぶつかることだけだー!」

太郎もレオナルドに正面から突っ込んで行った。

と、レオナルドは瞬時に身体を回転させ、後ろ回し蹴りを放った。
蹴り足は太郎のこめかみに強烈なカウンターとしてめり込んだ。

会場には鈍い音が響いた。

太郎は、身体ごと回転し、壇上の下にふっ飛んでしまった。

太郎は、あずさや相馬らのすぐ近くに倒れた。

「タロちゃーん!」

あずさが悲鳴を上げる。

「太郎!  やばいぞ!  担架だっ!  すぐに担架持って来ーい!」

相馬も青ざめた表情で、声を上げる。

「オー!  太郎!」

ロベルトが太郎を抱きかかえようとした時、太郎は両手を頭の後ろに突け、勢いをつけて飛び起きた。

そして、すぐに壇上に飛び上がった。

 

審判達は、レオナルドの技ありとした。

太郎は、構えもせず、うつろな目でレオナルドを見つめている。
そして、延長戦終了の太鼓が鳴り響いた。

 

第10回世界大会途中経過

 


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