第195話  最後の決戦

 

二人の男が壇上で正面を見据え、自然体で立つ。たくさんのフラッシュが二人に浴びせられる。

最強の男、レオナルド・フェルナンデスは三度、この世界最高の舞台へ上がってきた。

そして、誰が予想しただろうか。
レオナルドと世界一を競うその男を。

身長164cm、体重69kgの小さな戦士、水河太郎。
太郎本人も今、ここに立っていることをまだ実感出来ないでいる。

 

『お互いに、構えてー……始めい! 』

 

太鼓が大きく打ち鳴らされた。

ついに決勝戦が始まる。

褐色の肌に大きな瞳。
短い黒髪は後ろに逆立っている。

構えはオーソドックスに両ひじを曲げ、半身を切っている。
僅かなスキも無い。
静かで、おおらかだ。

重厚な空間。

「(やばいぜ、レオナルド。今までの空手家とは段違いだ。何だ、この歪んだ空間は。呑みこまれそうだ。崖っぷちから海を見下ろしているような……本能が言ってる。一歩、踏み出せば……)」

先に打ってきたのは、レオナルドだった。

大きく左足を踏み込み、大きな抱え込みから右中段回し蹴りを打って来た。
太郎は、両腕でガードするが、身体が後ろに吹き飛んだ。

しかし、倒れるのは堪えた。
会場からは大きなどよめきが起こった。

 

「レオナルドの野郎。あんな蹴り、見たことねーぞ!」

相馬の頬に汗が伝う。

「最後。兄さんは最後の戦いをしようとしている」

ロベルトは拳を強く握り締める。

 

太郎は、態勢を立て直した。

道着を直し、帯を締め直す。
ゆっくりと構え、動揺を悟られないようにした。

「(凄い!  なんて蹴りだ。その辺の電信柱ならなぎ倒しそうな破壊力じゃないか)」

太郎は、腕を軽く、回した。

「(だが、大丈夫。ダメージは無い。森から木製バットフルスイングを散々喰らってきたからな。一発や二発じゃ折れたりしないぞ)」

すかさず、レオナルドの第二打が飛んで来た。

またも太郎は、固く両腕でガードする。
しかし今度は足を踏ん張り、その場で耐えた。

「(……でも、三発四発喰らったらやばいかも)」

レオナルドは、再度中段蹴りを放ってきた。

太郎は今度は、目を見開き腰を落した。

と、いままでのように音は響き渡らず、何と、レオナルドが数歩下がった。

会場からはどよめきが起こった。レオナルドが下がったのだ。

 

「オー!  兄さんが下がった!」

「太郎の野郎……まさか」

「相馬先輩は、今、何が起こったか分かったの?」

「ああ。肘ガードだ。太郎は、レオナルドの蹴りを肘でブロックしたんだ。蹴ったレオナルドの方がダメージを負ったって訳だ」

「肘? でも、そんなことしたら太郎の肘だって……」

「押忍、大丈夫です」

相馬とロベルトの後ろにいた森が口を開いた。

「おう、太郎の弟子の森じゃねーか!  何が大丈夫なんだ?」

「太郎先輩の肘は、とんでもなく固く強いんです。なんせ僕のバットフルスイングを毎日受け続けて来たんですから」

「オー!  太郎はそんな稽古を」

「なるほど。確かに太郎のように身体が小せー野郎は、相手の力を利用するのがいいかもな。相手が強ければ強いほど、その効果がある」

「でも、兄さんの攻撃も半端じゃないヨ」

「どっちが先にぶっ壊れるかだな」

 

「(これが俺にとって最後の試合だ!  身体がどうなろうと構わないさ! )」

太郎は、大きく一歩を踏み出し、レオナルドの懐に入り込み、渾身の右一本拳をあばらに叩きつけた。

レオナルドは、すばやく太郎の脇目がけてフック気味に突きは打ち込むが、またしても太郎の肘のブロックに合い、レオナルドは顔を歪めた。

太郎は百烈拳を放ち、前蹴りをレオナルドの胸元に突きさす。
レオナルドの強烈な下段蹴りを飛んで避け、着地と同時に飛び後ろ蹴りを放つ。

一瞬たりとも目が離せない攻防に会場はヒートアップしていく。
あの小さな選手が、レオナルド相手に互角以上の試合展開を見せているのだから。

 

「凄い……凄い……太郎先輩ー!」

一緒に汗水垂らして稽古に励んできた森は、食い入るように試合を見る。

 

相馬も壇上に拳を叩きつけ、昂奮している。

「太郎の野郎。うまい!  強烈だが、手数が少ないレオナルドの攻撃に全てダメージを喰らわせて返してやがる!」

「兄さん……」

ロベルトは試合を見ながら、何かを思い出していた。

 

『兄さん。いつも、満月に何をお願いしているのさ』

『……強い男に合わせてくれ、とな』

『でも、兄さんは、隠岐って人や不動って人に負けてるじゃあないか』

『勝ち負けではないんだ。私が満足出来ていなければ駄目なんだ』

『ふーん。良くわかんないや』

『ロベルト。私が満月に願い事をしているなんて、誰にも言うなよ』

『……ごめん。この前、道場生のヴィクトールにしゃべっちゃった』

『ふっ、参ったな』

 

「兄さん、どうだい? 太郎は、兄さんの求めていた男だろ」

 

第10回世界大会途中経過

 


NEXT → 第196話  一進一退 へ


BACK ← 第194話  満月への願い へ


 

サブコンテンツ

このページの先頭へ