第194話  満月への願い

 

太郎は、あずさと試合場にやってきた。

太郎は、試合場を見て唖然とした。

「あれ? 何で相馬先輩とロべが戦ってんだ?」

森が太郎に説明する。

太郎は驚く。

「えー!  そ、相馬先輩……」

 

太郎の出現に気付いた正宗は、終了をアナウンスする。

『えー、ではこれで、相馬テクニック集を終わります! 』

壇上で相馬が叫ぶ。

「あの糞芸人め!  『二度と拝めない相馬スペシャルテクニック』だろうが!」

「オー!  相馬先輩、太郎が来たみたいだよ」

「む!  あの野郎!  俺様にこんなことやらせやがって!」

「相馬先輩、結構楽しんでたんじゃ……」

「うるせー!」

相馬はロベルトにゲンコツをくらわした。
会場から笑いが起こる。

 

 

「糞太郎!  てめー遅せーんだよー!」

相馬は太郎にもゲンコツをくらわした。

「お、押ー忍!  失礼しましたー!」

「みんな待ってたんだぞ!」

太郎は周りを見渡す。

板橋道場の皆がいる。

相馬が、美雪が、岩村が。

そして、森が。

「皆さん……」

「太郎、頑張ってネ!」

「え?」

横を向くと、ロベルトが立っている。

「ロベ……いいのか、兄ちゃんの応援しないで?」

「オー太郎!  太郎の応援するに決まってるジャン!  何年間一緒に稽古してきたと思ってるの?」

「ロベ……ありがとう」

「水河俺達も忘れんなよ」

「え?」

総本山の山岸、高畑、百瀬、松崎、そして横浜道場の志賀、辻、大阪の下村や宮路、それに山城や青山、津川など、太郎と戦ってきた男達が集結している。

中条が太郎に話しかける。

「太郎よ。12年振りの日本人の世界大会決勝戦進出だ。皆で応援させてくれ」

「中条さん……」

「太郎、お前の応援をしに来てくれたのはこいつらだけじゃないぞ」

相馬に言われ、後ろを見ると、見覚えのある二人が。

「あれー? マスター!  郁美ちゃん!」

「ふふ。太郎君、君って奴はたいした男だ」

「太郎先生、頑張ってね」

「わざわざ応援に……ありがとうございます」

 

 

ファンファーレが鳴り響く。

ついに決勝戦が始まる。

「タロちゃん、無事に帰ってきて。それだけ、それだけでいいから」

「あずさ先輩……行ってきます!」

 

 

太郎は、壇上の階段の下に立つ。

 

『えー、長らくお待たせいたしました。これより、第10回世界大会決勝戦を始めます』

 

太郎は、ふっと一息つき、帯をきつく締める。

 

『ゼッケン56番、水河太郎、日本!  Number 56 Taro Mizukawa in Japan! 』

 

太郎は、壇上への階段をゆっくりと上がる。

 

『ゼッケン256番、レ……レオ……ビビ……』

 

と、突然マイクの調子が悪くなった。
すると、太郎の脳裏にあるシーンが思い出された。

「(何だ……どこかで……どこかで、こんなことが……既視感が……)」

壇上に上がると、太郎は身体から何かが抜けて行くような感覚に襲われた。

何か、背中を支えていたものが無くなっていくような。

 

―――――……ビビ、本日……館で行われた……限界……、ガガ、なんと……達成しました。……レオナ…ド…病院に……

 

「はっ!」

太郎が何か思いだした途端、会場の電気が全て消えてしまった。

武道場は真っ暗闇に包まれた。

会場はざわめきに包まれる。

と、一か所だけ明るいところが。
窓から見える満月だ。

もう夜になっていたらしい。

 

あずさは、暗闇の中に何かが見えるような気がした。

「あれ、タロちゃんの背中に……何か……」

「どうしたの、あずさ?」

美雪があずさに聞く。

すぐに会場の電気は復旧し、また明るくなった。
会場のざわめきも収まった。

「あ、電気戻ったみたいね。何だったのかしら、ね。さっき、あずさ、どうしたの?」

「ううん。なんか、タロちゃんの背中にキラキラした……光のようなものが見えた気がしたの。何かがタロちゃんの身体から出ていくような……」

 

『ゼッケン256番、レオナルド・フェルナンデス、ブラジル!  Number 256 Leonard Ferunnandesu in Brazil! 』

 

 

月よ……今宵は、なおも美しい……その美を讃えよう

あの果てなき兵達をもってしても癒えぬのだ

月よ……満月よ……我は欲する……強き者を

 

 

―――――兄さんは、いつも満月になると、何か月にお願いごとをしていたんだ。

 

 

「(満月の夜……相馬先輩に出会った。そして、あずさ先輩に、ロベルトに、志賀に出会った。空手から離れたこともあった。もう交わることもないほどに。それでも、俺は、ここに立っている。何かに誘われるように。何かに背中を押されていた。そして今、それが失われていくような……)」

壇上に世界最強の男が上がってくる。

その顔はいままで見せたことのない、何か満足気な表情だった。

 

「……あなたが呼んだのか? 俺を、ここに」

「Eu esperei(待っていたぞ)」

 

太郎の最後の戦いが始まる。

 

第10回世界大会途中経過

 


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