第193話  演武

 

「と、言う訳なんだよ」

「うーむ」

大会幹部席の中央に座る、不動の元に野口が相談に来ていた。

「準決勝を終えて、すぐに第三位決定戦を行うわけにもいかんしな。よし、私が演武をしよう」

「え? 不動、本気か?」

「ああ。バットや板は腐るほどあるんだろ?」

「おお!  不動館長自ら演武とは、これは盛り上がるぞ!」

「ふふ、久しぶりの演武だ。うまくいくかは知らんぞ」

「しかし、出雲師範や篠師範にはまいったよ。まあ、氷割ったのは、こちらのミスだが」

「野口、両師範を悪く言ってくれるな。私の二代目襲名の後の混乱を避ける為に全国を飛び回ってくれたんだからな」

「え? 本当か? そもそもあの師範達が不動の二代目に反対したんじゃなかったか?」

「いや、師範達は自分を推してくれたんだよ。だが、実力者には媚びる者が必ず出てくる。あの師範達にもそういった者達がいたんだ。その手前、皆の前では反対をしたんだ。まあ、ガス抜きをしてくれたんだな。私は、両師範には感謝してもしきれんよ」

「はあ、わからんもんだなあ。さすがは神覇館を引っ張ってくれた方達だ」

「さて、では用意するか」

「おお、頼む」

 

プログラムになかった不動の演武に会場は盛り上がった。

動き、キレ、力強さ。
若き二代目の頼もしさを全世界の道場生達に示すことが出来た。

 

そして、第三位決定戦が始まろうとしていた。

壇上の双方にはアメリカ支部の道場生達が集まっている。

大勢のアメリカ道場生達がおり、ロベルトに声を掛けることが出来ない、太郎と相馬。

「相馬先輩……どうしましょうか」

「ふん。まあいいさ。それより、お前は次だぞ!  ウォーミングアップでもしとらんかい!  そこに森が待ってんぞ!」

横を見ると、森が立っている。

「押忍。太郎先輩、軽くスパーでもしときますか? それともマッサージでも?」

「……お前は、俺の嫁さんか?」

笑いが起こる板橋道場の面々。

と、太郎の目に飛び込んできたのは。

「え……え?」

それは、武道場の上の方。
三階席の上の狭い部分。

間違いない。

「(あ、あずさ先輩……いたんだ。あの場所にいるんだ! )」

「おい!  太郎!」

太郎は、相馬の声にハッと振り向いた。

「行ってやれよ!  決勝まで時間ねーぞ!」

「え、え、そ、相馬先輩……」

「ぐしゃぐしゃ言ってねえで、行けやー!  お前のもんにするんだろーがー!」

「あ……」

相馬は太郎の尻を蹴りあげた。

「お、押ー忍!  行ってまいりますー!」

太郎は駆け出した。

「ちっ!  世話の掛かる野郎だ」

「あれー、いいのキヨ」

美雪がいたずらな笑顔を見せる。

「う、うるせー!」

 

 

太郎は、ロビーを走る、観客席を横切る、階段を駆け上がる。

「あの時、相馬先輩は、あの場所にいた。俺とあずさ先輩との約束を聞いていたんだ。聞いていたのはロベルトだけじゃなかったんだ。もしかしたら、ずっと前から、知っていたのかも……」

 

ロベルトとマイケルとのアメリカ支部同士の対決は、白熱した戦いになった。

お互い、戦いを楽しんでいるようだった。
マイケルは豹変をすることもなかった。

本戦の3分間で決着がついた。
ロベルトの優勢勝ちだった。

会場からは大きな拍手が起こった。
壇上で抱き合い、二人はアメリカ支部の道場生達から胴上げを受けた。

その後、アメリカ支部の面々と談笑するロベルトと、試合場の反対側にいた相馬は一瞬目が合ったが、ロベルトは目を伏せてしまった。
それにマイケルが気付いた。

「ロベルト。いいのかよ。お師匠さんが向こうにいるぜ」

「うん……でも、合わせる顔が無いよ」

「何言ってんだよ。あの人に教わった空手で世界第3位になったんだぞ。この俺様を倒してだ。胸張って会ってこいよ!」

「……」

ロベルトはうつむいたままだった。

 

 

会場にファンファーレが鳴り響く。
ついに、第10回世界大会の決勝戦が始まる。

アナウンスの正宗は、決勝戦の案内をしようとしたが、太郎が試合場の下にいないことに気付いた。

「あれ……太郎先輩?」

 

執行席の不動も横にいる野口も心配そうな顔を浮かべている。

「野口……水河がいないようだが?」

「ああ、一難去ってまた一難か」

 

会場がざわめき始めた。
決勝戦を前に選手がいないのだ。

まさかレオナルドの不戦勝なのか。

アナウンス席の正宗はいよいよ、慌て始めた。

「うわー、太郎先輩、どうしたんだろう……あっ!  まさか!」

正宗はある事を思い出した。

「ロベルトの旦那が言ってた……世界一になったら……」

「そうだ!」

「うわっ!」

正宗が声にびっくりすると、横に相馬が立っていた。

「うわわ、相馬の兄さん!」

「久しぶりだなー、正宗。ちょっとマイク貸してくれや!」

「え?」

相馬は正宗からマイクを奪いとると、叫んだ。

『ロベー!  こっち来い! 』

相馬は、マイクでロベルトの名を叫んだ。

 

「そ、相馬先輩?」

茫然とするロベルト。

「おい、師匠が呼んでるぞ、行ってやれよ!」

背中を押すマイケル。

「う、うん」

 

 

ロベルトは、相馬の元に走って来た。

「そ、相馬先輩……」

ロベルトの目には涙が溢れていた。

「ロベ……世界第三位とは、よくやったじゃねーか。俺様と同じところまで来やがるとはな」

「そ、相馬先輩ー!」

ロベルトは相馬に抱きついた。

「てめー!  汗まみれで俺様に抱きつくんじゃねーよ!」

ロベルトにゲンコツを落す相馬。

「押ー忍、失礼しました!」

「いいか、ロべ!  どうやら、糞太郎の野郎があずさを口説くのに時間が掛かってるらしい」

「え、そ、相馬先輩……」

「うるせー、いいから聞け!  俺らで時間稼ぎするんだ!  正宗も聞け……ごにょごにょ」

「うひょー、相馬の兄さん。そりゃあ、面白いや!」

「押ー忍、やりましょう!」

「よし!  正宗、頼むぞ!」

 

 

相馬とロベルトは各々が試合場の端に立った。

会場は何事かと騒ぎ始める。

 

『えー、長らくお待たせしました。ただいまより、第9回世界大会第3位の相馬清彦選手と、第10回世界大会第3位を決めましたロベルト・フェルナンデス選手との演武を始めます!  その名も、「二度と拝めない相馬スペシャルテクニック」です』

 

相馬とロベルトは、正宗のアナウンスとともに壇上に上がった。
会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。

「よーし、会場の皆さん!  天才相馬の華麗なる大技の数々を惜しみ無く見せてやるぜ!  やられ役は、さきほど太郎にやられたロベルトでーす!」

会場は笑いに包まれる。
ロベルトは恥ずかしそうに構える。

「相馬先輩、そりゃあ、酷いヨ!」

「うるせー!  じゃあ、俺様の大技を喰らい続けろよー!」

「オーノー!  太郎、早く来てー!」

 

第10回世界大会途中経過

 


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