俺は……俺は……あれ、ライトが見える。

 

武道場?

武道場の天井か?

何でそんなものが見える?

 

タロちゃん。

 

あ……あずさ先輩。あずさ先輩?

 

凄いね。

私の為に、約束を果たしてくれたんだね。

 

約束……

 

世界一に……世界一に……

 

え……

 

い、いや、まだ……まだだ!

 

 

太郎は、起き上がった。

瞬時に回りを見渡す。

満員の総本山武道場。
湧きあがる歓声。

そしてこちらを息を切らせながら見ている、ロベルト。
壇上の端に座る四人の副審は技ありの旗を上げている。

「(お、俺は……試合中。そうだ……ロベルトの上段膝蹴りを受けて……)」

太郎はロベルトの上段膝蹴りを受け、倒されたが、すぐに立ちあがり、技ありで済んだのだった。

「(わ、技ありだ。何だか、長く寝ていたような気がしたが……まだ終わってない! 」)

 

 

太郎が立ちあがるのを見て、板橋道場の面々は胸をなでおろした。

相馬も軽くため息をついた。

「ふうー、太郎の野郎。あれだけまともに膝を喰らって立ちあがってきやがるとは」

 

 

太郎は、構えなおした。

膝で倒され、頭がまだふらふらする。

「(くそっ、後、何分だ。何秒なんだ。とにかく、とにかく、もうロベルトから一本を奪うしかない! )」

試合が再開されると、ロベルトは怒涛のごとく攻め入ってきた。

勝負を決めに来た。

ロベルトの強烈な突き、蹴りを受けるだけで、太郎の意識は飛びそうになる。

「(強い……強いなロベは。どうする。どうすれば……)」

 

―――――おらっ、太郎! もっと膝を抱えこむんだよ。体の中心線よりも左まで持って来い!

 

「(えっ?)」

 

―――――太郎、形はサマになってきたが、そんなんじゃ相手が倒れねーぞ! 一発で相手をノックダウンさせる気で打て! イメージするんだ!

 

「(そ、相馬先輩……)」

 

―――――右足を地面から離してから、相手のアゴに到達するまで最短距離。無駄な動きはなしだ。膝を抱え込んで、バネを効かせて打つ。これだけ頭に入れてやればいいぜ

 

「(押忍……わかりました)」

 

「おおおおおー!」

ロベルトは、突きの連打から再度、太郎に上段膝蹴りで襲いかかる。

膝は、太郎のアゴに炸裂する。
会場から一瞬波が引いたように歓声が止まる。

太郎は後ろに倒れる。

「勝った!」

ロベルトが声を上げた。

しかし、太郎は自ら後ろに倒れ込んでいた。

上半身を後ろに傾け、右足を地面から離し、膝を抱え、最短距離で。

ロベルトの顔が上に跳ね上がり、そのまま、太郎の上半身に身体を預け、そして、壇上に倒れ込んだ。

太郎は、その場に立ちつくした。

 

『白っ!  1、2、3、4、5!  上段回し蹴り、一本!』

 

太郎の一本勝ちが宣告されると、会場からは、割れんばかりの歓声が上がった。しばらくしてロベルトは、ゆっくりと起き上がった。

「ロ、ロべ」

太郎が手を差し伸べると、ロベルトは勢い良く太郎に抱きついた。

「太郎ー!  おめでとうー!」

ロベルトの目からは止めどなく涙が流れ落ちた。

 

 

板橋道場の道場生達も立ちあがり、二人の健闘を讃えた。

「凄い戦いだった」

志賀も惜しみない拍手を送った。

横を見ると、相馬も目にも涙がたまっているように見えたが、すぐに袖で拭きとってしまった。

「よし、板橋道場生達よ!  これで、観客席から応援する必要は無くなったぞ!  三位決定戦のロベルトと決勝戦の太郎を壇上のすぐ横から応援しに行くぜ!」

相馬は立ちあがって皆に叫んだ。

「押ー忍!」「おおー!」

「よーし、試合場になぐりこみだあ!」

気合十分で道場生達は、壇上へと向かった。

 

 

ロベルトは太郎の両手を強く握った。

「太郎!  後、少しだね。あずさ先輩との約束を守るんだよ!」

「ロ、ロベ。覚えてたのか、あの日の事……」

「勿論!  だって直接聞いてたしね。でも、試合は全く手抜きしてないからね!」

「ああ、二回も凄い膝蹴りくらったからな」

「太郎!  早くあずさ先輩の元に!」

「ああ、ありがとう、ロべ!」

 

第10回世界大会途中経過

 


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