第188話  判定の行方

 

大会実行委員長の野口は、大会執行部の席で太郎とロベルトの試合に見入っていた。

「凄い。なんて凄い試合だ。このレベルの高さ、迫力、そして両者が相馬軍団の同期ってんだから、神覇館史上最高の試合といってもいいかもしれない。俺は、大会実行委員長としてこんな素晴らしい試合を見れること……これ以上の幸せは無いぞ」

そんな感動に浸っている野口の肩を叩く者がいた。
千葉道場の亀石だ。
森の先輩にあたる。
今年の体重別では34歳にして重量級四位入賞を果たした古豪である。

「野口師範。亀石です」

「おお、亀。どうした?」

「実は、決勝戦前の演武なんですが」

「ああ。出雲師範と篠師範にお願いしてるやつだろ」

「そ、それが……割る予定だった氷柱なんですが」

「うん」

「運んでる途中で、割れちゃいまして」

「はあああ? ちょっ、本当かよ」

「押忍」

「うわちゃー……どうするんだよ。あの二人はただでさえ仲悪いし気難しいんだぞ」

「まだ両師範にはお伝えしてないのです。ここは野口師範から言っていただくしか……」

「『氷柱の代わりにお前を割ってやろうか』……なんて言われそうだな。しかし、なんてタイミングが悪いんだろ」

「木製のバッドなら大量にストックしてありますが」

「わかった、わかった。俺が話を付けにいくよ。だが、この試合が終わってからだ」

「ええ? そんな!  準決勝が終わったら、すぐに演武ですよ」

「わかってる。だが、太郎君とロベルト君の試合は見ていく!」

「わ、わかりました……私も実は、この試合を楽しみにしてたんです」

「ぐちゃぐちゃしゃべっている間に、延長戦が終わってしまったぞ」

 

 

太郎とロベルトとの延長戦が終了した。
しかし両者一歩も譲らない試合内容でまたもや0-0の引き分け。

再延長戦に突入することになった。

太郎は、道着を直し、黒帯をきつく締め直した。
ロベルトと一緒に手に入れた黒帯だ。
ロベルトの帯を見ると、太郎と同じく『相馬道場』の文字が入っている。

「(あと少し……あと少しで以前の、相馬軍団時代の二人に戻れる。今は、とことん拳で語り合おうぜ)」

 

再延長戦が始まると太郎は、ロベルトに突進する。
そしてロベルトの前蹴りを受け流し、下突きの連打をロベルトに放つ。

「ロベ!  再延長戦だぜ!  殴り合いだ!  付き合うか?」

「おおー! !」

二人は激しい殴り合いを始めた。

既に3分、2分の戦いを繰り広げた後で、これほどの体力が残っている選手はいないだろう。

 

相馬もこれには驚いている。

「あいつら……」

 

―――――新人が勝つにはなー、スタミナだよ! 新人に技なんてないからな。どんなに攻撃を受けてもダメージなんて受けない。ひたすら殴りまくり、蹴りまくり、優勢勝ちを狙うんだよ!

 

二人のど突き合いに会場は沸き上がる。

既に自国の選手が敗れている国の応援団も、持参した楽器で二人の後押しをする。

 

「(凄い、凄い強さだ、ロべ!  一体どんな稽古をすれば、こんな大砲みたいな突きの連打が打てるんだ? 体重別レベルの選手なら速効でダウンだろうな。俺だって、隠岐師範のあの異常な鍛錬が無ければとても耐えられなかっただろうな)」

太郎は、ロベルトの破壊的な突きのラッシュに互角に対応している自分に驚いていた。

しかし、それはロベルトも同じだった。

少なくとも、ロベルトの知っている太郎は、ここまでのパワーとスピードは持っていなかった。

 

太鼓が鳴り響く。
親友同士の対決はあっという間に再延長戦が終わってしまった。

会場からは大きな拍手が鳴り響く。

後は判定を待つのみだ。

太郎も、ロベルトも自然体で、中央を向いて立ち、判定を待つ。

 

『それでは、判定をお願いします……判定! ! 』

 

旗は一つも上がらなかった。
完全なる引き分けだ。

判定は本大会初の板割判定に持ち越された。
申告した枚数の厚い板を割り、その数を競う。

無差別の大会であるため、体重の軽い選手が有利になるように、体重の重い選手から板の枚数を申告しなければならない。

ロベルトは少し考えて、8枚を申告した。
会場がどよめく。

かつて8枚の板を割った選手はいない。

 

「ロベルト君……8枚なんて」

美雪も驚いている。

「まあ、妥当な枚数だな。太郎の奴は、三年前の全日本で……何だっけ、あのイタリア人と戦った時に7枚割ってやがる。あいつは拳を鍛えることが趣味みたいな奴だったからなあ。あの時よりも数段強くなってんだ。ロベルトは最低でも8枚を割らなければならねえって訳だ」

相馬は、正面を見据えながら美雪に言った。

 

太郎はしばらく目を閉じていたが、ゆっくりと開いた。

「……自分も8枚でお願いします」

会場がさらにどよめく。

 

「太郎の野郎も8枚か……つまり割れなかった野郎が負けって訳か」

「8枚を割り合うなんて……凄い戦いだな」

志賀はもはや雲の上の選手同士の対決を見ているようだった。

 

第10回世界大会途中経過

 


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