第183話  太郎vsマルチェロ

 

相馬が壇上から降りてくる。

腕を組みながらマルチェロは、大歓声に送られる相馬を眺めていた。

「ヴィンセント……相馬も敗退したな」

「押忍。マルチェロはお兄さんの敵を取れなかったね」

マルチェロの兄、フランコ・ジアーロは8年前の世界大会で相馬に敗れている。

「あん? もうそんなの関係ねーよ。それにな、全日本をぶち壊す俺の作戦をぶち壊したあの水河太郎の方がデカイ借りだぜ」

第40回全日本において、イタリアからの刺客としてヴィンセントを差し向けたマルチェロだったが、太郎に阻まれた。

「向こうもマルチェロに上段回し蹴りを喰らった借りを返したいと思っているよ」

6年半前、あずさを口説くのを邪魔した太郎に、マルチェロは上段回し蹴りを喰らわせていた。

「お前を倒した時は、まぐれかと思ったが、あの水河の野郎は、アルベルトやイワンを退けてここまで来てやがるからな。相手に不足なないな」

 

『ゼッケン33番、マルチェロ・ジアーロ、イタリア!  ゼッケン56番、水河太郎、日本!  Number 33 Marcello Jia-ro in Italy! Number 56 Taro Mizukawa in Japan!』

 

太郎が入門間もない頃に観戦した第22回体重別全日本において、イタリアの刺客として軽量級を席巻したマルチェロ。

決勝まで得意の後ろ回しなどの大技で技あり・一本の山を気付いた。

太郎には、マルチェロの動きは人間技には見えなかった。
身長174cmと無差別の世界大会においては決して大きくはない体格だが、第9回世界大会第五位、今回も対戦相手を大技でなぎ倒してきている。

金色のオールバックに不敵な笑み。

 

『構えてー、始めい! 』

 

マルチェロとの因縁の対決が始まった。
マルチェロは太郎の周りを軽いステップで回転する。

様子を見ているのだろうか、攻めて来ない。

「(気をつけろ……こいつは前回の世界大会で志賀をも葬っているんだ。おそらく今の俺ならパワーでは上だろうが、あの飛び道具は強力だ)」

突如、マルチェロは太郎に数歩近付いたかと思った矢先、高速の飛び後ろ蹴りが飛んで来た。太郎はガードが間に合わず、顔を反らして間一髪避けることが出来た。

しかし頬に痛みがある。
切れたのかもしれない。

と、マルチェロは一気に攻勢に出た。
すかさず伸びのある前蹴りを、太郎のみぞおちに正確にめり込ませる。

バランスの崩れていた太郎は息が漏れる。
さらに中段回し蹴りが襲いかかるが、太郎はこれをわざとくらい、肘で抑え込んだ。

『くっ! 』

「捕まえたぞ、マルチェロ!」

太郎は、強烈な下段蹴りを打ち込む。
瞬時にマルチェロの顔が歪む。

しかし、マルチェロは胴回し回転蹴りで応戦する。
太郎はこれも間一髪避けることが出来た。

 

再び、試合が再開されるが、マルチェロは表情が曇っている。
中段回し蹴りをクリーンヒットさせても、太郎は顔色一つ変わっていないからだ。

中盤、太郎はマルチェロに攻め入る。
一気に試合を終わらせようというのだ。

太郎は突きの連打をマルチェロに浴びせるが、マルチェロは下がりながら受け、まともに喰らわない。

マルチェロは大きく後ろに下がり、口元を緩めた。

「Lo beve gia una volta?」

そう言って、マルチェロは自分の左頬をポンポンと叩いた。
太郎はイタリア語は分からないが、マルチェロが言わんとしていることは分かった。

「(もう一度自分の蹴りに耐えられるか?……そんな事を言っているんだろう。上等だ! )」

太郎はガードを崩し、両手を横に大きく広げた。
あずさから守った……あの時と同じだ。

会場からは、どよめきが起こる。
空手の試合でこのような構えは前代未聞だ。

 

板橋道場の道場生達の席から少し離れた所に、あずさと美雪は座っていた。
あずさは太郎の行動を見て、手をきゅっと握った。

「タロちゃん……」

あずさの緊張を見て、美雪はそっとあずさの肩を抱いた。

 

『こいつ、馬鹿か? 本気で俺の蹴りを受けるつもりか? あの時みたいなお遊びの上段じゃないぜ。いいだろう』

マルチェロは、大きく右足を抱え込み、体重の乗った強烈な上段回し蹴りを太郎の顔面に打ち込んだ。

会場からは大きな声が起こる。

誰もが、太郎の無謀を呆れただろう。

しかし、太郎は倒れなかった。

マルチェロの蹴りを顔面にもろに受けても。

「お前の蹴りは効かないんだよ!」

太郎は、マルチェロの軸足に下段蹴りを連打する。

マルチェロの顔が歪む。

マルチェロは手で太郎の肩を押し、距離を開け、後ろに下がろうとするが、太郎は猛然と追う。
左の下突きから右の下段蹴りを炸裂させる。

マルチェロは声もなく崩れ落ち、そのまま立ちあがることが出来なかった。
会場は大きな歓声に包まれた。

太郎は、マルチェロから下段回し蹴りによる一本勝ちを収めた。

 

第10回世界大会途中経過

 


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