第181話  総本山対決

 

サブアリーナから、総本山道場生達が武道場に移動し始めた。

先頭に立つのは高畑だ。
その後ろを山岸が固い表情で付いていく。

「山岸先輩、胸をお借りしますよ」

「ああ、手加減はいらないぞ」

ついに第10回世界大会初の日本人対決になった。

数年振りに現役復活を果たした山岸と、総本山のエース高畑だ。
山岸は第25回体重別全日本重量級決勝でロベルトに敗れ、王座を海外選手に明け渡してしまったことから現役から退いていた。
しかし、相馬の復活の話を受け、戦いの場に戻ってきたのだった。

高畑は山岸が現役から退いて以降、総本山の中心的人物となっており、山岸や久我といった総本山の先輩格の人間に対しても生意気な態度を取るようになっていた。

しかし、全日本で準優勝や第三位など、文句のない戦績をおさめていた。

 

『ゼッケン232番、高畑健、日本!  ゼッケン237番、山岸勝信、日本! Number 232 ken Takahata in Japan! Number 237 Katunobu Yamagishi in Japan! 』

 

二人とも体重90kgを超す重量級選手だ。
激しい打ち合いが予想されたが、常に全日本の上位に君臨していた高畑と、しばらく現役から離れていた山岸では勢いが違っていた。

高畑は得意の中段から突きの連打で山岸に襲いかかる。
山岸は歯を食いしばりながら膝蹴りで応戦する。

どうやら、ここまでのトーナメントでのダメージも蓄積されているようだ。
山岸は先ほどから突きをほどんど出さない。

「おおおー!」

高畑は気合の声とともに連打を浴びせる。

 

しかし中盤、段々と高畑の勢いが衰えてきた。

山岸は愚直に膝を高畑に打ち続ける。

 

山岸側のセコンドに立つ久我と百瀬も大声で応援する。

「高畑さんの勢いが落ちてますね」

「山岸の作戦勝ちだな」

久我はニヤリとほほ笑む。

「作戦勝ち?」

「ああ。高畑は自分の強さにうぬぼれて、腹筋なんかの基礎体力稽古を怠ってたからな。ボディーが弱いんだよ。山岸はそれを十分承知でさっきから腹目がけて膝蹴りを連発してんのさ」

「なるほど」

 

本戦3-0で山岸は高畑に勝利した。
壇上で二人は固く握手を交わす。

「はあ、はあ、先輩……完敗です」

「俺は、先輩だからな。後輩に負ける訳にはいかねえよ」

「ふふ、そうですね」

 

この試合が終わり、ベスト16に進出する日本人が出揃った。
相馬、志賀、太郎、森、山岸の5人だ。

 

 

太郎は一人、サブアリーナの板橋道場エリアを覗いた。

相馬はタオルを顔にかぶせ、横になっていた。

しかし他の道場生達は相馬から離れた所にいた。

太郎は、相馬のセコンドの岩村に話しかけた。

「相馬先輩は……」

「ああ、相馬先輩はさっきからずっとあんな状態なんだ。相当集中してるんじゃないかな」

「ちょっと話かけてきます」

「あ……太郎君」

 

太郎は相馬の横に正座した。

「相馬先輩」

相馬はタオルをゆっくりと取った。

「おお、太郎」

「あと一勝すれば準々決勝で戦えますね」

「そうだな。俺は志賀と。お前はマルチェロのおマル野郎。たいしたことないしな」

 

しばらく沈黙が続く。

 

「お前……隠岐師範に稽古してもらってたらしいな」

「お、押忍」

「……お前はやっぱ凄いよ」

太郎は驚いた。
相馬から、褒められたことなど無かったからだ。

「え、そ、相馬先輩? 大丈夫ですか? 自分以外を褒めるなんて」

相馬は起き上がり、太郎の頭をはたいた。

「糞太郎が!  俺だってたまには他人を褒めるんだよ」

「いちち、失礼しました」

「隠岐師範が世界王者になった後、師範の下に弟子入り志願者が殺到したんだ。そして、隠岐師範は自分と同じような稽古をそいつらにつけた。多分お前が受けたのと同じようなことをな」

「押忍」

「ほとんどの奴らはすぐに逃げ出した。お前なら分かるだろうが、人間が耐えられるような内容じゃないからな。残った奴らも1ヶ月以内に全員病院送りだ。退院しても、日常生活を送るのがやっとってほどに身体はガタガタ」

太郎は黙って相馬の話を聞く。

「隠岐師範はそのことに責任を感じて、遠く山海原島にこもっちまったって訳だ。どういう経緯でお前に指導したかは知らねーが、師範の稽古を耐え抜いて、今ここにいるってことは、まあ凄いことだ。当然、その前に俺様のクレバーでハイクオリティーな稽古があったからこそだがな」

「お、押忍。勿論です」

と、突然相馬が何かを見つけ、立ちあがった。

 

「太郎」

太郎を後ろから呼ぶ声がした。
振り向いて太郎は驚いた。

「お、お父さん、お母さん?」

なんと太郎の両親が立っている。

「え? な、なんでここに?」

太郎は、自分の目を疑った。

「全く、お前って奴は……親不孝の塊みたいな奴だな。就職が決まったのに連絡一つよこさないとは」

五年前、大学の留年が決まった時に、太郎は実家から勘当されていた。
それ以来、太郎は両親とは全く連絡を取っていなかった。

「太郎、私達はあなたの空手の試合を毎回見に来てたんですよ」

「え?」

「お前を勘当した後、すぐにそちらにいる相馬さんが連絡してこられたんだ。お前がどれだけ空手に青春を賭けているか、どれだけ活き活きと過ごしているか。是非、太郎の試合を見に来て欲しいともおっしゃってくれた」

「え、そ、相馬先輩……」

「いろいろとご迷惑をおかけしたみたいで……」

太郎の両親は相馬に頭を下げた。

「いえ、俺の方こそ、太郎には世話になりました」

相馬も頭を下げた。
太郎は相馬が頭を下げるのを初めて見た。

「太郎、良い先輩を持ったな。こんな素晴らしい大会に出るほどの男にしてもらって」

「は、はい」

 

『第五回戦に進出された16名の選手の皆さん。まもなく第五回戦を開始いたしますので、武道場にお集まり下さい』

 

会場に正宗のアナウンスが流れる。

「よし、行くか」

「押忍!  お父さん、お母さん、行ってきます」

太郎と相馬は、武道場に向かった。

 

第10回世界大会途中経過

 


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