第173話  いざ、決戦の地へ

 

11月。

太郎は、森とともにフェリーの中にいた。

第10回世界大会参戦の為に総本山に向かっているのだ。

四年に一度、世界各国から総勢256人の空手家達が覇を競う、スーパートーナメント。
太郎は、入門の頃から相馬に、神覇館の最大行事である世界大会の話を聞かされており、必然この大会を目指すようになっていた。

さらに太郎にとって、この大会に出場することは特別な意味を持っていた。
あずさとの約束だ。

「さっきからぼっとして……大丈夫ですか?」

「あ、ああ」

隣の森が心配そうに声を掛ける。

結局、太郎は体調万全という状態にはならなかった。
隠岐による超人化稽古は2週間前まで続いた。

太郎は1日も休むことなく、この荒行に耐え続けた。

しかし、身体は縄で縛られているようで思うように動けない。
こんな状態ではスパーリングすらままならない。

さらにディフェンスの稽古はバットから鉄パイプに変え、太郎は森に身体のいたる所を叩かせた。
そうとうなフルスイングにも耐えられるようになったが、身体中が痛む。

最悪の状態と言ってもよかった。

「森は調子どうだ?」

「僕はお陰さまで万全です」

表情からも読み取れた。
森も同様に初出場の世界大会に向け、並々ならぬ思いがある。
全日本準優勝である森は日本代表の二番手なのだ。
もはや日本のエース格にまで昇りつめた森。

そんな森に太郎は稽古を手伝ってもらってばかりになってしまった。
さらに大会2週間は全く動かなかった太郎をよそに、森は自主トレに精を出していた。

「森……ごめん!  完全に俺の稽古に付き合わせてしまって。自分の稽古が満足に出来なかったよな」

「押忍、太郎先輩!  何をおっしゃいます!  自分が勝手に太郎先輩に付いて来たんです!  全く気にする必要はありません!」

「……もしかしたら、森の心意気も無駄にしてしまうかも……」

「えっ?」

「身体が動かないんだよ。朝、軽くシャドーをしてみたんだが……もう自分の身体じゃないみたいにさ。こんなんじゃ、一回戦負けもありうるぜ」

「……い、いいんじゃないですか?」

「へ?」

「一回戦で負けたって、自分は太郎先輩の人間離れした稽古をずっと見てきました!  正直言って、自分では耐えられなかった。隠岐師範のあの恐ろしい稽古を耐え抜いてきたんです。それだけで、価値があると思います。きっと、その、あずささんも……」

「うっ……」

二人は黙ってしまった。

 

 

長旅を終え、太郎と森は、千葉県房総、総本山道場に到着した。

世界大会前日の総本山は、普段の静けさから一変し、もの凄い騒ぎだ。
武道場裏の駐車場には、バスやらタクシーやらが所せましと並び、各国の選手、道場生達はそれぞれの国のお揃いのジャージやら民族衣装やらで登場。
楽隊を引き連れている国もあった。

これが世界大会の空気。
太郎も森もこの雰囲気に委縮してしまった。

「森……やっぱ世界大会は違うな」

「押忍。自分達が主役なハズですが……なんとも」

「おお、やっと来たか」

一足先に総本山入りしていた隠岐が現れた。
一応フォーマルな服装なのだろうか。
黒いワイシャツがハチキレそうだ。

「押忍、隠岐師範」

「しっかし、凄げー騒ぎだな」

そんな会話をしていると、突然、各国の道場生達に取り囲まれた。

「うわっ!  なんだなんだ?」

「オキー!」オー!  オキ!」

どうやら、16年前の世界大会王者の隠岐を見て集まってきたらしい。

「おー、サンキューサンキューベリマッチョ」

隠岐も御機嫌で応じている。
隠岐も暴君キャラだが、この辺が相馬と違うところか。
相馬なら寄ってきた外国人ファンを殴り倒して平然と踏みつけて進んで行きそうだ。

三人は人ごみをかきわけかきわけ、どうにか道場隣にある宿泊施設に辿り着いた。
松崎がスーツ姿で立っている。

夏の体重別で軽重量級を制し、世界大会の切符を手に入れている。

「押忍!  水河先輩、森先輩……それに……ひえー!  お、隠岐師範! !」

「よお、若き内弟子!  おめー、よくやったなあ」

「あわわわ、お、押忍」

いつも以上に緊張している松崎。

「松崎君、明日はお互い頑張ろうな」

「み、水河先輩。嬉しいです。一緒に世界大会に出場できるなんて」

と、奥から同じくスーツ姿の百瀬が現れた。

「押忍、百瀬さん」

「押忍、水河さん。明日は頑張って下さい」

百瀬は辻に敗れ、世界大会に出場は出来なかった。

「やはり水河さんは凄いですね。あの辻さんを倒すなんて」

「いや、試合では上段に食らいましたんで。運が良かったんですよ」

 

松崎に部屋を案内してもらい、くつろぐ三人。

「ふー、やっぱ総本山は落ち着くぜ」

隠岐はさっそくベッドに大の字。
太郎と森は窓際の椅子に腰かける。

「明日から三日間の戦いか」

「押忍。初日は一回戦だけですからね。そこで会場の空気に慣れないといけないですよね」

「二日目に二回戦、三回戦。三日目に残れるのは256人中32人か」

「少なくても、トップ32人には入りたいですね」

「そうだな」

太郎と森が話していると、隠岐が大声を上げた。

「おいおいおい。お前ら、世界王者の俺の指導を受けといてベスト32はねーだろ? 優勝、準優勝とってこいや!  お前らが当たるとしたら決勝だろ?」

隠岐は笑いながら言う。

「お、押忍」

「押忍」

全日本の表彰台に上がったことのある二人だったが、世界大会で三日目に残っている姿が想像出来ない。

とてつもない大会なのだ。

 

第10回世界大会トーナメント表

 


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