第171話  世界最大トーナメント決定

 

8月。
世界大会まで残り3ヶ月。

超人化計画がスタートしてから2ヶ月が経っていた。

バーベル稽古、その場ダッシュ、腹筋などを1時間ぶっ通しで行う。
今や太郎の身体は空手の稽古をするどころではなくなっていた。
手、足ともに、この1時間以外はまともに動かない。
しかし、隠岐に言われた通り、太郎は仕事中は辛い表情は一切出さなかった。

常に身体は震え、頭は頭痛、骨が折れている、あるいは筋肉が切れているのではと思われるような激痛。
ついに先日、太郎は血尿を出した。

しかし森には言わなかった。
太郎の事を心配している森の事だ。
この練習に反対するだろう。

 

ある日の熱帯夜。
太郎と森はいつもどおりに隠岐の道場を訪れる。
太郎の表情は悲壮感に満ちていた。
100%下される死の宣告を受けに行くようなものだ。

「太郎先輩……」

「ん? なんだ」

「この稽古……隠岐師範の言っていることもわかるんですが……やはり無謀に思えてきました。とんでもない稽古をしているハズが、太郎先輩の身体は段々とやせ細っていくじゃないですか。それに顔色は常に蒼白。目の色だって、何だか……」

「心配してくれて、ありがとうな。でも、隠岐師範の言う通り、俺じゃあただの稽古をしたって世界の強豪達には敵わない。アレキサンドル、レオナルド……身体のアドバンテージを持っている奴らが、さらに過酷な稽古をして望んでくるんだ。164cmの俺が勝ち進むには……これは命を掛けないとならない」

太郎の瞳には、なにかうごめくような暗い炎のようなものが見えるような気がした。
まさに正気と狂気の境にいるのかもしれない。
森はただ太郎を献身的にサポートするしかないと決めた。

「おお!  今夜も来たか!  もう2ヶ月になるか? たいしたもんだな」

「押忍……お願いします!」
挨拶だけすると、太郎は黙りこむ。しゃべる元気もないのだ。

「よし、今日は裏山に行くぞ!」
隠岐は、太郎と森を連れ、道場の裏手にある山に連れて行く。

「ここだ」

隠岐が立ち止まったところには、薄暗い電灯がならぶ長い階段があった。

「これは?」

「この上に神社があるんだ。よくあるだろ、階段ダッシュ」

「今回は階段ダッシュ1時間ですか」

「そうだ!  お前を背負ってな」

「え?」

森は驚いて聞きなおした。

「押忍、隠岐師範。自分は90kgあるんですよ? ただ背負うだけでもかなりの重労働なのに……」

「おめーがでかいのが悪い。ははは、太郎出来るか?」
先ほどから瞳以外は脱力していた太郎は軽く頷いた。

「押忍」

そして森を背負っての階段ダッシュが始まった。

「森!  今回は、お前もやばいぞ!  太郎がこけたらお前もまっさかさまだからな。この階段は100段くらいあるからなあ。それに整備されてねーから気をつけろな」

隠岐の合図で太郎は森を担いで階段を昇り始めた。
太郎は90kgの森を背負いながら無言で階段を駆け上がって行く。
どこにそんな力と体力があったのだろうか。
森も太郎に余計な気を使わせないように、口を開かない。

あっという間に、頂上に着いた。
確かに神社があるようだ。これも薄暗い電灯がついている。

「よし……行くぞ!」

太郎はそのまますぐに階段を降り始めた。

と、太郎は十数段掛け降りたところで足がもつれ、バランスを崩した。
とっさに森が飛び降り、太郎をキャッチする。

「うわああ……太郎先輩大丈夫ですかあ?」

「……ありがとう、森。お前がいなきゃ下まで転がり落ちてたな」

「い、行けますか?」

「勿論」

太郎は、森を背負って階段を降り始めた。
下では隠岐が近くの岩に座りこんでいた。

「おお、5分くらいで戻ってくるとはな。やるじゃねーか。だが、まだお楽しみの時間はたっぷりあんぞ!」

「はあ、はあ、押忍!」

太郎は2週目も休みなく突入する。
しかし、もはや駆け上がる力はない。

しかし、休みなく一歩一歩太郎は、階段を上がって行く。

 

そして、5週を終えたところで1時間が過ぎたようだ。

「よーし!  やったな。ペースは段々と起きて来たが、まあよしとするか」

「ぐぐっぐ……はあ、あ、ありがとう、ご、ございました」

太郎は腰を下ろすことも無く立ち続けている。

意地だった。

「今日はな、お前らに見せたいものがあるから、俺の道場に寄ってけ」

 

隠岐の道場に戻ると、太郎と森は畳の上に座って待たされた。
しばらくすると、隠岐は本を一冊づつ太郎と森に手渡した。

「こ、これは……特報神覇館」

「最新号ですね」

「そうよ。お前の師匠の野口に送ってもらったんだ。この島の本屋に並ぶのは遅いからな。今回のには、3ヶ月後の世界大会のトーナメントが載っているのよ」

「え?」

「つ、ついに!」

太郎と森はトーナメントのページを開いた。

見開きで、トーナメントが載っている。
256人の最強戦士達の名前がずらりと並ぶ。

「1番は……二大会連続準優勝のロシアのアレキサンドル」

「世界王者のレオナルドは、やはり256番」
前回大会の決勝戦を戦った二人は端に位置していた。

「えっ? 前回第3位の相馬先輩がゼッケン16番?」

「そのようだな。何年も放浪してたし、出場も体重別優勝からだが、たぶん相馬自身がシードの位置を断ったんじゃねえか?」

「あっ……」

森が何かを思い出したように声を上げた。

「そういえば……第40回全日本のトーナメントを決めている時、太郎先輩は野口師範に、シードの位置を辞めてくれって言いましたよね」

「ん? ああ、確かそうだったな。野口師範から聞いたの?」

「押忍、その電話の時、自分は野口師範と一緒にいたものですから。その時から僕は太郎先輩に興味があったのです」

「き、気持ち悪いな」

太郎に引かれ、ヘコむ森。

「森は、160番か。129番がマイケルだな。うまくいけば、ベスト16で限界組手で100人ぶっ倒した最強戦士とやれるって訳だ」

「太郎先輩は、56番ですね」

相馬と激突するのは、準々決勝だ。

「太郎よ。師匠の相馬とは準々決勝で当たるかもだが……その前に相馬は強敵を倒さないといけないようだな」

相馬は、途中、アレクサンドル、そして全日本王者の志賀と当たる。
これを越えなければ太郎とは戦えない。

「面白い組み合わせだな。うまく作りやがったな、野口も」

太郎は、トーナメントを見ても実感がわかなかった。
今のかろうじて動いけているような身体で、世界の選手たちと戦えるものだろうか。

 

第10回世界大会トーナメント表

 


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