第167話  太郎vs辻

 

「太郎先輩!」

声に振り向くと正宗が立っていた。
スーツ姿だ。

「実は、俺っち、選手紹介やってんスよ」

「へ? じゃあ、ゼッケンなんたかかんたらって言ってたの正宗なの?」

「そっす」

「凄いじゃん」

「決勝勝って下さいね」

「お、おお」

正宗は確かに実況席に戻っていった。

「森!  アナウンス、正宗だったみたいだな」

「押忍。凄いですね」

「正宗に、優勝は、水河太郎選手に決まりましたって言ってもらいたいな」

「大丈夫ですよ!  きっと!」

 

各階級の決勝進出者が決まった。

軽量級は、辻vs太郎。
中量級は、相馬vs引地。
軽重量級は、五十嵐vs松崎。
重量級は、山岸vs伴(兄)。

辻は、勢いのあった百瀬を上段で下し決勝進出。

相馬は、華麗な組手で勝ち上がり、中量級の若き王者引地と対戦する。

軽重量級では、42歳五十嵐が塩田、清田と言った強豪を下して昇りつめ、総本山内弟子の松崎と激突する。

重量級では、山岸が、アントニオ・ロメロ、フィリップ・アレランといった世界大会出場選手を倒し完全復活。
伴信一は準々決勝で、弟伴孝二と対戦するという兄弟対決になったが、これに勝利し、決勝まで進んだ。

 

『それでは、これより第28回体重別全日本大会決勝戦を始めます! 』

 

壇上横で待つ太郎は、耳をすませる。

「おお、確かに、正宗だな」

 

『軽量級、決勝戦!  ゼッケン1番、辻巧、神奈川!  ゼッケン53番、水河太郎、東京! 』

 

「おお!  俺だ!」

太郎は、決勝の舞台へ駆け上がる。壇上で待っているのは、最強戦士、辻。

 

『構えてー……始めい! 』

 

28歳の太郎よりも7つ年上の辻。
もはや現役というだけでも凄い年齢だ。
しかし細い身体からは凄まじい殺気が湧きだしている。

太郎は迷うことなく辻に突進する。
もう全てを出し切るしかない。

「(4年前のようにはいかないぞ。一本拳やその他突然の飛び道具に気をつけるんだ。後は、パワーで押し切る! )」

4年前、世界大会の切符を掛けた戦いは、太郎優勢で進んだが、一本拳からの上段回し蹴りに倒れた。
それさえなければ、太郎が世界大会に出場していたハズだ。

太郎は、突きの連打で辻を圧倒する。
辻はやはり下がりはするが、受けない。

「(あの時と同じだ。受けない。狙っているんだ)」

太郎は突きから、膝、下段と間合いを作らせない。
辻が自ら下がると、太郎は強烈な前蹴りを放ち、辻を壇上の外に落した。

会場からは歓声が上がる。

「はあっ、はあっ……どうだ!」

辻はゆっくりと壇上に戻る。
しかし、表情は余裕だ。

「(まだ何かある。一本拳か? しかし、もうあの手は喰わないぞ)」

辻は構えを変えた。
手を開いて脱力した構えだったが、拳を握りしめ、身体中に緊張感がみなぎる。

「(な、なんだ?)」

辻は、太郎に素早く近づく。
太郎はあわてて突きの連打を放つが、辻は、全て受け、そして強烈な突きを太郎の脇腹に突き刺す。

「ぐっ!」

思わず太郎から声が漏れる。
さらに、前蹴りで太郎との距離をとると、すかさず中段回し蹴りが飛んで来た。
ガードした手もしびれる。
間髪入れず、突きや下段で攻めてくる。

「(こ、こんな。辻選手は上段だけを狙っていた訳じゃないんだ。このスピードとパワー!  いつでも倒せたんだ。相手の攻撃を受け続け、優勢負けになるリスクを負いながらも上段を狙っていた訳じゃない!  いつでも、確実に仕留められた!  それほど、軽量級選手と辻選手との力の差があったんだ)」

太郎は、防戦一方になりながらも必死でこらえた。

 

本戦が終了し、1-0で辻に旗が上がった。
延長戦に突入する。

「(俺の攻撃を見て、いつでも倒せる男ではないと見て、本気を出してきたんだ。俺は、辻選手の本気を引きだしたんだ! )」

太郎は、口元が緩む。

「(長いブランクがあって、試合から遠ざかっていたが、試験後の孤独な稽古は無駄ではなかった! )」

太郎は、高速拳を放つ。
しかし、さすがの辻、身体ごと太郎にぶつかり、攻撃の間合いをつぶす。

「(今だ! )」

太郎は、辻のアゴ目がけて膝を突きあげる。
見事辻のアゴを捉え、辻は壇上に倒れた。

会場がどよめく。

 

しかし、辻はすぐに立ちあがった。
太郎の会心の技ありだ。

しかし延長戦はまだ1分以上残っている。
辻は表情を変えずに太郎に近づき、突きの連打を浴びせる。
スピードは無いが、身体に強烈な痛みが走る。

「(一本拳!  辻も全てを出しに来た!  拳がどうなってもいいらしい! )」

中途半端に受けても受け手がやられる。
太郎は、膝と下突きの連打を繰り出し手数で勝負する。

 

と、突然飛んで来た上段に太郎は倒された。

もはや防御不可能。
そのスピードたるや想像を絶する。

太郎はすぐに立ちあがり技ありで済んだ。

もはや、後先考えてはいられない。
太郎は猛烈な突きの連打を辻に繰り出す。

もう見た目はどうでもいい。
勝つしかない。
勝たなければならない。あずさの為に!

 

 

 

気がつくと、主審に抑えつけられた。
どうやら延長戦が終わっていたらしい。

終了太鼓の音すら太郎の耳には入らなかった。
試合内容は全く覚えていない。

後は、判定を待つのみ。

 

『それでは、判定をお願いします……判定っ! 』

 

引き分けが1本。赤が4本。
憔悴状態の太郎には、どちらがどの色かわからない。

主審が勝者の方へ手を上げるのだが、後ろなので見えない。
太郎の目線が泳ぐ。

 

「お前の勝ちだよ、水河」

 

その声に、隣を振り向く。
辻が呆れたような顔で笑っている。

「何だ。本当にわかってなかったのか。お前は、俺に勝ったんだ」

「え……僕が……」

会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響く。
辻は太郎に近づく。

「強くなったな。俺の負けだ。だが、全盛期の俺は、こんなもんじゃなかったぞ」

辻は、いたずらな笑顔で太郎の手を握る。

「へ、か、勝った?」

「ああ、そうだ。4年前の借りを返されたな。世界大会頑張れよ!」

辻は、太郎の肩をポンと叩き、壇上を降りて行った。

 

呆然とする太郎に怒号が聞こえた。

「おらー!  糞太郎があ!  次は俺様の番なんだよ!  とっとと降りやがれ!」

その声の方を向くと、相馬が仁王立ちしていた。

「お、押忍。失礼しましたー!」

太郎は、あわてて壇上を掛け降りた。会場に笑い声がこだまする。

 

実況席では、正宗がマイクに口を近づける。

 

『第28回体重別全日本大会軽量級優勝は、水河太郎選手に決まりました。水河選手には、今年秋に行われます第10回世界大会の参加資格が与えられます! 』

 

第28回体重別全日本大会途中経過

 


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