第166話  5年越しの対戦

 

サブアリーナを出た宮路は、大阪支部の道場生と共に壇上へ向かう。
セコンドには元全日本王者の下村がついている。

「よお、あの水河にやっと引導を渡せるな」

「ええ、やっとですわ。あの野郎をかます為に、また70kgに落しましたからね」

「さらに、憎ったらしい相馬の弟子やからな。ちゃんと、カタはめてこんかい」

「押忍!」

 

『ゼッケン33番、宮路哲也、大阪!  ゼッケン53番、水河太郎、東京! 』

 

宮路はゆっくりと壇上に上がる。
身長差15cm。
この小さな男が、無差別の全日本で表彰台に上った。
それも、今や世界屈指の強豪になったヴィンセント・パンディーノを破ってだ。
まさに神覇館の歴史を変えたのだ。

宮路はその後、体重を上げ、第26回体重別では中量級優勝、第27回体重別では軽重量級優勝、そして世界大会の出場権のかかった第42回全日本大会では、ついにベスト8に入った。
しかし、それでもまだこの目の前の水河には勝っていない。

「(こいつは、さっきの準々決勝では山城相手に突きだけで勝利しやがった。その前の試合でも蹴りはさほど本気を出していたとも思えん。まだ余力を残してやがる。まあ、それはワシも同じや。2年以上も試合から去んどったこいつに負ける訳にはいかんで)」

 

試合が始まった。
宮路は長いリーチを生かした前蹴りを放つ。
太郎は、それを受け流し、宮路の懐に飛び込んだ。

「(さすがに早いな!  だが、そうはさせんで! )」

宮路はすかさず膝で距離を作り、また間合いをとる。

「(懐に入らせなかったら、あの突きは打てん)」

距離をとり、前蹴りと突きで攻めたてる宮路。
太郎は宮路の懐に入れない。

「(どや!  このまま何も出来んで終わらせたる! )」

宮路は前蹴りを打つ。
しかし、太郎はその蹴り足を手刀ではじく。
宮路の足に激痛が走る。

刹那、太郎は宮路の軸足に渾身の下段を打ち込む。
宮路の内ももにバットで殴られたような痛みが襲う。

「(何や!  何か足に仕組んどんのか?)」

しかし、既に太郎は宮路の懐に入り込んでいた。

「(しまったあ! )」

既に、宮路には太郎を突き離す術は無かった。
太郎は高速の連打を宮路の腹、胸に打ち付ける。

そして、ガードが中心部に揃ったところで、一本拳を宮路の脇腹に食い込ませる。
宮路の表情が曇る。

太郎は、後ろに上半身をそらせ、三日月蹴りを同じ場所に放つ。
鈍い音と共に、宮路は壇上に崩れ落ちた。

太郎の一本勝ちが宣告された。

 

宮路は起き上がることが出来ずに担架で医務室へ運ばれた。

「太郎先輩!  やりましたね!  凄い、2年のブランクがあったのに、あっと言う間に決勝戦進出ですよー!」

森のテンションも最高潮に達した。

「ああ、森のお陰だよ」

「いや、そんな」

「それより……医務室に一緒に行ってくんない?」

「み、宮路選手のところですか?」

「ああ」

「いやー、どうでしょう……怖いな」

「俺だって怖いんだよー!  行くぞ!」

「わあああ」

嫌がる森を先頭に医務室に向かう。

 

 

太郎が、医務室に着くと、大阪支部の面々が睨みつけて来た。

「お、押忍。宮路選手は……」

奥から下村がのっそりと出て来た。
180cm、100kgの巨漢である。
太郎は固まった。
そう言えば、相馬軍団現役の時は、相馬の敵役としてたびたび騒乱の最中に立っていた。

「水河……」

「はひっ!」

「ワレやるやんけえ!  こんなちっさいのになあ。信じられへん……なあ、みんな!」

「押忍!」「押ー忍!」

ドスの聞いた声がこだまするが、怒りは感じられない。

「宮路!  水河が来てるぞお。どないする?」

「(俺、ど、どないにされまんのん?)」

「俺は、大丈夫っすよ」

 

宮路は奥のベッドで横になっていた。
骨は折れていないらしい。

「水河……強いな」

「お、押忍」

「ワレと初めて会ったのは、いつだったかのお」

「ろ、6年前です。第22回体重別全日本前日のラーメン屋で……」

「そやそや。翌年体重別で対戦したんやな。結局、一回も勝てへんかったゆーことか」

「いや……」

「お前なら、やれるかもしれんなあ」

「押忍?」

「軽量級無敗の化け物退治じゃ。辻……あいつは半端やない。だが、お前ならやれるかもな」

「押忍、ありがとうございます」

「まあ、頑張りや」

 

 

医務室から出て、太郎は大きなため息をついた。

「はああ……怖かった」

見ると、森が笑顔で医務室の前に立っている。

「あれ? 森、お前、一緒にいてくれた?」

「押忍。怖かったんで、ここで待ってました」

「てめー!」

段々と相馬みたいになってきた太郎だった。

 

第28回体重別全日本大会途中経過

 


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