第158話  相馬軍団再び

 

「ロベ……」

 

ロベルトはゆっくりと会場に入って来た。
太郎と出会った頃は丸みを帯びていた体格も、2年前の全日本優勝時には引きしまっていた。

そして今は、空手着の中からは、さらに進化したがっしりとした筋肉がわかる。
ロベルトは会場の真ん中に立ち、自然体で組手を待つ。

と、ロベルトの視線が太郎、相馬らをとらえた。

ロベルトの目が一瞬大きく開いたが、すぐに静かな目つきに戻り、正面に向きなおした。

 

「あの野郎……気付いたな」

「そうですね」

太郎は少しさびしい気持ちになった。

今はもう、あの頃のロベルトではない。
神覇館を引っ張っている、世界屈指の強豪になってしまった。

無邪気な、おおらかなロベルトは見られないのだろうか。

 

 

組手が始まった。
ロベルトは落ち着いた滑り出しを見せる。

10人、20人とあっという間に一本、技ありで倒していく。

 

「凄い。全く次元の違う強さだ。相手も黒帯なのに」

「まだまだこれからだ。あいつも兄ちゃんのレオナルドと一緒でスロースターターだろうからな」

 

相馬の言う通り、30人目辺りからロベルトの勢いが増して来たような気がする。

 

「来たな」

「うわあ。あれ本当にロベですか?」

「俺達が空手をサボってた間、あいつはアメリカでキツい稽古をやってたんだろうからな」

 

ロベルトは50人目まで、顔色一つ変えずにこなした。

 

「ここまでは、マイケルの方が勢いがあったな」

「え? どんだけ凄いんですか、マイケルは?」

「ちなみに元全日本王者の下村の髭や大岩なんかも限界組手に挑んだことがあるが、50人いく前に終わってるからな。やっぱ、レベルが違うぜ」

「そ、そうだったんですね。じゃあ、志賀選手の85人ってのは……」

「まあまあ凄げーんじゃねーの」

「ちなみに相馬先輩は……」

「てめー!  やっぱ落すか!」

 

道場の外で木の上に相馬と太郎がいるのが、総本山指導員で引退した久我の視界に入った。

「おい山岸、外見てみろ。あの木の上にいるの相馬と水河じゃないか?」

「あ……あいつら。神聖な限界組手の時に」

「空手を辞めた訳じゃなかったらしいな」

「どうやらそのようですね」

久我も山岸も笑っている。

 

 

そうこうしている間にロベルトは80人を突破した。
疲労の色が見えるが依然勢いは止まらない。

 

「これは100人いきそうですね」

「ああ。しかも兄貴以上の内容でな」

 

90人を超えたところで、苦しそうな声を上げ始めるが、未だ対戦者に圧倒されるようなことはなかった。

そして、100人目、山岸を相手に互角に戦い抜き、ロベルトは神覇館史上3人目の100人達成を成し遂げた。
会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

ロベルトは会場の対戦相手達に礼をする余裕もあった。
そして、木の上の相馬と太郎に視線を向けた。

ロベルトは唇をきゅっと噛むとそのまま会場を後にした。

 

「ロベ……」

「太郎、拳で語るしかないんだよ」

そう言うと、相馬は三階の高さから、手を使わずに木を走り降りた。

「うわあ」

未だ、相馬は人間離れした運動神経を持っているようだ。

「太郎、次は大阪でな」

相馬はどこかにさっと走り去った。

「さすが相馬先輩……」

太郎は下を覗き見ると、あまりの高さに身体が震える。

「……昇ったはいいが、どうやって降りればいいんだ」

 

 

太郎はかなりの時間を使って、なんとか地面に到達した。
そこで待っていたのは、どこかで見たことのある男だった。

どう見ても空手をやっているようには見えない。

「ど、どちら様でしたっけ?」

「やっぱり、水河選手ですよね。いやー、まさか木から下りてくるとは。わははは、僕は特報神覇館の記者の渕岡ですよ。水河選手を何回か取材したこともあるんですよ」

「あー、覚えてます。渕岡さん。久しぶりです」

「私はてっきり空手から離れてしまったのかと思いましたよ」

「はは、いろいろありまして」

「水河さんが、宣言した通りに相馬軍団が全日本の表彰台を独占して、いやあびっくりしました。でも、目標達成と共にいなくなっちゃうんだもんなあ」

「すいません」

「でも、今日はいい写真が撮れました。相馬軍団復活ってね」

渕岡はカメラの画面を見せた。
そこには、相馬と太郎、そして二人を見つめるロベルトの3人が上手くおさまっている画像だった。

「これ、是非来月の特報に載せさせていただきたいんですが」

「……どうぞ」

「ってことは、体重別辺りで復活ですか?」

「う……ま、まあそのつもりです」

「おおー!  こりゃあ面白くなるぞ!  きっと記事を見て、山城選手辺りは体重別に出ますよ、きっと」

「え、山城選手は秋にあった全日本でベスト8に入っているから、世界大会出場は決まってるんじゃ……」

「いやいや、水河選手が出るとなったら話は別です。取材に行くと、いつも水河選手の話をしてましたから」

「そ、そうですかあ」

「他にも触発されて出場する人が出てくるかもしれませんね」

「いや、僕なんて……」

「ふふ。水河選手。あなたはとんでもない記録を持っているんですよ」

「え?」

「軽量級選手にして、無差別の全日本で第3位。これは、辻選手の持っていた全日本最高第4位の記録を破っているんです。無差別で活躍する水河選手の姿を見て、希望や羨望を覚えた人はたくさんいるんですよ」

失ったものはやはり大きかった。
それを取り戻すには、これは大変なことだな、と太郎は思った。

 


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