第157話  限界組手

 

年が明けて1月、総本山に屈強な男達が集まる。
海外最強選手、アメリカ支部のロベルト・フェルナンデスとマイケル・ストラウスの2名の限界組手が行われるのだ。

午前中はマイケル。午後はロベルトの組手が行われる。

 

 

この日太郎は、ひそかに総本山に来ていた。
長らく空手から離れていた為、道場内に入ることははばかられたが、一目ロベルトの姿を見たいという思いから道場の外から見ようというのだ。

 

総本山に着いた時には道場の外にはほとんど人はおらず、マイケルの組手が始まっているようだった。

入口のところにはいつものように松崎が立っていた。

「こんちは」

「あっ、水河先輩。あれ? 今日、組手参加でしたか?」

「いやー、ちょっと見学したくてさ」

「そうですか。じゃあ、お入り下さい」

「いや、いいよ。外から見るから」

そう言って、裏手に回ろうとした太郎を松崎は引きとめた」

「水河先輩……実は今日の組手は3階の広間なんです」

「えー! まじ?」

総本山道場は3階建てであり、1階と2階が道場になっていた。
3階は、板間になっており、普段はあまり使われていなかった。

2階は少し狭いので、当然1階で行われると踏んでいた太郎は唖然とした。

「どうしよ」

「今、マイケル選手の組手中ですが、そっと入ればいいんじゃ……」

「……いや、大丈夫」

太郎は松崎の勧めを断り、道場の裏手に進んだ。

 

 

「いやー、失敗したなあ。さすがに、今の俺が道場に入って偉そうに見学は出来ないよなあ」

裏につくと上の方から大きな歓声が聞こえる。
マイケルの限界組手が進んでいるのだろう。

「うわっ、やってるなあ」

太郎は大きく口を開けて上を見上げていると、突然口に何か飛び込んできた。

「うぐっ、うえ……ぺっ!」

見るとどんぐりだった。

「なんだあ?」

上を見渡すと、建物からほど近い木の上に人がいる。

「あれえ?」

木の上には相馬がいた。
髪は黒髪のままだが、きちんとオールバックに整っている。

相馬は太郎に手招きしている。

 

太郎は相馬のいるクヌギの木によじ登った。

「相馬先輩、来てたんですね」

「ふん。まあな」

「ロベを見に来たんでしょ?」

相馬は太郎の頭にゲンコツを落した。
懐かしい衝撃が太郎の身体に走った。

「いちちち」

「見て見ろ、マイケルの野郎が必死に戦ってやがるぜ」

太郎らの位置からは道場内が良く見える。
確かにいるマイケルだ。

「今は70人目くらいだ」

「な、70人! 凄いなあ」

「だが、もうふらふらだ。後数人で不動先輩が止めるだろうな。序盤は一本勝ちの連続だったが。志賀の野郎でも80人越えたらしいから……所詮あの糞野郎はこの程度だったんだな」

 

相馬の言う通り、マイケルはもう満身創痍の状態だ。

『70人目、熊谷真吾! 』

立っていることさえままならないマイケルの前に立ちふさがったのは、秋の全日本で第4位に入り、世界大会出場権を得た熊谷。
おそらくこの試合が最後になるだろう。

 

熊谷は開始直後、強烈な中段回し蹴りを放つ。
マイケルはまともにくらい、うずくまってしまった。

しかし、マイケルは激しく震えだした。
そして絶叫した。

セコンドについているアメリカ支部の道場生が止めるが、ふっとばされる。

 

「あ、あれは!」

「そうか、あいつはそうだったな!」

太郎も相馬も思い出したように、お互い目を合わせた。
追い込まれたときに脳内麻薬が出るという特殊体質。

 

マイケルは3年前の世界大会の相馬戦同様、顔つきが変わった。
うつろな目で腕をだらりと落す。

そして試合開始と同時に高速の後ろ回し蹴りを放ち、熊谷を一撃で気絶させた。

 

「うわっ、凄い」

「……俺がやった時より、危険な変身だな。あの熊谷を一発で伸ばすとは」

 

その後も、マイケルは快進撃を続け、80人、90人と対戦相手を葬っていった。

 

「おいおい、こりゃあレオナルドの時より凄いぞ! あいつは化け物か?」

あの相馬も驚いている。
太郎の声を失っている。
あれは人間技ではない。

 

そして、100人目、対戦相手は総本山の高畑。

さすがに100人目ともなると攻撃力や動きは衰えてきた。
しかし、目つきと闘争心は以前勢いは止まらない。

高畑は倒されることはなかったが、圧倒された。

そして、マイケルはレオナルド以来の限界組手の限界である100人との対戦を達成した。

会場内には拍手が巻き起こる。
マイケルは先輩のリチャードや道場生に肩を借り、会場を後にした。

 

「いやー、凄かったですね」

太郎はまるで映画でも見ているような気がした。
現実に100人と連続に戦うことが出来る人間を見たからだ。

「まあ、あの気持ち悪い変身は気に入らねーが、内容はレオナルドの時より上だろうな」

 

会場の掃除が始まった。
そして道場から救急車が出て行った。

「あれは、マイケルですかね?」

「ああ、たぶんな。しばらく入院じゃねーの? しかし、ロべの野郎はまだ出てこねーのかよ! ケツが痛くてしょーがないぜ」

「……相馬先輩は何で外から見てるんですか?」

「てめー! 木から落すぞ!」

「押ー忍、失礼しました」

相馬も皆に合うのは恥ずかしいようだ。
一世を風靡した相馬軍団もいまやはぐれ者集団になってしまった。

 

そして、相馬軍団で唯一神覇館トップを走り続けているロベルトが姿を現した。

 


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