第156話  総本山での思い出

 

神の葬儀が終わった後、副館長であった不動は、42歳の若さで正式に神覇館の二代目館長に就任した。

引退後しばらくしてからの全日本優勝のインパクトが強かったのだろう。
長老師範達からも不動館長就任に対する反対は無かった。

 

 

館長室にて不動は一人、まだ座り慣れない館長の椅子に座り、神との思い出に浸っていた。

 

高校卒業の後、神に憧れていた父の勧めで神覇館の内弟子となった。
あまり好戦的な性格ではなかったが、大柄な身体は空手には合っていた。

それにしても父の勧めというだけで、空手道の道に入ってしまったのはいささか自分の意見を持っていなさ過ぎたのかもしれない。
しかし、今となっては自分に天職を見つけてくれた父に感謝している。

 

入門当時、神覇館は地方にまだ十分に支部が無く、大会における強豪選手は総本山一極集中状態であった。

 

しかし絶対的な全日本のエースというのは存在せず、今は地方道場で師範をしている出雲、篠、松久、雨宮といった諸先輩が鎬を削っていた。

「まあ、おっかない先輩たちだったな。面白かったがな」

 

しばらくすると熊本から上京してきた五十嵐も入門してきた。

不動に心酔していた五十嵐は、まるで金魚の糞のように、不動に着いて回っていた。

「その五十嵐と、長い間神覇館の頂を競うことになるとは。まあ、いろんな人がいたよな」

 

しかし道場内でもひときわ異彩を放っていたのは、不動の3つ年上の隠岐だった。

180cmの不動よりもさらに身長が高く常にボディービルに力を入れ、人間離れした体格をしていた。

しかし、当時大きな大会では結果を残してはおらず、組手をしても不動は隠岐にそれほどの強さを見ることはなかった。

しかし、ざっくばらんな、悪く言えば暴君のような隠岐は、内向的だった不動を可愛がった。
不動も隠岐を慕っていた。

 

隠岐は総本山の稽古を終えた後、よく一人で外に出て自主トレーニングをしていた。
そして何をしたらそのような状態になるのかと聞きたくなるほどの疲弊した状態で戻ってきた。
隠岐は『超人になる為』と言っていたが、大会前ですらそのトレーニングを怠らず、隠岐体調万全で大会に出ることはなかった。

しかし、第6回世界大会前、出場選手が血眼で稽古している間、隠岐だけは何もせずに寮にこもっていた。
そして疲労から完全に回復した隠岐は、とてつもない力を発揮し、世界大会の王者に君臨した。

「久しぶりに会った隠岐先輩は元気そうだったな。隠岐先輩があそこまで破天荒でなければ、無理やりにでも館長をやってもらうんだがなあ」

 

不動が神から次期館長を打診されたのは、5年程前だった。
体調が悪くなり始めており、神覇館の将来を憂いていた。

しかし、まだ30代だった不動はこの提案を断った。
しかし、神の意思は固かった。

その頃から、不動は神から空手道についての理論や持論を聞く機会が増えた。

しかし、まだまだ聞きたいことも山ほどあったと思う。

 

 

 

不動は、ドアのノックで目が覚める。部屋に大会実行委員長の野口が入って来た。

「不動館長、ちょっといいですか」

「野口か。お前から館長と言われるのはちょっと恥ずかしいな」

野口は不動の少し後に総本山に入門んしている同じ年だ。

「さすがに不動とは言えなくなったよ」

「二人の時はいいさ」

二人は向かい合わせのソファーに座った。

「野口のとこの森君は随分強くなったな」

「ああ。だが今はある男にぞっこんだ」

「ん? 誰だ?」

「相馬君のとこにいた水河君だよ」

「ああ、彼か。通夜に来てたな。しばらく見なかったが」

「いろいろ忙しかったらしいんだが、来年の体重別で復活するらしいな」

「おおそうか。ふふ、実はもう一人復活する奴がいるぞ」

不動は嬉しそうに腕を組んだ。

「誰?」

「相馬だよ。奴も通夜に来ててな。こっそりと俺にだけ挨拶をしてどっか行ってしまったんだが、また戻って来て『俺、復活します』だと。何があったかしらんが」

「おお、凄いな!  相馬軍団復活だな」

「もう一人の相馬軍団も海外で調子がいいみたいじゃないか」

「今日は、その話をしにきたんだ」

「なんだい?」

野口は書類を机に広げた。

「……これは、ロベルトとマイケル」

「そうだ。2ヶ月後の1月……限界組手を考えている」

「限界組手か」

「ロベルト君はヨーロッパ大会優勝。マイケル君は全米大会優勝。限界組手をする資格は十分あるだろ?」

「ああ、文句はないな。今や、レオナルドをも凌駕しているという噂だしな。今、神覇館で最強の2人だろうな」

「じゃあ、OKだな」

「ああ。楽しみだな」

 


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