第154話  再会

 

突然の訃報だった。

大会の行われた数日後、通夜が総本山にて行われるらしい。
話を聞いたマスターは太郎に車を貸してくれた。

 

 

太郎は、車で川崎へ。
そこから『海ほたる』に入り、千葉の木更津へ入る。

神は、全日本の表彰式の時、入賞者の最後、優勝の志賀にトロフィーを手渡す時に倒れたらしい。

 

突然死だった。

亨年79歳、やすらかな顔で逝ったらしい。

 

一代でここまで大きな空手団体を作り上げた。
そして人生の最後を自らが作り上げた神覇館の総本山武道場で迎えられたのだ。

幸せな死に方だったのかもしれない。

 

 

日が落ちる頃、太郎は総本山に着いた。
2年前の全日本以来だ。
道場の前には喪服を着た内弟子達が並んでいる。

太郎を見るや、新人内弟子の松崎が近寄ってきた。
2年前の全日本の第一回戦を戦っている。
先日の大会ではベスト16まで勝ち進んでいる。

「み、水河先輩。お久しぶりです」

「松崎君か。大変なことになったね」

「そそ、そうなんです」

全日本の強豪になった今でも、緊張しいは直っていないらしい。

「水河さん、来てくれたんですね」

総本山に来る度に世話になっていた、百瀬だ。
この頃は体重別でもあまり結果が出せていないらしい。

「百瀬さん、久しぶりです」

 

建物に入ると、下村や大岩、辻などのかつての大物選手の姿を見ることができた。
高畑や山岸などの総本山道場生達も忙しそうにしていた。

廊下で中条や森にも会えた。
そして板橋道場師範、相馬源五郎の姿もあった。

太郎は源五郎に挨拶をした。

「おお、太郎君。随分久しぶりだなあ!」

「押忍、師範お久しぶりです」

「少し前まで、美雪ちゃんやあずさもいたんだけどな」

「そ、そうですか」

太郎は少しほっとした。

「そこに岩村さんもいるから呼んでくるよ」

岩村も来ているらしい。

「おー、太郎君。いやいや、何か大人っぽくなったねえ」

「岩村さんもお元気そうで」

「正宗君から聞いたよ。公務員試験受かったんだってね。こんな時だからおめでとうは大きな声じゃ言えないけどさ」

「押忍、ありがとうございます」

 

人と人のつながりが甦る。
人の死とは不思議なものだ。

 

会場に入ると長髪を後ろで束ねた、髭もじゃの大男が神の棺の前で手を合わせている。
第6回世界大会王者の隠岐だ。

隠岐は太郎に気がついたらしい。

「水河か。ここんとこ大会で見ないな」

「……押忍」

「まあ相馬軍団には色々あったしな」

相馬軍団。
久しぶりに聞いた気がした。

隠岐は太郎の肩を軽く叩き、部屋を後にした。

 

太郎は神の棺の前で焼香をし、その後道場の外に出たところで不動に会った。

「ふ、不動師範」

「水河君……ふっ、今日は珍しい男に会うな」

さすがの不動も、どこか力無く見えた。

 

多くの懐かしい面々に会えたが、建物内は居心地の良いものではなかった。

悲しみに打ちひしがれる男たち。
しかし、皆なぜか輝いて見えた。

神館長の空手を続けているから。
太郎は、自分は悲しむ資格もないと思った。

所在なく、総本山道場の周りをうろうろとしていた太郎だったが、裏山の入口で立ち止まった。

「ここで、神館長と話をしたな・・・・・・」

 

太郎は、道場の裏の森に入った。
神から秘儀を授かったことを思い出していた。

 

『ほほ、どうじゃ。これが無打じゃ』

 

あの時、神から無打を教わらなかったら、あるいは相馬軍団は消滅しなかったかもしれない。
いや、もう運命は決まっていたのかもしれない。

わからない。

 

 

太郎は、暗い森の中を歩き続ける。
あの巨木を目指して。

しばらく歩くとその巨木は暗い夜の森の中にそびえ立っていた。

「ん?」

しかし、良く見ると巨木の横に人の姿が見える。

「あ、あれは……まさか……!」

あの頃のような、鮮やかな金色ではない。
ぼさぼさの黒髪になっていたが、間違いない。

黒っぽいYシャツにジーパン姿。

「あ……あ……」

男は、巨木に手を当て、空を仰いでいた。

「そ……相馬先輩」

男はゆっくりと太郎の方を振り向いた。

「……太郎か」

相馬はかすかに笑顔を見せた。

 


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