「おお、そうか。結構余裕だったんだな。終わったらまた報告してな」

森からの電話を切る。

 

昨日今日は第42回全日本大会なのだ。
二日目の朝、森からの昨日の報告だった。

初日はダメージ無く勝ち進めたらしい。

 

太郎はというと、都庁に来ていた。

合格発表以来だ。
今日は、4月からの勤務地決定の参考にする面接をするらしい。

合格後も面接をするのかと、少し不安になったが、ここで、内定取り消しも無いだろうと自分を落ち着かせる。

 

エレベーターで指定された階まで行くと、同じようにリクルートスーツを来た若者が何人か来ていた。

 

時間になると、30代くらいの男性が太郎を呼んだ。

「水河太郎さん。こちらの部屋で面接をしますので」

「あ、はい」

「今日の面接は、ただの意向調査なので緊張しなくてもいいですよ」

男性は太郎の緊張を見抜いたらしく、優しく接してくれた。

「ありがとうございます」

「でも、今日の面接で勤務地が決まる可能性がありますので、自分の意見をきちんと伝えて下さいね」

何やら妙な言い方だった。

 

太郎は礼を言って、面接室に入っていった。
男性2人が座っていた。

「どうぞ、お座り下さい。もうよっぽどのことが無い限り内定取り消しはないので、気楽にしてください」

皆、同じようなことを言うなと太郎は思った。
合格が出たばかりの受験生の気持ちを良くわかっているのだ。

面接では、本試験の時のような厳しい質問はなく、太郎の性格や特性を調べているようだった。
様々な職場があるので、それぞれに合った場所に振り分けようというのだろうか。

「はい、水河さんのことはよくわかりました。最後に聞きたいのですが……島勤務はどうですか?」

「島ですか?」

東京都は太平洋に浮かぶ島々も所管している。

「いいですね。海もきれいなんでしょうねー」

太郎は、行ったこともない島に思いをはせた。

「ほう、では島の勤務を命じられても構わないと?」

「はい。断る理由はないです」

面接官はお互いに顔を見合わせる。

「そ、そうですか。たいていの内定者は、島勤務を望まないんですがね」

 

 

面接を終え、太郎は駅前を歩きながら考えた。

「そうか。確かに大学卒業したばかりの若いのからしたら、島で働いてるとかは嫌なものなのかもな。俺は、来年28だし、社会人になることが目標だったからなあ。ちょっと他の内定者とは違うのかもな」

夕方帰宅し、太郎は最新号の特報神覇館を開く。
昨日今日行われていた第42回全日本大会のトーナメント表が載っているのだ。

高畑、森、志賀など前大会上位は角のゼッケン。
かつて体重別でしのぎを削った山城や青山も出場する。

松崎もなかなかの強豪になっているようだ。

しかし、百瀬や津川などのかつてのライバル達の名前は無い。
やはり全日本に出場するには、体重別や地方大会で結果を残さなければならないらしい。

 

一昔前の有名選手。

 

太郎もそう思われているのだろうか。

そもそも太郎、相馬軍団などは忘れ去られているのだろうか。

 

 

太郎はジャージに着替え、稽古のため海へ向かった。

ここ数カ月で太郎の身体は見違えるように絞れてきた。

しかし、相馬道場のように、いつでもサンドバッグやジムを使えるようなことは今はない。
走り込みや拳立て腹筋など、基礎体力作りくらいしか出来ない。

 

後は、浜辺でのシャドー。

太郎は打ち込みの出来ないパワーをスピードで我慢する。

さすがにまだ、往年のスピードは戻らないが、じわじわとレベルアップを実感していた。

 

 

稽古の最中、太郎は孤独であった。

孤独だが、常に意識している。

隣で汗を流しているロベルト、怒号を上げる相馬。
そして、道場の隅で眺めているあずさ。

「俺は一人じゃない。俺はっ!」

失われた時間を取り戻すかのように、太郎は必死に突きを打つ。
蹴りを湘南の海へ放つ。

 

 

稽古を終え、離れのモノ置きでくつろいでいると、森から電話が来た。
今日の結果報告だろう。

「おお、森。どうだった?」

「……準優勝でした」

「おお!  凄いな!  誰が優勝? 志賀?」

「押忍。志賀選手に決勝で敗れました」

「そーかー。志賀が2連覇か。やっぱ凄いな!」

「……」

さきほどから森のテンションがやけに低い。

「おい、森よ。なんだよ。準優勝だろ? まあ、優勝出来なかったのは悔しいだろうが、相手は志賀だし。それに、これで来年の世界大会の出場権が得られたじゃないか」

「……た、太郎先輩……」

「ん?」

「神館長が亡くなられました」

「へ?」

 

第42回全日本大会結果

 


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