第153話  報告

 

「おお、そうか。結構余裕だったんだな。終わったらまた報告してな」

森からの電話を切る。

 

昨日今日は第42回全日本大会なのだ。
二日目の朝、森からの昨日の報告だった。

初日はダメージ無く勝ち進めたらしい。

 

太郎はというと、都庁に来ていた。

合格発表以来だ。
今日は、4月からの勤務地決定の参考にする面接をするらしい。

合格後も面接をするのかと、少し不安になったが、ここで、内定取り消しも無いだろうと自分を落ち着かせる。

 

エレベーターで指定された階まで行くと、同じようにリクルートスーツを来た若者が何人か来ていた。

 

時間になると、30代くらいの男性が太郎を呼んだ。

「水河太郎さん。こちらの部屋で面接をしますので」

「あ、はい」

「今日の面接は、ただの意向調査なので緊張しなくてもいいですよ」

男性は太郎の緊張を見抜いたらしく、優しく接してくれた。

「ありがとうございます」

「でも、今日の面接で勤務地が決まる可能性がありますので、自分の意見をきちんと伝えて下さいね」

何やら妙な言い方だった。

 

太郎は礼を言って、面接室に入っていった。
男性2人が座っていた。

「どうぞ、お座り下さい。もうよっぽどのことが無い限り内定取り消しはないので、気楽にしてください」

皆、同じようなことを言うなと太郎は思った。
合格が出たばかりの受験生の気持ちを良くわかっているのだ。

面接では、本試験の時のような厳しい質問はなく、太郎の性格や特性を調べているようだった。
様々な職場があるので、それぞれに合った場所に振り分けようというのだろうか。

「はい、水河さんのことはよくわかりました。最後に聞きたいのですが……島勤務はどうですか?」

「島ですか?」

東京都は太平洋に浮かぶ島々も所管している。

「いいですね。海もきれいなんでしょうねー」

太郎は、行ったこともない島に思いをはせた。

「ほう、では島の勤務を命じられても構わないと?」

「はい。断る理由はないです」

面接官はお互いに顔を見合わせる。

「そ、そうですか。たいていの内定者は、島勤務を望まないんですがね」

 

 

面接を終え、太郎は駅前を歩きながら考えた。

「そうか。確かに大学卒業したばかりの若いのからしたら、島で働いてるとかは嫌なものなのかもな。俺は、来年28だし、社会人になることが目標だったからなあ。ちょっと他の内定者とは違うのかもな」

夕方帰宅し、太郎は最新号の特報神覇館を開く。
昨日今日行われていた第42回全日本大会のトーナメント表が載っているのだ。

高畑、森、志賀など前大会上位は角のゼッケン。
かつて体重別でしのぎを削った山城や青山も出場する。

松崎もなかなかの強豪になっているようだ。

しかし、百瀬や津川などのかつてのライバル達の名前は無い。
やはり全日本に出場するには、体重別や地方大会で結果を残さなければならないらしい。

 

一昔前の有名選手。

 

太郎もそう思われているのだろうか。

そもそも太郎、相馬軍団などは忘れ去られているのだろうか。

 

 

太郎はジャージに着替え、稽古のため海へ向かった。

ここ数カ月で太郎の身体は見違えるように絞れてきた。

しかし、相馬道場のように、いつでもサンドバッグやジムを使えるようなことは今はない。
走り込みや拳立て腹筋など、基礎体力作りくらいしか出来ない。

 

後は、浜辺でのシャドー。

太郎は打ち込みの出来ないパワーをスピードで我慢する。

さすがにまだ、往年のスピードは戻らないが、じわじわとレベルアップを実感していた。

 

 

稽古の最中、太郎は孤独であった。

孤独だが、常に意識している。

隣で汗を流しているロベルト、怒号を上げる相馬。
そして、道場の隅で眺めているあずさ。

「俺は一人じゃない。俺はっ!」

失われた時間を取り戻すかのように、太郎は必死に突きを打つ。
蹴りを湘南の海へ放つ。

 

 

稽古を終え、離れのモノ置きでくつろいでいると、森から電話が来た。
今日の結果報告だろう。

「おお、森。どうだった?」

「……準優勝でした」

「おお!  凄いな!  誰が優勝? 志賀?」

「押忍。志賀選手に決勝で敗れました」

「そーかー。志賀が2連覇か。やっぱ凄いな!」

「……」

さきほどから森のテンションがやけに低い。

「おい、森よ。なんだよ。準優勝だろ? まあ、優勝出来なかったのは悔しいだろうが、相手は志賀だし。それに、これで来年の世界大会の出場権が得られたじゃないか」

「……た、太郎先輩……」

「ん?」

「神館長が亡くなられました」

「へ?」

 

第42回全日本大会結果

 


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