中条、正宗、森は、新宿西口に集合していた。
三人は、太郎を通じて知り合い、連絡を取り合う仲になっていた。

太郎の合格祝いをする為に集まったのだが、太郎からは合否の連絡はなかった。

 

そして、結果不明のまま、19時、太郎は現れた。

太郎の表情からは嬉しさや哀しさは読み取れない。

「おお、太郎君!  結果はどうだった?」

中条がメガネをくいっと上げながら。

「太郎先輩!  バッチシですよね?」

正宗は変なポーズ。

「太郎先輩……」

森は不安げ。
太郎は、三人の顔を順番に見る。

そして。

「……実は……まだ、発表を見てないんです」

「なっ!」

「はあ?」

「へ?」

三人とも呆れている。

「おいおい、太郎君。もう夜だぞ。今や、結果はインターネットですぐ見れるだろう?」

中条は太郎を揺さぶる。

「いやあ……長い受験勉強、将来の明暗。そんなことを考えていたら、身体が震えてきちゃって……」

太郎は、恥ずかしそうに言う。

「ちっと、太郎先輩!  どうあがこうが、もう結果は出てるんすよ!  さあ、携帯で見ましょう!  太郎先輩が見ないんなら、俺が見ます!」

正宗がイライラしながら太郎をせかす。

「あのう。結果って、張り出されてたりしませんか?」

森がつぶやく。

「もちろん、当日は張り出されている」

中条が眉間にしわを寄せたまま応える。

「じゃあ、見に行きませんか? すぐそこだし……」

森が指差す先には、東京都庁舎がそびえ立っていた。

「ああ!  そうだよ、先輩!  いきましょうよ!」

「あわわわ」

「覚悟を決めるんだな!」

 

 

三人は、太郎を半ば強制的に庁舎に連れて行く。
到着したが、既に19時を回っており、正面入り口は閉まっていた。

「あちゃあ、中条さん。官僚パワーで何とか開けられないっすか?」

「開けられる訳ないだろうが。だが、どこかに職員用の入り口があるハズだ。そこに行ってみよう」

確かに、正面から離れたところに職員用の出入り口があった。
庁舎を見上げるとまだ電気が点いているところが多い。

 

太郎らは、入口に着くが、ガードマンに止められた。

「申し訳ありませんが、この時間、職員の方以外の入庁はお断りしています」

若いガードマンは丁寧に断った。
しかし、中条はひるまず説明を始めた。

「こんな時間に申し訳ありません。実は、本日職員の合格発表がありまして、この者が受験してるんです。昼間用事があって、見に来ることが出来なかったので、こんな時間にすいませんが、掲示板を拝見したいのです。どうにか中に入れていただけないでしょうか?」

すると、守衛室の中にいた、中年のガードマンが窓から顔を出した。

「そういう理由なら、一緒に掲示板まで付いて行ってあげなさい。真っすぐ行った突きあたりにまだ掲示してあるから」

「あ、ありがとうございます。助かります」

中条は深々と頭を下げた。
言ってみるものだ。

三人は、中条を尊敬のまなざしで見つめる。

「では、ご案内します」

若いガードマンの後を四人はついて行く。

「さーて、太郎君。覚悟は出来たかい?」

中条は太郎の腰をポンと叩く。

「は、はいい」

 

 

暗いホールの突きあたりにひっそりと掲示板は立っていた。
そこには、職員最終合格発表とある。

ここに太郎の番号があれば、半年後には晴れて社会人の仲間入りだ。
四人は掲示板の前に着いた。

「よし、太郎先輩!  見ちゃって下さい!」

「太郎先輩……」

 

太郎は受験票を確認する。
番号は12845。

三人は一歩下がり、太郎の背中を見つめる。

 

太郎は、深呼吸をして、掲示板の目の前に顔を近づける。

「12740、12778、12800……あああ、番号が空いているう」

太郎は、番号を指でなぞりながら、ゆっくりと下に見ていく。

「12810、12830、12844……ぎゃああ!  前の席だった人が受かってるー!」

「太郎君、前の席の奴なんか、関係あるか!  次だ、行けー!」

中条も絶叫する。

 

「はあ、はあ、はあ、12844……12861? 12861? 12844……12861!」

 

太郎は、膝から崩れ落ちた。

 

落ちた。

 

不合格。

 

太郎の時間が止まる。

 

数メートル後ろで見ていたガードマンも顔を落す。

 

「あああ、あああああ、うあああ……」

 

太郎の視界が段々と狭くなり、暗くなっていく。
目の前が真っ暗になるとは、このことか。

 

「た、太郎先輩……先輩」

森が太郎の肩に手を置く。

百裂拳を自在に打ち、全日本を駆け巡った、あの強肩も、今や、細く震えているだけだ。

中条は声がかけられないでいた。

 

しかし、正宗が手をパンと叩いた。

「ちっと、ちっと待って下さい!  見て下さい!  番号は、真下に並んでないっすよ!  三つ横に並んでから、下の列に続いてます。もっかい、もっかい見て、太郎先輩ー!」

正宗は、太郎の肩を掴む。

森も反対の肩を掴み、二人で持ち上げる。

中条は太郎のうつむいた顔をアゴを掴んで持ち上げる。

「世話が焼けるな!  ほら、もう一度確認するんだ!」

 

太郎は、消えゆく意識を堪え、もう一度、掲示板を見る。

 

「12830……12834……12840、し、下に行って、12844……12、128、1284、12845!  12845-! !」

 

掲示板には、12845の数字が確かに書いてあった。

 

「12845!  う、受かった」

 

太郎は、さきほどと同じように地面に倒れ込んだ。

 

「うおー!  やったぜ、太郎先輩! !」

「太郎先輩、おめでとうございます! !」

「うむ、よくやったぞ……よくやった」

中条の目には涙がたまっていた。

 

太郎は、暗く高い天井を寝転びながら見つめていた。

「やった、やったのか……いろいろ……色々、得たもの、失ったもの、様々あったが……努力は無駄にはならなかった。泳いで、必死に泳いで……なんとか、なんとか岸にたどり着いたんだ……」

 

男達の大声がホールに響き渡るが、ガードマンはしばらく見て見ぬふりをしていた。

 


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