第143話  強力タッグ

 

太郎は、コート姿の男の背後に回り込む。

間違いない。
この怪しさ満点の大男は志賀だ。

やはり郁美達を見ているようだった。
しかし、真後ろにいる太郎には全く気が付いていないようだ。

 

太郎は肩を叩く。

志賀はびっくりして振り向く。

「あっ、み、水河くん?」

「やっぱり、志賀さん」

「……妙なところであったね。デートかい?」

「……いや、一人です」

「ひ、一人で遊園地に?」

「志賀さんは?」

「……恥ずかしながら、僕も一人なんだ」

「まさか、あの一団を見張っているんじゃ?」

太郎は、メリーゴーランドから降りる郁美達を指差した。
志賀は少し驚いたようだ。

「う、な、なぜ分かった?」

「いや、その格好、怪しすぎですよ。凄く見つめてたし」

「そ、そうか。実は、あの中に僕の妹がいるんだよ。ほら、あのポニーテールの」

「い、妹?」

どうやら郁美の友人は、志賀の妹らしい。

「笑ってくれ。妹可愛さに尾行する馬鹿な兄を……」

「いや、志賀さん。実は僕も一緒なんです。もう片方のメガネでショートカットの女の子が、僕の妹分なんです。僕も彼女を尾行しているのです」

二人は固く手を握った。
神覇館のトップを走って来た、ライバル同士が手を組んだのだった。

「それにしても、志賀さん……変装がヒド過ぎです」

 

 

二人は遊園地で楽しむ四人を見つからないように尾行し続けた。
距離は近いものの、男子達は郁美らに触れようとはしない。

夕方が近づき、彼らは遊園地から出た。

「水河くん。どうやら何事もなかったようだ」

「いや、これからですよ! 遊園地の次は……カラオケですね、きっと。そこが鬼門です」

「むむ」

 

 

四人は駅の近くの繁華街の方に向かった。
だいぶ薄暗くなってきた。

まだ未成年なので居酒屋は無理であろうから、おそらくカラオケだろうと太郎は予想した。

 

そして、ついに野獣達が動きを見せた。

男子の一人が志賀の妹の肩に手を回したのだ。

手を握る前に肩に手を回すとはショートカットが過ぎるような気がした太郎だったが、横を見ると、志賀は既に試合中よりも数段高い殺気を放っていた。

「むうう、もう我慢出来ん! 水河くん、止めてくれるなっ!」

今にも男子達に襲いかかろうとする志賀を太郎は羽交い絞めにして止める。

「ちょっと、志賀さん! ここで殴ったら傷害事件ですよ! もうちょっと待ちましょう!」

「水河くん! あなたは自分の妹じゃないからそんな悠長なことが言っていられるのだ!」

なんか今朝も同じようなことを言われたような気がする。

 

そんなことをやっている内に、太郎の予想通り、四人はカラオケに入ろうとしている。
男子達が入店を勧めているが、郁美達が拒んでいるようにも見えた。

「これは女子が嫌がっているのが明々白々ですね!」

その時、もう一人の男子が郁美の手を握り、店にひっぱり入れようとしている。

「あー! あの糞外道がああー! 許せねー! ぶっ殺す!」

太郎は、相馬が乗り移ったかのような勢いで、男子達に飛びかかろうとしたが、今度は、志賀に羽交い絞めにされた。

「なんだ水河くん! 君も同じじゃあないか! 落ち着け!」

「う、うががが……」

 

太郎は深呼吸をして落ち着いた。

「しかし、このままでは妹達が、あいつらに……」

「そうですね」

既に太郎達の中では、四人が楽しくカラオケをするという想像は無い。

「しかし、志賀さん。あなたは行かない方がいいですよ。だって実の妹さんでしょ? 尾行されて、遊んでた男子を殴り倒されたんじゃあ、今後の家族関係に関わります。僕が一人で行きましょう」

「み、水河くん! 何か策があるのか?」

「あります! そのサングラス貸して下さい」

 

太郎は、サングラスを志賀から奪うと、もめている四人の前に立ちはだかった。

 

「おい、女の子が嫌がってるじゃないか! その手を離すんだ!」

太郎は郁美を手を掴んでいる男子を指差した。

「た、太郎先生?」

サングラスを掛けているだけなので、郁美にはすぐにばれたようだ。

「早く離せ、この馬鹿ガキ!」

太郎の作戦(?)は、怒って殴りかかってきた男子を返り打ちにし、正当防衛だけは成立させるというお粗末なものだった……が、男子は一向に向かってこない。

「ちょっと、な、なんなんすか、あなたは?」

それどころか、少し怯えているようだ。
郁美の手をすぐに離した。

「文句があるならかかってこい!」

サングラスの太郎はなおも挑発する。

「そんな、どうする?」

もう一人の男子もとっくに志賀の妹の肩から手を離していた。

「僕らはただ遊んでいるだけですよ。なんなんですか、あなたは?」

逆に冷静に質問されている。
近頃は不良も草食系なのだろうか。

そもそもそんなに悪い男達ではないのかもしれない。
太郎は、振い上げた拳を下げられないでいた。

「うるさい、去れ!」

もう訳がわからない。
男子達も顔を見合わせている。

「じゃ、じゃあ今日は、帰ります」

「俺は、また現れるぞ!」

「わ、わかりましたよ、もう、この子達には会いません! それでいいですか?」

「良いだろう!」

男子達は何が起こっているのかわからないが、とにかく郁美達にさよならを告げ、足早に去って行った。
太郎は、肩の力を抜いた。

「……ふー、なんだかわからんが、良かった」

 

郁美と志賀の妹が近づいてきた。

「ちょっと太郎先生、一体何してるんですか?」

確かに、郁美達への説明がつかない。

「あっ、いや、その……心配で……ね」

「えー?」

郁美が呆れたような顔をしている。

「ごめん、カラオケ行きたかった?」

太郎は申し訳なさそうに聞いた。
「ううん、全然。逆に行きたくなかったし、今日一日も何かつまんなかったよねー!」

志賀の妹が郁美の顔を見ながら言った。

「うん。太郎先生、なんか助かった感じだよ……変だったけど」

「そ、そう? じゃあ、良かった」

「郁美ちゃんのお兄さん?」

志賀の妹が郁美に尋ねる。

「まあ、そんなとこ」

「優しいんだね。うちのお兄ちゃんは空手ばっかりだけど、あたしを守ってくれたりしないよ」

そういえば、志賀は?

太郎が、辺りを見回しても、志賀の姿は無かった。
安心して帰ったのだろう。

「僕は、志賀さんを良く知ってますが……とても妹さん思いな方ですよ。今日のこともきっと心配していることでしょう」

「へ? なんで、お兄ちゃんのこと知ってるの?」

確かに知る術は無かった。

「あ、そ、その、顔?」

「私が、志賀ちゃんのお兄ちゃんのこと、太郎先生に教えてたんだよ―」

「あーそーなんだ」

郁美がフォローをしてくれた。

 

 

志賀の妹に別れを告げ、江ノ電に乗る太郎と郁美。

「どうして、あの時……」

「だって、遊園地から太郎先生がついてきてたのわかってたもーん。おっきな怪しい男の人もいたし。あの人が志賀ちゃんのお兄さんでしょ?太郎先生は、どうせ、パパにお願いされたんでしょ?」

「あれ? ばれてた?」

「志賀ちゃんはわかってなかったみたいだけどね。お兄ちゃんが後ついてきたなんて、知らない方がいいもんね」

「ごめんね」

「ううん、嬉しかったよ。頼りになるね、太郎先生は」

そう言って、郁美は太郎の頬を指でつついた。

「わわわ」

 


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