第142話  ライバル再び

 

最近の太郎は、4時半に目覚る。

開店の準備をする前に、朝ごはんを用意するためだ。
太郎は、着替えを済ませ、店に向かう。

 

喫茶店のすぐ裏に母屋がある。
一階には、リビングとマスターの部屋。
そして、二階には郁美の部屋と太郎が寝泊まりさせてもらっている部屋がある。

もともとマスターが夫婦で使っていた部屋だったようだが、妻はほとんど家には帰らないため、荷物置き場のようになっていた。

今は、その部屋が太郎の空間となっていた。

 

太郎は思う。

「ここ数年は、他人の家に上がり込んでばかりだな。俺は居候する運命にあるのだろうか。なんだかドラえもんみたいだな」

いつも5時にはマスターが店内にやってきて、一緒に朝食をとる。
郁美は、学校のある日は、6時半くらいにやってきて、食事を済ませ、登校する。

 

しかし、その日、マスターは、いつもより早い5時前に店内に現れた。
朝食を作っていた太郎はびっくりした。

「あれ、おはようございます。今日は早いですね」

「ああ、おはよう……」

なんだか、機嫌が悪そうだ。
今日の朝食は、トーストとゆで卵、それに玉ねぎ入りのコンソメスープだ。

「マスター、どうかしたんですか?」

「……実はな、今日、郁美がデートに行くんだそうだ」

マスターは絞り出すような声で言った。

「へ? デ、デートですか? ほー……そうですか。まあ、受験まで時間もあるし、年頃だし。いいですね、楽しそうだ」

「……俺はね、今日、店を閉めて、偵察しようと思っているんだ」

マスターの意外な言葉に太郎は耳を疑った。

「なっ、え、店を閉める? 偵察の為に店を閉めるって、本気ですか?」

「きっ、貴様ー!」

マスターは拳を握りしめ、立ち上がった。

「わー!」

「太郎君は、自分の娘じゃないから、そんなのん気な事が言えるのだ! 相手がどんな野郎かもわからないんだぞ! 誘拐され、監禁されたらどうするんだー!」

マスターの声の波動でコンソメスープが波打つ。

「マ、マスター落ち着いて下さい」

マスターはどっと、椅子に腰を下ろした。

「まあ、アイスコーシーでも飲んで……」

「うむ……」

太郎は冷やしたてのアイスコーヒーをすすめた。

「……相手は横浜の男子校生らしい。横槍高校とかいう。名前からして駄目だ。偏差値3くらいのアホ高校だろうな」

「さ、3って」

「その横槍に郁美の友人の知り合いらしい。2対2のダブルデートってやつか」

「ほお、いいで……なるほど」

いいですね、と言いそうになり、言葉を変えた。
どんな逆鱗に触れるか分かったものではない。

「男子校の奴なんて……最悪だ。女性のいないところで生活してるような奴らと、一緒に遊園地だなんて……ライオンの檻の中に入るようなものじゃないか」

そんなようなものではないような気がしたが、マスターの沈痛な面持ちを見ると、何も言えなくなる。

先ほど、マスターの機嫌が悪そうだったのも、おそらく、この件で郁美と言い合ったのが原因だろう。

 

と、店のドアが開いて、郁美が顔をのぞかせた。

「パパ、行ってくるからー!」

郁美は、つっけんどんな言い方で手を振り、出かけていった。
本当にケンカ中なのだろう。

しかし、わざわざ挨拶していくのは、やはり郁美は良い子なのだろう。
太郎は、素早く業務用のエプロンをはずした。

「わ、わかりました。店を閉めるのは、辞めて下さい。僕が、僕が偵察に行きます。郁美ちゃんは、僕にとっても妹のような存在です。彼女にもしものことがあったら、僕も苦しむことになるでしょう。マスター、僕に行かせて下さい!」

太郎の言葉を聞くやいなや、マスターの顔色が変わった。

「おお、太郎君! 空手有段者の君なら安心だ。その外道達が、郁美に指一本でも触れようものなら、二度とスマホを握ることが出来ないようにしてくれ!」

「お、押忍」

 

 

郁美の後を追って、江ノ島駅に着くと、郁美の友人らしき女性が待っていた。
ポニーテールで、こちらも可愛らしい。

 

二人は江ノ電に乗り込む。

太郎は見つからないように、二人とは別の車両に座る。

 

 

目的の駅に着くと、そこにはいかにもチャラそうな二人組が待っていた。
茶髪でセミロング、ワックスでバッチリで二人とも同じような髪形だ。

「げー! なんだあいつらは! 俺が一番嫌いなタイプだぜー! これはマジで、見張らないとだな」

 

 

神奈川郊外にある遊園地。
4人は何やら楽しそうに会話しながら移動する。

「ちっ、あの野郎共、やけに距離が近くねーか?」

 

メリーゴーランドに乗る時には、男女組になって乗っている。

「くー、マジでいらいらしてきたぜ! あんな外道達と可愛い郁美ちゃんが遊んでいるなんて」

と、やきもきしていると、太郎の視界に不審な男がいるのに気付いた。

「ん? なんだあいつは?」

その男は太郎から10m程離れたゴミ箱の後ろの方に立っており、大きな身体を黒いコートに包みこみ、黒いサングラス。
いかにも目立つし、怪しい。

その男も郁美達を見ているようだった。
そして、その男は太郎の良く知っている人物だった。

「あっ、あれは……志賀……さん?」

 


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