第133話  お嫁にしてね

 

「いってらっしゃい、タロちん」

今日は、太郎が公務員試験の勉強を始めてから、初の模擬試験の日だ。

公務員の試験は多岐にわたっており、択一試験、記述試験、論文試験、面接試験などがある。

この日は、本試験まで3ヶ月前ということで択一の試験のみが行われる。

だが、勉強のウェイトとしては一番重く、科目も憲法、民法などの法律系、ミクロ・マクロ経済学、財政学などの経済系、その他、社会学や経営学などの他に、歴史や理科、算数などの高校で学ぶものまである。

その中でも、配点の少ない科目や費用対効果の薄い科目などがあるので戦略的な勉強法が必要となる。

「今回の模試は、50点満点だ。一般的な自治体なら35点くらいあれば合格圏内らしい。ならば俺は40点くらいを目指そうかな」

太郎には自信があった。
可愛い女性と同棲しているとはいえ、平日の昼間は思う存分一人の時間がある。

空手で培った集中力でどんどん科目を消化していった。

 

 

都内の予備校が会場。

試験場に来ている受験生達はみな太郎よりも3、4歳若いようだ。
それもそのハズで、受験生達は大学3年生が多いのだから。

「むむ、みんな若いな。人生を全うに生きてきてる奴らだ。くそう、そんな彼らに負ける訳にはいかん」

 

 

試験が終わり、感触としてはまずまず。
帰りに駅の中にある喫茶店で採点をしてみる。

「う……いきなり間違えてる。そうなんだよ、微妙な選択肢が多かったからなあ……。う……次も、げ!  次も! ……あわわわ、もう採点したくねえ」

第一問目から連続で間違う太郎。
採点が終わってみれば、50問中、20点。
半分も正解していない。

確かに勉強を始める時期は遅かったが、環境も悪くないし、勉強に使える時間も多かったはずだ。

「ううう、俺、頭悪いのか……こんなんじゃ絶対受からねー!」

 

夜、葉月に模試の話をする太郎。

「えー!  タロちん、公務員の試験をそんなに甘く見てるの? いくら調子が良くっても勉強始めて2ヶ月で合格圏内に入るなんて無理じゃん? そんなに簡単なら予備校なんていらないよー」

「うっ、確かに。甘い考えだったかな」

「後、3ヶ月あるし、それまでに実力が付けばいいんだよ。ファイト!  タロちん」

「そうだね、ありがとう。葉月さんにとってはパティシエになることが夢。僕にとっては公務員になることが夢……なんか、僕はしょぼいなあ……」

「そんなことないよ……じゃあ、公務員になったら、私をお嫁にしてね」

「うっ!」

唐突だった。
しかしごく自然なことだ。

年頃の女性と同棲しているのだ。
同棲している状態で、公務員になって、ハイさよならよ、なんて言える訳が無い。

そもそも葉月は太郎の事が好きなのか?
それは一緒に住んでいるくらいだから好きなんだろう。

しかし、太郎の事を結婚相手にと思っていたのだろうか。

ある種、太郎は安心していた。
葉月は、結婚とかそういう煩わしい話題を持ち合わせていないと勝手に思っていたのだ。

しかし、振ってきた。核心的な話題を。

「うう!」

「やだー、恥ずかしがっちゃって」

太郎には、公務員試験と同時にもう一つ課題が出来た。
このまま、葉月と付き合うことになれば、決定的に糸は切れる。

細くなったあずさとの糸が。

 


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