第125話  結末

 

『これより、第40回全日本大会、3位決定戦を行います!  ゼッケン1番、志賀創二、神奈川!  ゼッケン72番、水河太郎、東京! 』

ついに志賀との因縁の対決が始まる。
2年前の第38回全日本の三回戦でぶつかって以来だ。

当時はまるで歯が立たなかったが、今はどの程度通じるのか。
太郎は気合とともに壇上に駆け上がる。

……が、志賀の姿が見えない。
相手サイドの壇上の下にもいないようだ。

 

『志賀創二選手は、準決勝戦での負傷によりドクターストップとなりました。よって、水河太郎選手の第3位が決定いたします』

「へ?」

 

医務室では、志賀が泣き崩れていた。
準決勝でロベルトから受けた下段でモモの筋肉が断裂し、立ちあがることも出来ない状態だった。

因縁の対決を心待ちにしていたのは志賀も同じだった。
それが、こんな形で勝敗が決まってしまうとは。

「うううう、くそっ、くそう!」

悔しさにうち震える志賀に、辻が静かに口を開く。

「創二。仕方がないさ。そんな状態で試合場に上がっても、満足のいく試合なんて出来ないだろ。来年、またチャンスがあるさ」

「ううう……押忍」

 

なんと、太郎は戦わずして、第3位に輝いた。
そして、この瞬間に相馬軍団による表彰台の独占が決まったのだった。

相馬軍団による全日本制覇が決まった。

 

「まあ、どうあれ、やったじゃねーか、太郎。俺様の長年の夢が叶ったようだな」

「押忍!」

相馬に笑顔が浮かぶ。
そしてロベルトの肩を叩く。

「よし、ロべよ。俺らで日本最高峰の戦いを会場の皆さんに見せつけてやろうじゃねーか。遠慮はいらねーぜ!」

「お、押ー忍!」

太郎は、壇上に向かう二人を見送る。

「二人とも頑張って……」

 

 

『それでは、これより第40回全日本大会決勝戦を行います。ゼッケン64番、ロベルト・フェルナンデス、東京!  ゼッケン128番、相馬清彦、東京! 』

 

二人が壇上に上がる。
太郎にも緊張感が伝わる。

会場からは、大きな拍手が鳴り響く。

 

『始めい! ! 』

決勝戦の開始太鼓が鳴り響いた。

ロベルトは相馬目がけて突進する。
そして突きの連打を放つ。

相馬は下がりながら突きを捌き、カウンター気味の下突き、そして上段、後ろ回しと華麗なコンビネーション。
ロベルトが下段を打てば、軸足へのカウンター。
ロベルトが距離を詰めれば、前蹴りで距離を調整し、常に自分の組手を展開する。

やはり、相馬との差はまだ開きがあるようだった。

 

「す、凄い。ロベルトのあの圧力に対しても、あんなに冷静に捌けるなんて……」

太郎は二人の戦いに魅入る。
会場も同じで、盛り上がりが加速していく。

 

相馬は中盤、ロベルトの横に回転しつつ、突きと下段を効果的に当て始める。
表情は真剣である。
勝負を決めようとしているようだ。

 

「こ、このまま本戦で決まるか?」

太郎の手に汗がにじむ。

 

「うおおおお!」

追いつめられたロベルトは突きの連打を相馬に浴びせる。
そして強引気味に膝の連打を当てて行く。

すると相馬の動きが鈍くなった。
突然、受けが中心となった。

 

「な、なんだ。俺との試合の時のように、受けのみにしているのか?」

 

そして、ロベルトは膝で相馬のガードを跳ねあげ、渾身の左中段回し蹴りを放つ。
と、相馬は表情がこわばり……膝をついた。

 

「なななな! !」

会場が、どよめく。
ロベルトの中断回し蹴りによる技ありが宣告された。

「まさか、俺との準決勝と時に……」

太郎の一本拳からの中断回し蹴りによって、相馬のアバラは折れていたのだった。
それでも平静をよそおい、なお華麗な空手を繰り広げていたのだった。

 

相馬の顔に脂汗がにじむ。
試合が再会され、ロベルトが攻めるが、相馬はもう技が出ない。

しかし、下がらない。

「うおおおお!」

相馬の気合の声のみがこだまする。

ロベルトは攻撃の手を緩めた。
明らかに手を抜き始めた。

会場の空気も一変する。

このままでは、全日本史上初の外国人王者が誕生する。
それは、いままでの神覇館の歴史上大きな事件となる。

なによりも相馬が意識してきた日本人による全日本の王座の死守を、自らの手で破ることになる。

相馬の表情が青ざめてきた。
太郎は、こんな表情の相馬を見るのは初めてだった。

「そ、相馬、せん、ぱい……」

ロベルトは試合中だというのに、言葉が漏れる。
ロベルトは完全に手が止まった。

 

「ロベー!  何やってるんだ!  そんなんで相馬先輩が喜ぶと思うかー! !」

大声を上げたのは太郎だった。
すでに涙で顔が濡れている。

「ロベ!  相馬先輩はそんなことをお前に教えてきたのか!  違うだろ!  俺達は相馬先輩から相馬空手を学んで来た!  それは決して、相手に情を掛けるようなものではなかったハズだ!  戦え!  戦うんだ、ロベルト! !  相馬先輩に見せるんだ、俺達が教えてもらった相馬空手をっ!」

太郎は、叫び、歯を噛みしめる。
涙が止まらない。
自分の師にとどめを刺せと言っているのだから。

 

ロベルトは太郎の声を聞き、攻撃を再開した。
もう本戦残り時間もわずか。
ロベルトは全力で相馬に攻撃を浴びせる。

しかし、相馬も満身創痍ながら、ロベルトの攻撃を捌き、カウンターを返す。
まるでロベルトに何かを教えるように……。

 

本戦3分間が終わった。
判定はロベルトの5-0の完勝。

ロベルトは師の相馬に勝利し、外国人初の全日本王者に輝いた。

 

試合が終わり、相馬はゆっくりとロベルトに近づく。

「そ、そ、相馬、相馬先輩ー!」

ロベルトは涙を流しながら相馬に抱きつく。
しかし笑顔は無い。

「ぼ、僕、ぼく……」

相馬は笑顔を見せた。

「ど、どうしたよ。ロべ。優勝だぞ。しかも、お、俺様に勝ってのな。もっと喜べよ……」

相馬はロベルトの手を握りしめた。

「おめでとう。ロべ、おめでとう……強くなったな」

そう言って、相馬は壇上を降りる。

 

下では太郎も泣いている。

「そ、相馬先輩……」

「太郎、ありがとうな。お前の言葉が無かったら、最低な試合になってたぜ。ありがとうな」

なんだかお別れの台詞のように聞こえた。

「せ、先輩……」

「ちょっと、一人にさせてくれ……」

 

 

相馬は表彰式に現れなかった。
表彰台は準優勝者不在のまま執り行われた。

優勝したロベルトにも、第3位の太郎にも笑顔は無かった。

相馬軍団は、全日本の頂点を極めた。
そして……

相馬は姿を消した……

 

【 第40回全日本大会結果 】

優 勝 ロベルト・フェルナンデス (25) 東京 
準優勝 相馬 清彦 (28) 東京  
第三位 水河 太郎 (25) 東京        
第四位 志賀 創二 (25) 神奈川 
第五位 ヴィンセント・パンディーノ(21) イタリア
第六位 塩田 博 (23) 東京 
第七位 五十嵐 徹平 (39) 熊本   
第八位 伴 信一 (26) 香川  

 

第40回全日本大会結果

 


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