第122話  ラフプレー

 

準々決勝、最後の試合は五十嵐vs相馬。
実に8年ぶりの対戦となった。

相馬は高校生大会3連覇で一躍脚光を浴び、20歳で鳴り物入りで第32回全日本に出場した。
70kgそこそこの青年は、全日本の強豪を次々と打ち倒し、準々決勝まで勝ち上がった。
そこで目の前に立ちはだかったのが、不動引退後の全日本のエース、五十嵐だった。

相馬の華麗なる組手は五十嵐には全く通じなかった。
五十嵐は突きや蹴りを無茶苦茶に繰り出し、気合と勢いだけで勝利を重ねていると思われてきたが、戦ってみて、相馬はそうではないと分かった。

五十嵐は相馬が突きや蹴りを出すタイミングで肩口に伸びのある突きを打ち込みバランスを崩した。
技の完成度は高かったが、それを崩されれば、相馬に勝てる道理は無かった。

 

夏の体重別全日本では二回戦敗退の五十嵐だったが、相馬はいぶかった。
今年はその他小さな地方大会にもほとんど参加していなかった。

相馬は、五十嵐がこの全日本に照準を合わせ体調を整えてきていると見ていた。
そしてその通り、五十嵐は海外の刺客、ハンス・ミケルセンを破り、日比谷、清田といった若手有望株を撃退し、準々決勝まで進出してきた。

 

『ゼッケン100番、五十嵐徹平、熊本!  ゼッケン128番、相馬清彦、東京! 』

 

全日本王者経験者同士の対決が始まる。
相馬は172cm、78kg。
五十嵐は173cm、85kgと身体の大きさはさほど差は無い。

試合が始まると相馬は、すり足で距離を縮め、後ろ回し蹴りを放つ。
通常選手だと、蹴りを避けるか受けるかだが、五十嵐は相馬が回転した瞬間に身体ごと体当たりし、相馬のバランスを崩す。

そして、態勢が整わぬ内に突きの雨を降らせる。
相馬は、なんとか前蹴りで距離をとることが出来た。

相馬は顔は笑っているが、内心は面喰らっていた。

「(このオヤジ……一体どうなってんだ。あの踏み込みの早さ、そして勝負勘。右手の大怪我がなけりゃあ、今もなお上位に君臨出来る実力を持ってやがる)」

五十嵐は相馬に向かってくる。
相馬は、再度後ろ回しを放つが、今度はその蹴り足を掴み相馬を投げた。

ルールでは掴みは禁止されている。
主審が注意すると、五十嵐は丁寧に謝った。
相馬は跳ね起きて構える。

「(ちっ、なんだあの演技満点の謝罪は。くそっ、全然自分の空手が出来ねえ)」

相馬は、突きから上段へのコンビネーションを主体に攻めるが、ところどころで相馬は道着を掴まれ、うまく技が打てない。しかも主審や副審に見えないように絶妙に掴みを入れてくる。

「(おもしれーことやってくれるじゃねーか! )」

相馬は突きの連打から胴回し蹴りを放つ。
が、空を切った。
しかし、倒れ込んだ相馬の首元に転んだ振りをして五十嵐が膝を打ち込んできた。

「ぐっ!」

相馬が顔を歪め、せき込む。

「おー、すまんすまん。突然あんな技打つなんてなー、さすが相馬だな。審判先生方も、すいません」

五十嵐のわざとらしい一連の動作にも、相馬は楽しんでいるようだ。

「ごほごほ、いや、五十嵐先輩。いいんですよ。どんどん来てください!  熟練の技をね」

「ふふ、楽しませてくれるなあ!」

 

ここで本戦3分が終了した。
ここまで全て本戦決着だった相馬が今大会初めて延長戦に突入する。

延長戦、五十嵐はラッシュを仕掛けて来た。
相馬は、距離を取ってカウンターで返そうとしたが、その度に、首やアゴに突きが飛んで来た。
もうすでに巧妙さは無く、堂々と殴りかかるシーンもあった。

主審も再三注意をするが、止まらない。
さすがに主審が止めに入る。

「五十嵐、顔面殴打だ。減点だ!」

五十嵐は減点を取られた。
こうなると、五十嵐は技あり以上を取らねば勝ちはない。
しかし、顔には笑顔が浮かぶ。

「まだ、時間はあるぜ、相馬」

相馬も、五十嵐のラフプレーをとことん楽しむことにした。
お互い正面からぶつかり突きの打ち合いとなった。

延長戦2分が終わり、相馬の優勢勝ちとなった。
相馬の口からは血が出ている。

「いやー、五十嵐先輩。酷いことしてくれますね」

「ふふ、どうだったよ。楽しいケンカだったろ。どうも最近のお前の組手は上品でいけねーや」

「押忍、ありがとうございます」

お互いに笑顔で握手をする。

 

ここで、準決勝進出の4人が決まった。
その4人とは夏の体重別全日本大会の各階級の王者だ。

軽量級を制した太郎、中量級の相馬、軽重量級の志賀、そして重量級のロベルト。
うち3人は相馬軍団である。

完全に相馬軍団の時代が来た。
特報神覇館に載った、相馬軍団による表彰台の独占も夢ではなくなってきたのだ。

 

準決勝は、志賀vsロベルト。
そして初の師弟対決、太郎vs相馬が実現した。

壇上の下で相馬軍団はお互いに顔を見合わせた。

「つ、ついに、相馬先輩と、戦うことに……」

相馬は太郎の頭に手を乗せる。

「てめー、糞太郎の分際で、この俺様の前に立ちはだかるとはなあ!  くくく」

普段、一緒に汗を流し、上を目指してきた3人がこれから死闘を繰り広げるのだ。

 

第40回全日本大会途中経過

 


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