第121話  駆け引き

 

「太郎ー、あと20秒ダヨー!」

「太郎の野郎……強くなったな!」

ヴィンセントと真正面からぶつかる太郎に、相馬から思わず漏れた褒め言葉。

 

再延長戦が終わった、二人とも肩で息をする程の状態。
だが、両手を前に出し、静かに判定を待つ。

初めて再延長戦まで戦い抜いた太郎だったが、体力が切れることはなかった。
たった7分間の戦いであったが、長く厳しいものであった。
相馬からかつて「7分戦い抜くにはその一万倍の稽古が必要だ」と言われたのを思い出した。

 

『判定をお願いします……判定っ! 』

 

再延長戦も0-0の引き分けとなった。
ついに今大会初めての板割判定となった。

板割判定とは、本戦3分、延長2分、再延長2分でも勝敗が付かなかった場合に、自らが申告した板を割り、その枚数で決着をつけるというものだ。
ただし、無差別の大会ということで、体重の軽い選手に有利になるように、体重の重い者から先に枚数を申告することになっている。

かつてこの板割判定が大舞台で行われたことがある。

8年前の第32回全日本の決勝だ。
五十嵐とレオナルドの試合は再延長戦でも決着がつかず、同じように板割判定となった。

体重の重いレオナルドは6枚を申告。
五十嵐はそれを上回る7枚を申告。

レオナルドが先に板割を行い、6枚割りに成功。
その後、五十嵐は自分の拳と引き換えに、まるで板の塊のような7枚の板を割り、全日本の王座を死守したのだった。 

 

ヴィンセントはうろたえている。
板を割ったことなどないし、拳を特に鍛えている訳でもなかったからだ。
怯えた表情でマルチェロを見る。

「Merda!  Infatti che ci fosse un tipo per mandare a Vincent altro partito a qui!  Comunque, rompa un’asse a Vincent; non l’hanno trapanato. Il tipo ha il potere, ma questa manovra ha bisogno della tecnica…(くそっ!  まさかヴィンセント相手にここまでやる奴がいたとは!  しかし、ヴィンセントには板を割る練習をさせたことはない。奴は、パワーはあるが、この手技は、技術も要するからな……)」

「Marcello…(マルチェロ…)」

「Vincent!  Un compagno è un giocatore leggero!  Cinque pezzi non sono rotti, anche.(ヴィンセント!  相手は軽量の選手だ!  5枚も割れはしないさ)」

「ho saputo.(わ、わかった)」

ヴィンセントは主審に5枚を申告。

 

次は太郎の申告だ。しばらく考えた末。

「自分は6枚でお願いします」

と、申告。ヴィンセントが割れないと見れば、1枚であっても太郎が成功すれば良い。
しかし、ヴィンセントのパワーからいっても5枚は割る可能性は十分ある。
太郎は6枚を申告するしかなかった。

 

「くっ、太郎の野郎、大丈夫か?」

「あ……でも、太郎は……」

「ん?」

 

ヴィンセントはレンガの上に5枚重ねられた板に向かって突きを打ちつける……が、板は割れずに飛び散り失敗。
太郎は、1枚を申告し、それを割れば勝利だったことになる。

しかし、太郎の前に積まれたのは6枚もの板の束だ。
失敗すれば、さらなる延長戦が待っている。

太郎は、大きく息を吸い込み、6枚の板に向かって拳を打ちつける。
板はきれいに真ん中で裂けて割れた。
なんと太郎は6枚の板を割ってのけた。

会場からは割れんばかりの歓声が上がった。

 

「おっしゃー!  太郎の野郎、やりやがったー!」

「オー!  太郎は、暇さえあれば拳を鍛えていたからね」

「おお、そうか!  そうだったな。太郎にとっちゃあ、板割は得意分野だった訳だ。ったく、何が起こるかわからねーな」

 

太郎とヴィンセントは壇上で抱き合う。
お互い言葉は通じないが、気持ちは通じている。
笑顔で固く握手をし、両者は壇上を降りる。

ヴィンセントはイタリア支部の道場生達に頭を下げる。

「Tutti……Mi dispiace. Sono stato capace di avere una tale probabilità grande.(皆さん……申し訳ありません。こんな大きなチャンスをいただけたのに)」

皆、ヴィンセントをたたえた。
それはマルチェロも同じであった。

「Vincent è stato prezioso.(ヴィンセント、惜しかったな)」

「Marcello……Mi dispiace e non posso accordare un’ambizione di Marcello.(マルチェロ……すいませんでした。あなたの野望を叶えることが出来なくて)」

「Feces, il tipo corto, forte  che, bene, è buono, e, comunque, è la marmellata di fagiolo in Giappone.(ふん、まあいいさ。しかし、日本にあんなチビで強い奴がいたとはなあ)」

「Abbiamo incontrato quella Sig.a kava il giocatore.(僕らは、あのミズカワ選手に会ったことがあるんだよ)」

「Quello che è dove?(何? どこでだ?)」

「È in tutti i 22esimi luoghi d’incontro di distinzione di peso che Marcello ha partecipato a del Giappone.(マルチェロが参加した第22回の体重別全日本の会場でだよ)」

「Chi è stato là un tal tipo nei tipi che mi hanno affrontato?(何? 俺と対戦した奴で、あんな奴いたか?)」

「No……È il tempo quando Marcello esortò una donna graziosa in un corridoio.(いや……マルチェロが廊下で可愛い女性を口説いてた時さ)」

「……Oh, se è il tipo che ha disturbato quel camioncino? è andato, o un debito in allora mi è stato restituito se è stato un tipo!  di quegli occhiali.(……あ!  あのナンパを邪魔した奴か? あのメガネの? そうか、奴だったのか。ふん、俺は、あの時の借りを返されたって訳だ!  ハハハハハ)」

 

第40回全日本大会途中経過

 


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