第120話  ヴィンセントとの死闘

 

ヴィンセントは鋭い突きを打つが、蹴りまでつなげるようなコンビネーションはない。
ヴィンセントの突きよりも太郎の回転の方が早く、回り込んで突きと下段で攻めて行く。

そして本戦が終わった。
判定は0-1で引き分け。
旗が一本ヴィンセントに挙がったのみだった。

ヴィンセントは涼しい顔をしている。
当然に延長戦を戦うと決めていたようだ。
下で腕組みしているマルチェロはヴィンセントに声を掛ける。

「Lo decida in Vincent, poi.(ヴィンセント、次で決めろよな)」

「Si.(押忍)」

ヴィンセントはマルチェロに静かに返事をする。

 

 

二分間の延長戦が始まる。
試合が始まると、ヴィンセントは構えを解いた。

刹那、飛び後ろ蹴りが太郎に飛んで来た。
太郎は後ろに下がって避けるが、着地と同時にまた飛んでくる。

二発目は避けることが出来ず、勢いづいた中段目がけた蹴りをガードする。
受け手が折れてしまうような激痛。

しかし、これだけでは終わらなかった。
三度目の蹴りが飛んで来たのだ。

太郎は、堅く腹をガードするが、蹴りは太郎の上段を狙ったものだった。
ギリギリで蹴りの軌道に気付いた太郎は顔を避けるが、顔面に蹴りがヒットし、太郎は倒れた。

会場からは、叫び声が上がった。
しかし、太郎はすぐさま立ちあがった。

頬は赤くはれ上がっている。
太郎は飛び後ろ蹴りによる技ありを取られた。

さらには、今にも倒れそうな頭部へのダメージ。
視界が何重にも見える。

 

「オーマイガッ! !」

「ふう。野郎、意地か無意識か、うまく立ちあがりやがったなあ。だが、技ありを取られた。こっから、技ありか一本を取らないといけねーとはな」

相馬の表情も険しくなる。

 

技ありを取ったヴィンセントだったが、太郎が立ちあがってきたことに面喰らっているようだ。
太郎は、ヴィンセントの動きが止まっているお陰で、ふらつきが回復してきた。

「(し、死ぬ。なんて連続技だ。まともにくらったら、やっぱりアウトだったな。だが、喰らったことで恐怖は逆に薄くなったぞ)」

太郎はガードを固める。

「(今、落ち着いて考えれば、まだ稽古してきた技を出してないんだ。相馬先輩にすら内緒で練習してきたあの技を)」

ヴィンセントが唖然としている最中、太郎は突進する。
ヴィンセントは前蹴りで牽制するが、左手で受け流し、太郎はヴィンセントのあばらに突きを打ち込む。
ヴィンセントの顔が歪む。

 

「あ、あれは……一本拳?」

「オー、太郎が辻選手から受けた技ネ!」

一本拳とは、中指の第二関節のみを突きだして打ち込む技で、相当な稽古が必要となる。
第24回体重別全日本の決勝。
太郎は辻によって、一本拳からの上段蹴りに倒された。

それ以降、太郎は相馬やロベルトに内緒で一本拳の稽古を積んできた。

始めはクッションや枕などに打ち込むだけで拳が痛くなった。
次第に砂、土、サンドバッグと固いものを打ってゆき、今や樹木やコンクリートにも打てるようになった。
太郎の中指第二関節には大きなタコが出来ていた。

 

太郎はヴィンセントの突きに合わせて一本拳を打ち込む。
だが連打をすれば拳が壊れるかもしれない。
慎重に打つタイミングを計って、通常の突きと組み合わせて打って行く。

ヴィンセントは単発の強打で組手を進めて来たが、焦りの表情と共に、技の組み立てが乱れて始めた。
あまり使わない中段や下段も出す。

 

「Vincent!  Qualsiasi!  Lo completi da una via, un colpo pesante finora!  La combinazione non e necessaria per Lei!  Non salga sul passo del compagno!(ヴィンセント!  何やってんだ!  いままで通り、強打で組み立てろ!  お前にはコンビネーションは必要ないだろ!  相手のペースに乗るな!) 」

マルチェロは声を荒げるが、ヴィンセントは太郎に回り込まれ、一本拳の餌食になっていく。
ヴィンセントは強豪ではあるが、まだ21歳。

さらには、マルチェロの計略により、大きな大会への参加経験が少ない。
このことが、冷静さを失わせることになった。

ヴィンセントはいったん後ろに下がり、距離を取り、飛び後ろ蹴りを放つ。
太郎は、このチャンスを逃さなかった。

ヴィンセントの蹴りを見切り、かわし、打ち終わったところに右上段回し蹴りを放った。
それは、カウンター気味に入り、ヴィンセントは倒れた。

ヴィンセントはすぐに立ちあがった。
一本にはならなかったものの、太郎は技ありを取り返した。

会場は大歓声に包まれる。

 

ここで延長戦が終了し、判定は0-0の引き分け。
試合は2分間の再延長戦に持ち込まれた。

もはや両者とも隠し技は残っていない。
最後は激しい打ち合いだ。
真っ向から突き、下段、膝などのガチンコ対決となった。
会場はこの二人のど突き合いに大いに盛り上がる。

 

第40回全日本大会途中経過

 


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