志賀に死角は無かった。
勢いに乗る塩田から中段蹴りで技ありを取り、快勝。
準決勝進出を決める。

 

そして、重量級の強豪、伴信一とロベルトの一戦が始まる。
ここまでは第一線の選手とはぶつからずにベスト8まで進出したロベルト。
ここで真価が問われる。

試合が始まると超巨漢相手に正面に構え、重い突きを一発づつ打ち込んで行く。
伴は構わず突きと下段で前に出るが、ロベルトは一歩も下がらない。
伴の攻撃に合わせて突きを同じ場所に当てて行く。

ロベルトは倒すことを念頭に置いた組手を展開する。
今回も伴にダメージが蓄積していく。
明らかに動きが鈍くなっていく。

後半、ロベルトは突きに加え、膝蹴りを腹にめり込ませる。
伴の顔が歪む。
太郎は、ロベルトの強さに声を失う。

「こ、ここまで強いのか、ロベルトは? 伴選手相手に突きと膝蹴りだけ? どのくらい強いのかが分からない……」

ロベルトは本戦で準決勝進出を決める。
笑顔で壇上から降りて来た。

「次は太郎ダネ!  頑張ってネ」

「あ、俺か!」

相馬が太郎の尻に蹴りを入れる。

「アホ!  いつまで応援団なんだよ。てめーは今から全日本の準々決勝の舞台に上がるんだぞ!  それも、世界屈指の強豪が相手だ。存分に楽しんでこいや!」

壇上の反対側には、静かに目を閉じているヴィンセントが立っている。

「お、押忍!」

 

『これより、準々決勝第三試合を始めます。ゼッケン72番、水河太郎、東京!  ゼッケン88番、ヴィンセント・パンディーノ、イタリア! 』

 

マルチェロの送り込んだ刺客、ヴィンセント・パンディーノ。
ここまでの試合を見れば、この男が世界大会でも上位に進出出来る実力者であることが分かる。
海外選手と始めて対戦する太郎は、緊張とは別に、ほんの少しワクワクした感じを味わっていた。

 

『始めい!』

試合が始まった。
会場はしいんとしている。

と、突然、ヴィンセントは身体を回転させ、飛び後ろ蹴りを放った。
太郎はとっさに腹をガードした。
腹だけに防御を集中した。

ヴィンセントの踵が太郎のガードの上に打ち込まれた。
太郎はその衝撃で壇上の外に吹き飛ばされ、ロベルトと相馬の上に落ちた。

「オー、太郎」

ロベルトも思わず声を上げる。
主審が壇上に上がるように指示しているが、太郎の頭は真っ白になってしまった。

「(な、なんだ今のは? じょ、冗談だろ? あんなのまともに喰らったら死ぬぞ。し、しかもたまたまガードした中段に飛んで来たが、あれが顔面に飛んできていたとしたら? 俺は、今、どうなっていたんだ?)」

太郎は怯えた表情で壇上に戻る。
構える手が震えている。

「(こ、これが世界レベル? 相馬先輩はこんな怪物達と互角以上に渡り合っているのか?)」

 

試合が再開される。

「(こ、怖い。嫌だ、戦いたくない。逃げたい)」

ヴィンセントの鋭い突きが太郎を襲う。
太郎は身体が硬直し、攻撃を受けることすら出来ていない。

「馬鹿野郎ー!  何ビビってんだ!  戦え!  動かなきゃ的になるだけだぞー!」

相馬の声が聞こえる。
が、恐怖で身体が動かない。

「オー、太郎!  相手の距離になってるよー!」

「ちっ!  もう奴は駄目だ。戦意喪失だぜ」

太郎は、ヴィンセントの突きの連打で試合場の外に落ちた。
開始1分で勝敗が決まったようだ。
太郎は、ゆっくりと立ち上がるが、目はうつろだ。

 

「水河、なんだそのザマは」

太郎が声のする方を向くと、総本山の山岸が立っていた。

「や、山岸さん……」

「お前はその小さな身体で、重量級王者の俺を倒したんだぞ。その時はどう戦った? 回り込んで、カウンターを使ったろ? よくヴィンセントの戦い方を見てみろ。そんなに複雑な組手か? 攻撃力は高いが、突きと飛び技がメインだ。今のお前なら手も足も出ないということはあるまい」

「……お、押忍」

太郎は、山岸の言葉を聞き、頭を切り替え、壇上に駆け上がった。
相馬は突然現れた山岸に驚いている。

「おい、ハゲ。何だよ、俺様の弟子にアドバイスとは、どういう風の吹きまわしだよ」

「黙れ。ヴィンセントの強さは本物だ。今大会の王座を脅かす存在だ。お前じゃ頼りないからな。水河に倒してもらいたいってわけだ」

「けっ、俺様が負ける訳ねーだろ、ハゲ」

「ふん。お前の弟子だろ。ちゃんと助言してやれよな」

 

太郎はヴィンセントを正面に見据える。
膝が少し震えている。

「(そうだ、山岸さんの言うとおりだ。最初の飛び蹴りに臆してしまったが、攻撃のパターンは単調だ。まだ1分以上ある。大丈夫だ)」

試合が再会した。
ヴィンセントはゆっくり前に出る。

ヴィンセントの突きが飛ぶ瞬間、太郎は回り込み、開いた脇に突きを打ち込む。
会場から声援が起こる。太郎の反撃にのろしが上がる。

 

第40回全日本大会途中経過

 


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