第118話  八人の精鋭達

 

元全日本王者の大岩は、身長188cm、体重120kgの超巨漢だ。
不動の引退後の全日本を下村とともに牽引してきた。
組手スタイルも圧倒的な破壊力と、鉄壁のディフェンスを誇り、ポスト不動と言われてきた。

下村と違い寡黙で、組手もさほど派手さは無い。
が、常に全日本の上位に君臨してきた強豪だ。

世界大会後、下村は引退した。
大岩も34歳、最盛期は過ぎており、次の敗北をもって引退の決意をしていた。
第4回戦、対するはイタリアの若きダークホース、ヴィンセント・パンディーノだ。

ヴィンセントは静かな表情だが、組手は積極的に攻めるスタイルだ。
鋭い突きや下段から流れるように放たれる後ろ飛び蹴りでここまで全日本の強豪をなぎ倒して来た。

そして、大岩もこのヴィンセントの勢いを止めることは出来なかった。
一本負けは避けられたものの、強烈な蹴り技で動きを止められ、本戦5-0で敗れた。
会場の拍手の中、鹿児島支部の道場生たちの胴上げを受ける。

 

続く試合では、五十嵐が新鋭清田を、相馬がベテラン豊田を下し、準々決勝で五十嵐vs相馬の激突が決まった。

 

会場からアナウンスが流れ、準々決勝進出者が集められた。
ベスト8の選手達は、壇上に並べられ、選手達は紹介を受けるのだ。

過去の大会でこの紹介を受ける選手達を羨望のまなざしで見ていた太郎だったが、ついに自らがその対象となった。
八人は壇上に横一列に並ばされた。

太郎の興奮は最高潮に達した。
自分が、憧れの舞台に昇りつめたのだ。

 

『会場の皆さま、お待たせいたしました。それでは、128人によるスーパートーナメントを勝ち上がった精鋭八人を紹介したいと思います! 』

 

『第21・23・25回体重別全日本軽重量級優勝、第36回全日本優勝、第37回全日本第4位、第38回全日本第3位、ゼッケン1番、志賀創二、神奈川! 』

志賀は、一歩前に立ち十字を切る。
堂々たる態度だ。

志賀と太郎は目が会った。
ぶつかるとすれば決勝だ。

 

『第25回体重別全日本軽重量級準優勝、ゼッケン17番、塩田博、東京! 』

夏の体重別で名を轟かせた塩田。
塩田は太郎が出場した東京都大会のトーナメントに名前がある。
その時は中条に敗退している。

 

『第23回体重別全日本重量級優勝、第25回体重別全日本重量級第4位、第38回全日本第7位、ゼッケン33番、伴信一、香川! 』

身長182cm、体重128kg。
第23回体重別全日本で山岸を倒し一躍全日本の上位に躍り出た孝二の兄。

 

『第25回体重別全日本重量級優勝、第38回全日本第6位、ゼッケン64番、ロベルト・フェルナンデス、東京! 』

ロベルトは二度目の全日本準々決勝進出。
太郎はついに同日入門のロベルトと同じ立場に立つことになった。

 

『第24回体重別全日本軽量級準優勝、第25回体重別全日本軽量級優勝、ゼッケン72番、水河太郎、東京! 』

「押忍」

初めての全日本ベスト8。
その場所から見える会場は、いままでとは違ったものだった。
席を埋め尽くしている観客たちは、自分たちを見ている。
主役。主役になったのだ。

 

『第7回ヨーロッパ大会第6位、ゼッケン88番、ヴィンセント・パンディーノ、イタリア! 』

あの時の青年とまさかこんな大舞台で戦うことになるとは、太郎は夢にも思わなかった。
涼しげな表情からは想像出来ない圧倒的な破壊力を秘めた飛び後ろ蹴り。
太郎は今大会最強の刺客を相手にする。

 

『第13回体重別全日本軽重量級準優勝、第14回体重別全日本軽重量級優勝、第19回体重別全日本軽重量級第4位、第22回体重別全日本軽重量級優勝、第23回体重別全日本軽重量級準優勝、第24回体重別全日本軽重量級優勝……』

毎大会、五十嵐が準々決勝に進出した時の戦歴の紹介は、それ自体が一つのイベントとなっていた。
五十嵐は、20代中盤から全日本で活躍し始め、31歳の時にレオナルドとの死闘での板割り判定で拳を故障。
その後は、大会規模に関係なく出場し続け、39歳の今まで現役である。

 

『……第25回全日本第6位、第26回全日本第3位、第28・29・30回全日本準優勝、第32回全日本優勝、第34回全日本第7位、第37回全日本第3位、第6回世界大会第6位、第7回世界大会準優勝、ゼッケン100番、五十嵐徹平、熊本! 』

「ったく、長いっすねー!  眠くなっちゃいますよ!」

「おめーも長いだろ!」

相馬と、五十嵐はこれから戦うというのに、笑顔でこんなやりとりをしている。

 

『第17回体重別全日本中量級準優勝、第18・19・21・22・25回体重別全日本中量級優勝、第32回全日本第6回、第33回全日本第5位、第34回全日本第4位、第36回全日本第3位、第37回全日本準優勝、第38回全日本優勝、第8回世界大会第5位、第9回世界大会第3位、ゼッケン128番、相馬清彦、東京! 』

太郎は、この偉大なる歴史を刻んだ空手家、そして一番近い空手家、相馬清彦と対戦出来るまで後一歩のところまで来た。
そのためには、今大会の台風の目、イタリアのヴィンセントを倒さなければならない。

 

第40回全日本大会途中経過

 


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