第117話  初心者大会の借り

 

第4回戦が進む。
ロベルトは、中量級で20歳の新星、引地から中段回し蹴りの一本勝ちを収め、準々決勝進出を決めた。

 

次は太郎と高畑の試合だ。
太郎にとっては初心者大会の借りを返す時が来たということになるが、実は、高畑も太郎を特別視していた。
自分と初心者大会で同時デビューした太郎が、先に無差別の全日本に出場しベスト32に進出。
そして今年の体重別では階級こそ違え、太郎は軽量級の王者にまで昇りつめた。

お互いに少なからずの因縁を抱え、試合に臨む。

 

『ゼッケン72番、水河太郎、東京!  ゼッケン80番、高畑健、総本山! 』

 

3年半振りに壇上で相対する二人。
あの頃とは違い、お互い落ち着いた表情で向き合う。

 

『構えてっ、始めー! 』

 

試合が始まる。
両者しばらく見合うが、太郎が先に仕掛ける。

珍しく下段から入り、上段でガードを上げさせ突きを打ち込む。
が、高畑は打ち合いには付き合わず、受けてまた距離を取る。

リーチの差があるので間合いが遠いと太郎が不利になる。
太郎はまた距離を縮めるが、高畑はまた下がる。
そして再度太郎が間合いを詰めたところで的確な前蹴りを太郎の腹にめり込ませる。

が、太郎も散々ロベルトに腹を打たれる練習をしていたのでダメージはない。
緊張感のある序盤戦となった。

「(高畑の奴、重量級のくせして随分上品な組手スタイルだな。初心者大会の時は、重戦車みたいにつっこんで来たくせに。よし、ここらで相馬先輩直伝の技を見せてやるぜ)」

太郎は、軸足を踏ん張り、飛び前蹴りを放つ。
高畑は顔面の前で受けるが、そのまま太郎は飛び上がり膝で襲いかかる。

リーチ差があるので膝は当たりはしないが、距離が詰まった。
すでに試合場の端だ。
ここで百裂拳を見舞う。
高畑は予想外に重い突きの連打にたまらず場外に出た。

主審が止めに入る。
会場が沸き起こる。

「(どうだ。これで、そんな上品なことは出来なくなるだろう)」

 

太郎の予想通り、焦りの表情を浮かべた高畑は突きと下段で太郎を襲う。
しかし太郎は要所で前蹴りで距離を取りながら、的確な突きを高畑に打ち込む。
傍から見ても太郎の優勢と見れる。

「くっ!」

高畑の声が漏れる。
太郎は勢いに乗る。

が、この辺りで高畑の突きが太郎の首に当たり始める。
ルールでは首より上への突きは反則となっているが、激しい打ち合いの中では仕方のない時もある。

しかし、今回はどうも高畑は故意に当てているようだ。
太郎は顔を歪める。

 

ロベルトの表情が曇って来た。

「オー、何か突きの位置が高くナイ?」

「あの野郎、こざかしい真似を……」

「太郎は、どうすればイイの?」

相馬は腕を組んだ。

「試合を止めて、反則をアピールすればいいが……”シンセイホウケイ”な俺様の教えを受けている太郎だ。そんなチンケなことはできねーだろうな」

「ま、まさか”品行方正”のコト?……くくくくく、ちょっ、相馬先輩。この大事な場面で……しかも使い方、合ってるカナ?」

「貴様ー!  外人のくせして、俺様に日本語を諭すかあー!」

壇上の下ではロベルトが相馬の百裂拳の餌食となった。

 

 

試合場では太郎と高畑の打ち合いが続いているが、故意に喉元を打っていると太郎が気付き始めた。

「(総本山の選手がこんな姑息な事をするとは……しかし、試合時間も残り僅かだ。出すか! )」

太郎は今大会初めて、相手の正面から横に回転し始めた。
高畑は一瞬太郎を見失う。

と、真横に消えた太郎の下段が高畑の足に炸裂する。

高畑が振り返ると、すでに太郎はそこにはおらず、また横から攻撃を受ける。
これは重量級選手相手にロベルトとくり返し稽古してきた相手の死角に回り込む戦法だ。

スピードについて行けない高畑は後半なす術が無くなった。
本戦が終了する。

 

『判定をお願いします……判定っ! 』

 

白が2人、引き分けが2人。

主審が白を挙げ、3-0で太郎が勝利した。
太郎は3年半振りに初心者大会の借りを返した。

 

高畑はうつむきながら壇上を降り、総本山の面々に頭を下げる。

「押忍、失礼しました」

山岸は高畑の肩を叩く。

「いい試合だったじゃないか。水河はどうだったよ」

高畑は涙を浮かべる。

「自分より……数段上の空手家になってました」

 

第40回全日本大会途中経過

 


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