第116話  マルチェロの恨み

 

太郎は第4回戦の相手が誰になるのか見届ける為に、壇上の下で試合を見る。
全日本初出場の小美濃と総本山の高畑の重量級対決だ。

無差別の全日本らしい激しい打ち合いが繰り広げられるが、高畑の気合たっぷりの圧力に小美濃は屈した。
太郎の対戦相手は高畑に決まった。

第25回体重別全日本重量級第3位。
そして、太郎の初めての公式戦である初心者大会の一回戦の相手である。
その時はまさに手も足も出ずに敗北した。

「どうだ、太郎。あの野郎を倒せるか?」

相馬は横目で太郎を見る。

「押忍。大丈夫です。真正面からねじ伏せます」

「はは、重量級相手に真正面か。まあ、普段ロベのデカブツとやりあってるからな。それにしても、おめーは今回、突きの連打だけで勝ち上がってるな。俺様が芸の無い指導をしてるみてーじゃねーか!」

「お、押忍。突きだけで通じなかったら、当然、相馬先輩直伝の華麗なる空手を披露します!」

「ボケ!  華麗なのは俺様だけだろーが!」

頭をはたかれた。
何を言っても駄目らしい。

 

相馬と太郎がじゃれていると、会場からどよめきが起こった。
試合場を見ると大会最重量133kgの強豪、伴孝二がうずくまっている。
そしてヴィンセントが静かな表情で帯を直している。

「おい、ロべ、あのデブはどうしたんだ?」

相馬も伴が倒されていることに少し動揺しているようだ。

「突きからの飛び後ろ蹴りをお腹にまともに受けたみたいダネ。あの選手凄く強いネ」

「あんな野郎、世界大会に出てたかな?」

意外に自分以外の選手にも詳しい相馬だが、首をかしげている。

「あの選手はイタリアのヴィンセント選手です。マルチェロ選手の弟子みたいです」

太郎は、壇上を降りるヴィンセントを見ながら言った。

 

壇上の下で待っていたマルチェロがヴィンセントの肩を叩き、嬉しそうにしている。

「なんだ、糞太郎。やけに詳しいな」

マルチェロが相馬の妹のあずさをナンパしていたとは言えない。

「お、押忍。特報神覇館に……書いてありました。」

「なるほど……マルチェロの弟子か」

相馬はニヤリと笑った。

「どういうことですか?」

「あのおマル野郎は日本が嫌いなんだよ。あいつの兄ちゃんがかなりの強豪だったんだ。海外の大会なんかでも優勝したりした。フランコ・ジアーロっつったかな。そいつが不動先輩や隠岐師範に憧れていて、是非とも全日本に参戦したい、と申し出ていたんだ。だが、当時の大会実行委員がそれを拒否した。勿論、遠まわしにだが。全日本で王座を脅かす程の選手は呼びたくない。過去のレオナルドの全日本決勝進出の一件で懲りていたからな。そんなこんなで憧れの選手と戦うことは出来なかったんだ。世界大会では俺様にぶっ倒されたからな。がははは」

「それで、マルチェロは?」

「兄貴の恨みを晴らすべく、奴は全日本の王座を狙った。しかしあんまり目立った戦績を残すと全日本に呼ばれにくくなる。そこで、そこそこの強さで名を売って、日本の試合に推薦された。それが、お前らが入門したてで見た、第22回体重別全日本だよ。決勝まで進撃したが辻先輩に倒されてたな」

「オー、あの大会ネ!」

「あのヴィンセントとかいう奴も、どうせヨーロッパ大会とかで中途半端な成績を出させたんだろ。そんで野口師範はころりと騙されたって訳よ。しかし、しつこい野郎だな、おマルは」

「実は、相当強い選手を呼んでしまったということですね」

「選手の選別なんてやる必要なんかねーんだよ。俺様がいるんだからよ。誰でも呼びゃーいーんだよ。しかし、伴の弟を秒殺するとは……かなりの強さだなあ」

「押ー忍」

 

相馬らが話している間に次の試合の決着が着いた。
元全日本王者、ベテランの大岩が勝利したようだ。

「まあ、次の相手はあの大岩の旦那だ。元全日本王者だしな。ヴィンセントもそうやすやすと上へは行けねーだろーよ」

 

 

第三回戦が全て終わり、残った選手は16人となった。
サブアリーナの端には、指導員となった山岸を中心に総本山の選手達が集まっている。
しかしその雰囲気は暗い。

久我、百瀬、松崎らが敗退し、この時点で総本山の選手は高畑のみになっていたのだ。
山岸が口を開く。

「今大会も残念ながら総本山の威信を示すことは出来なかった。だが、皆で残った高畑を応援して欲しい」

「押忍」「押ー忍!」

しかし当の高畑は一人ため息をついている。
気付いた筆頭指導員の久我が高畑に近づく。

「おい、高畑。お前の為に山岸が号令を掛けているのに、何だその態度は!」

久我に注意され、高畑が口を開く。

「神覇館の先頭を切って進んで行くのが総本山ではないんですか? なのに何です、このザマは。今や大会の話題を独占しているのは相馬軍団なんていうはぐれ者集団だ。情けないったらありません」

「高畑ー!」

普段クールな久我だが、高畑の態度にキレた。
どうも最近、先輩や指導員を小馬鹿にする言動が目立ってきていた。

高畑は、4年前、20歳で総本山に入門しているが、山岸らとは違い内弟子ではない。
高校を卒業し、簿記の資格の勉強をしながら、父親の会計事務所の手伝いをしていた。
その事務所が総本山の近くにあり、館長の神と父親が親しいこともあり、高畑は入門を決めた。

しかし、今ではほぼ空手一色の生活となっていた。

夏の体重別では重量級第3位に入り、その発言は強気なものとなってきた。
山岸が選手を引退したことも、そのことに拍車を掛けていた。

「久我先輩、高畑の言うとおりです」

山岸が久我を止める。

「高畑よ。次の相手は、相馬軍団の水河だ。油断するなよ」

山岸の忠告にも高畑は余裕の笑みだ。

「山岸先輩も、百瀬先輩も、松崎も、水河選手には負けてますよね。でも俺は奴に勝っている。心配無用です」

そう言い放ち、後輩の松崎を連れてアップを始めた。

 

百瀬は無表情、久我は腕を組んで苦々しい顔だ。

「山岸よ。高畑にちっと甘いんじゃないか? 先輩として、締めるところば締めんと」

「久我先輩、すいません。ですが、総本山の選手として、結果が出せなければいけない。そこは奴の言うとおりなんです」

「ふふ、そうだな。しかし、山岸。現役を離れて少し丸くなりすぎたんじゃないか。相馬とやり合ってた頃のお前はもっと目がぎらついていて面白かったがな。なあ、百瀬」

「お、押忍」

突然振られて、百瀬は言葉が出ない。
山岸は少しうろたえているようだ。

「そ、そんなことないですよ」

 

第40回全日本大会途中経過

 


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