第115話  中条との再戦

 

シードの位置にいる、今大会の目玉海外選手はゼッケン97番、デンマークのハンス・ミケルセンだ。
昨年の世界大会ではベスト32に進出している。
準優勝に輝いたロシアのアレクサンドルと激しい打ち合いを演じた実力者である。

そのハンスを二回戦でマットに沈めた男が現れた。
大会最年長、全日本王者にも輝いたこともある熊本支部の五十嵐だ。
持ち味の激しい組手を仕掛け、レバーブローで一本勝ちを収めた。会場は、伝説の復活に沸いた。

 

二日目、128人いた選手達は32人に絞られた。
開会式で、壇上には激戦を勝ち抜いた猛者達が並び、名を呼ばれる。

 

第三回戦が始まる。
初戦は志賀と総本山の強豪、久我。
二日目ともなると有名選手同士の戦いも多くなる。

白熱した試合が続く中、太郎は念入りにウォーミングアップを続ける。

次の相手は、三年前の東京都大会で手も足も出ずに打ちのめされた男。
現役官僚空手家の中条だ。

相馬の組手に似ており、相手の攻撃に合わせた戦略で攻めてくる。
太郎にはこれといった作戦が無かった。
だが、重量級選手相手でもパワー勝負に持っていける自信がある。

ましてや中条は75kgそこそこの中量級だ。
力で勝負することになるだろうと考えた。
そして太郎の出番となった。

「太郎! あんな糞すかし野郎、とっととぶちのめして来いや!」

「太郎! 僕の分も、借りを返してきてネ」

「押忍!」

 

『ゼッケン65番、中条貴久、東京!  ゼッケン72番、水河太郎、東京! 』

 

試合場で対峙する。
中条はあいかわらず薄く笑いを浮かべている。

すると、中条の口が動いた。
太郎に何かを伝えようとしているようだ。

「(オ・ン・オ・オ・ウ)」

そう口を動かして中条はまた薄笑いを浮かべる。
太郎はハッとした。

池袋……去年の池袋でのことか!
ラブホテルの窓から投げ捨てたアレのことか!
太郎は頭をかき乱された。

試合が始まった。
中条はゆっくり近づいて来た。
そして正確な前蹴りを連打してくる。
太郎は受けるので精いっぱいだ。

「(駄目だ。集中しろ! やばい、集中だ! )」

太郎は、突きの連打を試みるが中条に足を払われて尻もちをついた。

 

相馬は太郎のふがいない出だしに憤っている。

「何だ、あのザマは!  糞太郎の野郎、昨日怪我でもしたか?」

「何だか”心ここにあらず”って感じダネ」

「ロベ、俺は英語はわかんねーんだよ!  日本語しゃべれや!」

「……押忍」

 

太郎の脳裏に甘い夜が浮かんでくる。

「(やべー!  本当に集中出来ない!  ……葉月さん、今、どうしてるかなあ……って、どうしよう! )」

太郎は、落ち着くまで、中条の攻撃を受けることに集中し、なるべくカウンターを貰わないようにした。
これが今の次善の策だ。

「(他のこと、他のことを考えるんだ……そうだ、あずさ先輩!  そうだよ!  俺は、あずさ先輩の為に頑張ってるんだろーが!  あずさ先輩の為に世界一の男になるんだろうが!  こんなところで負ける訳にはいかん! )」

太郎は、中条の突きに合わせて、あばらに拳を打ちつける。
中条の表情が曇った。
突然のカウンターに動きが止まった。

「(ここから挽回だ)」

太郎は、中条を逃がさぬよう懐に入り込み、得意の百裂拳を放つ。
中条は太郎の足の内側に下段蹴りを打ち動きを止めようとしたが、太郎の鍛え抜かれた足は突きを喰らいながらの下段では打ち崩せなかった。

 

「くっ!」

中条もらしくない突きのラッシュで応戦するが、今の太郎にはパワーでは勝ることは出来なかった。

本戦3分が終了し、3-0で太郎が辛勝した。
なんとか三年前の借りを返すことが出来た。

 

太郎と中条は壇上で手を握った。

「自分の組手が出来なかったよ。ま、それでなくとも君との力の差は歴然としていたようだね」

「いや、そんな……」

「そんなことより、相馬さんにはばれてないのかい? 彼はたいそう妹さんを大事にしているようだからね」

「う……」

中条は池袋のラブホテルにあずさと来ていたのだと勘違いをしているようだった。
どちらにしても言葉にならない。

「だがアレは使った方が良かったんじゃないのかな……ふふ」

中条は笑いながら壇上を降りて行った。

 

「オー太郎!  やったネ!」

「ロベ、二人分の借りを返して来たぜ」

ロベルトも中条に敗れている。

「オウ、ようやくあのスカシ野郎をぶちのめしたか。しかし、随分仲良さそうに話してたな。何の話?」

「ぎょぎょ!」

言っても誰も得をしない話だ。

「ぎょ、ぎょぎょぎょ、行政の、か、官僚による……」

「てめー!  中卒の俺に難しい言葉を並べるんじゃねー!」

太郎は試合中よりも大きなダメージを受けた。

 

第40回全日本大会途中経過

 


NEXT → 第116話  マルチェロの恨み   へ


BACK ← 第114話  尊敬の念 へ


 

サブコンテンツ

このページの先頭へ