第114話  尊敬の念

 

ロベルトも相馬も快勝で二回戦進出を決めた。

一回戦、一番試合を盛り上げたのは、イタリアのヴィンセントだった。
ヴィンセントは身長181cm、体重89kg。
対戦相手は重量級の井田。
体重100kg近い巨漢である。

ひとまわり大きい選手相手に鋭い突きで攻め立て、飛び後ろ蹴りでしとめ一本勝ち。
その軽やかな技は、90kg近くある選手の動きではなかった。
青ざめたのは大会実行委員長で、ヴィンセントを推薦した野口だった。

「井田が一撃で沈められた。まさか、ヨーロッパ大会の実績では、こんなに凄い選手ではなかったハズだが……」

野口はマルチェロの罠にまんまとはまってしまったのだった。

二回戦が始まっているが、野口は頭を抱えたままだ。
そんな中、試合を間近に控えた弟子の森が野口の元に挨拶に来た。

「押忍、師範。もうすぐ二回戦なので行って参ります」

「おお、森か。次の相手は誰だったかな?」

「相馬先輩のところの水河選手です」

「おっ、そうか。相馬軍団か」

「パワーで押し切ってみせます」

「お前の力がどの程度通じるか見ものだな」

まるで森が太郎には敵わないような口ぶりだ。

「野口師範は、私では水河選手に勝てないと……」

「ふふ、そうは言ってないさ。だが長年大会を見て来た中で、水河君は特殊だ。軽量級で唯一無差別に対抗出来る男だ。辻君も無差別で活躍したが、彼は技でのし上がって行った。しかし、水河君は真正面から重量級相手に戦い抜く。まあ、気を抜かない方がいい」

「……押忍」

森は野口に礼をし、試合に向かった。

森は自分に闘志が沸き起こるのを感じた。
それは嫉妬に近いものかもしれなかった。

「真正面からか……見せてもらおうか、水河選手」

 

 

『ゼッケン69番、森大樹、千葉!  ゼッケン72番、水河太郎、東京! 』

 

試合場で二人は対峙する。
身長差15cm、体重差25kg以上。
体格差は一目瞭然だ。

 

『構えてー……始めい! 』

 

試合の開始太鼓が鳴った。
森は開始と同時に太郎に突っ込んで行った。

森は得意の右ストレートを太郎の胸元に打ち込み、そのまま、態勢を崩したところで、突きの連打で試合場の外に追い出そうと考えた。

しかし、一発目のストレートは太郎にクリーンヒットしたが、態勢は崩れない。
逆に、あっという間に森は懐に入り込まれた。
そして太郎の下突きの連打を喰らう。
その重さ、スピードに森は衝撃を受ける。

「(こ、これが軽量級選手の突きか?)」

思わず、顔が歪む。
森は近距離から攻めてくる太郎を膝で突き離そうとするが、突きの連打が激し過ぎ、軸足を踏ん張ることが出来ず、技が出せない。

ほとんど攻撃が出せない状態になっている。
気付けば、試合場の外に出されたのは森の方だった。

会場からは拍手喝さいが沸き起こる。

「(落ち着け、体格ではこちらが勝っているんだ。突きで勝負だ! )」

試合が再会されると、森は突きのラッシュを仕掛ける。
負けじと太郎も突きで応酬する。
まさにど突き合いだ。
お互いに一歩も引かない。

が、森が一発撃てば、太郎は三発返してくる。
スピードが違う。
そして後ろに下がっているのも森の方だ。

「(うう、そんな。純粋なパワー勝負でも負けている。何故だ? こんなことが?)」

森はもう一度頭を冷静にしようとした。

「(水河選手は突きの連打を打っているんだ。足を踏ん張っている。下段だ。下段で対抗だ! )」

森は突きから渾身の左下段を放つが、その的にしていた太郎の右足はその場にはなかった。
次の瞬間、森の意識は飛んだ。

下段に集中した為に下がったガードを太郎は見逃さなかった。
太郎の右上段回し蹴りによる一本勝ちだ。

 

森はまもなく気がついたが、すでに勝負はついていた。
森が開始線に戻ると、太郎の一本勝ちが宣告された。

 

「何回か会ったことがあったけど、まさか全日本の試合で戦うことになるとはね。ロベルトに劣らない強い突きだったよ」

太郎は笑顔で森と握手をした。
森は茫然としている。

「お、押忍」

 

森は、ゆっくりと壇上から降りる。
悔しさは無い。
逆にすがすがしさがみなぎってきた。

「あんなに小さいのに……凄い選手がいるんだな。水河……太郎先輩……凄い!」

応援の千葉支部の道場生達は、森の笑顔を初めて見た気がした。

 

第40回全日本大会途中経過

 


NEXT → 第115話  中条との再戦   へ


BACK ← 第113話  万全の仕上がり へ


 

サブコンテンツ

このページの先頭へ