第113話  万全の仕上がり

 

第40回全日本大会初日。
全国から集まった128人の猛者が壇上に終結する。
太郎はゼッケン72番。
ロベルトは64番。
相馬は128番だ。
今回も選手宣誓は相馬が務める。

 

開会式が終わるとさっそく第一回戦が始まる。
最初の登場はゼッケン1番の志賀だ。
相手は重量級の山川。
中堅選手だが、あっという間に中段蹴りで一本勝ちを奪われた。

いつもはスロースターターの志賀だが、今回は気合が入っている。
太郎は志賀の試合を見ながら、夏のラーメン屋での出来事を思い出していた。

 

…………あずささんと釣り合うような男とは思えない

 

太郎は、壇上を降りる志賀と目が合った気がした。
太郎と志賀がぶつかるとすれば決勝だ。

 

 

相馬軍団がサブアリーナで柔軟などをやっていると、外国人の一団が入ってきた。
イタリア支部の道場生達だ。
その中に太郎の見たことのある男がいた。
マルチェロとヴィンセントだ。

あずさをかばってマルチェロの上段回し蹴りを喰らったのはもう3年以上も前の話だ。
マルチェロは覚えているだろうか。
受けた太郎は忘れられる訳もなく、マルチェロを睨みつける。

マルチェロは世界大会に出ていた相馬やロベルトには気づいたようで、指を差しながら従えている道場生達に何やらしゃべりかけているが、太郎の事は眼中にないらしい。
そのまま笑いながらサブアリーナの隅に向かって行った。

「あいつが今回の刺客か。ヴィンセントだったかな。野口師範がわざわざヨーロッパまで出向いて見つけて来たらしい」

相馬は太郎に目配せをした。
太郎はヴィンセントを知っている。
横暴なマルチェロを咎めた、なかなかの好青年だ。

 

ロベルトは一回戦、中量級選手を前蹴りで攻めたて余裕の二回戦進出。
そして太郎の出番がやってきた。

 

『ゼッケン71番、松崎優斗、総本山!  ゼッケン72番、水河太郎、東京! 』

 

太郎は気合とともに壇上に駆け上がる。
二年ぶりの総本山武道場での試合。
体重別の時とは見える景色が違う。

松崎は身長で太郎よりも15cmほど高い。
だが太郎はさして緊張しているようには見えない。

試合が始まると、松崎もやや真剣な面持ちに変わった。
先に仕掛けたのは松崎だった。
突きで攻めようとするが、太郎は前蹴りで距離を取る。
練習した伸びのある前蹴り。

蹴りで松崎との間合いをコントロールし、突きの連打で攻めたてる。
身体の大きな松崎が突きの連打を受け、身をかがめている。
ディフェンスが下がったところで上段系の蹴りで襲いかかる。
松崎は防戦一方だ。

パワーでも太郎が一枚上をいっていた。
本戦5-0の圧勝で太郎は二回戦に駒を進めた。

「あ、ありがとうございましたー!  体重別の王者の実力を味あわせていただきましたー!」

松崎は笑顔で壇上を降りた。
快勝の太郎に会場から拍手が巻き起こる。

 

この試合をつぶさに観察する男がいた。
大会実行委員長野口の弟子の森だ。
森は年齢で太郎の一つ下で、飲みの席やら道場やらで何度か会っている。
その度に相馬から暗いと罵られていたが。

少し入門が早いとはいえ、ほぼ同時期に空手を始めた太郎やロベルトの活躍を目の当たりにしてきた。
森は太郎の試合を見終え、千葉支部の陣地に戻る。

森は一回戦、重量級選手を相手に圧勝している。
森は身長181cm、体重は88kg。
夏の体重別では初出場ながらベスト8に進出し、全日本出場を決めている。

森は二回戦で軽量級の太郎とぶつかることになり、ほっとしていた。
無差別で行われる全日本ではやはり、体格が一番ものをいうと考えているからだ。

「水河選手に勝てば初出場でベスト32だ。三回戦ではおそらく世界大会にも出場した中条選手と戦うことになるが、所詮中量級だ。パワーでつぶすのみ。目指すば準々決勝だ」

森は拳を握りしめる。

 

 

サブアリーナに戻ろうとする相馬軍団を呼びとめる声がした。
最年長、未だ現役の五十嵐だ。

「ありゃりゃ、五十嵐先輩、まだやっておられるんですね」

相馬は悪態をつくが、五十嵐を尊敬していた。

「五十嵐先輩は二回戦でハンス・ミケルセンの野郎とぶつかりそうですね。奴は世界大会で準優勝のアレクサンドルと結構やりあってましたよ。大丈夫ですか」

「ふふ、実はな、この頃の俺は実に調子がいいんだな、これが。お前とは準々決勝で当たるからよ。覚悟しとけなー」

「お、押忍。わかりました。五十嵐先輩とやるとなると……8年ぶりですね」

第32回全日本の準々決勝で初出場の相馬は五十嵐と戦っている。

「五十嵐先輩相手でも容赦はしないっすよ!」

「おう。39歳だが手加減無用だぜ」

そう言うと五十嵐は去って行った。

「さ、39歳ですかー!  凄い」

「オー、生涯現役ダネ」

「本当、どうなってやがるんだよ、あのオヤジは?」

 

第40回全日本大会途中経過

 


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