第110話  ヴィンセント始動

 

大会委員長で千葉支部師範の野口は、弟子の森とともにデンマークに来ていた。
ここで開催される第7回ヨーロッパ大会に内弟子の森を参加させる為だ。
森は今年夏に行われた第25回体重別全日本大会にて、ベスト8に勝ち進み秋の全日本への参戦を決めている。
その大会では、準々決勝で志賀に善戦しており、森は乗りに乗っていた。

そして、もう一つ。
野口がデンマークに来た理由があった。
それは、秋の全日本における外国人選手の刺客を探す為だ。
全日本の王座に外国人が着くことは許されない。
先の体重別全日本ではロベルトが重量級を制しており、その緊迫感はより大きなものとなっていた。

その中で、外国人選手の参戦は大会に緊張感を与え、盛り上げに貢献してくれるのだ。
選抜の基準は、概ね全日本で準々決勝辺りまで勝ち進めること。
そして王座を脅かす程の強さはないこと。
野口はここのところをしたたかに選別しなければならない。

数年前は、ロシア大会でそこその勝ち上がったイワン・マレンコフを全日本に出場させ、大会を盛り上げた。
イワンは、第9回世界大会では、ベスト8に進出するまでになっている。

今回、目を付けているのは、地元デンマークのハンス・ミケルセンだ。
昨年の第9回世界大会でもベスト32に進出している。
今後、世界大会で上位進出が期待される選手であるため、今、全日本大会の刺客としてはもってこいの存在である。

しかし、もう一人くらい呼びたいところであった。

 

 

森は、ハンガリーのラスロ・エデンに敗退し、ベスト8に終わった。
しかしまだ茶帯の森には十分すぎる程の結果だ。

「押忍……野口師範。すいませんでした。負けてしまいました」

「うん。まあ、いいんじゃないか? お前は、まだ入門して3年くらいだろ。十分さ」

「押忍」

会う度に相馬に暗い暗いと突っ込まれる森であったが、負けても普段と変わらず暗かった。

 

「osu!」

森を励ます野口の背後から近づく一団がいる。
マルチェロ率いるイタリア支部の面々だ。
マルチェロは第22回体重別全日本軽量級、決勝で辻に敗れ敗退するが、体重アップで無差別で打ち負けないパワーを付け、先の世界大会では志賀を破ってベスト8に進出し、今や世界の強豪の一人となっている。

マルチェロは通訳を通し、野口に話しかける。

『osu! Istruttore di Noguchi. E stato molto tempo. E Marcello.(押忍!  野口師範。お久しぶりです。マルチェロです)』

「オー!  久しぶり。凄いじゃないか、世界大会でベスト8なんて」

『Perbacco, questo e perche La fece prenderlo al Giappone sulla raccomandazione dell’istruttore di Noguchi. Se non sbaglio, e stato tutto il tempo secondo il 22esimo peso in Giappone. E studiato molto che gioco un gioco con un giapponese.(いやー、野口師範の推薦で日本に連れて行ってもらったからですよ。たしか第22回体重別の全日本の時でしたね。日本人と試合をするのは、とても勉強になります)』

「そう言ってくれると嬉しいよ」

マルチェロは後ろに控えていたヴィンセントを前に出す。

『In effetti. Ho messo questo Vincent in vendita in adesso, ma voglio lasciarLa partecipare a tutto il Giappone certamente e……(実はですね。このヴィンセントを今、売り出してるんですが、是非、全日本に出場させたいと思ってまして……)』

「ほ、ほおー。ヴィンセント君は、今回どうだったの?」

『Perdo nei quarti di finale in Antonio Romero che ha vinto il campionato della Spagna. Oh, non sono stato capace di fare qualcosa.(優勝したスペインのアントニオ・ロメロに準々決勝で負けてます。いやはや、手も足も出なかったですよ)』

マルチェロは苦笑いをするヴィンセントの肩を叩く。

「ベスト8かあ。森と同じだなあ。(ロメロに手も足も出ないんじゃ、全日本では二日目に残るか残らないかくらいだな。まあ、いいかな)いいんじゃないかな」

『Sono grato per. Posso diventare un giocatore promettente nel futuro se soffro privazioni in giocatori eccellenti in Giappone.(オー、ありがたいです。日本で優秀な選手達に揉まれれば、将来有望な選手になれるでしょう)』

「よし、わかった。連絡は追ってするから」

『Mi piacerebbe osu. Vincent!  E stato buono.(押忍、お願いします。ヴィンセント!  良かったな)』

『osu(お、押忍)』

野口は良い人材が見つかったと嬉しそうに森と去っていった。

 

 

「Ehi, lo vedi. Sono andato via bene.(くくくくく……ほら見ろ。うまくいっただろ)」

マルチェロは野口の姿が見えなくなると、表情を一変させた。

「……Dopotutto non potrebbe essere buono non aver combattuto in un incontro con ogni sforzo.(……やはり大会で全力で戦わなかったのは良くなかったんじゃないでしょうか)」

ヴィンセントはうつむく。

「Uno stupido!  Vinco il campionato in camera se lo faccio con ogni sforzo. E diventato il giocatore che poteva gia recitare una parte attiva nell’incontro mondiale dell’anno scorso. Il tempo per accordare la mia ambizione e sembrato di giungere!  Lasci Vincent vincere il campionato in tutto il Giappone. nel giapponese nel vortice di lacrime! (馬鹿!  全力でやったら余裕で優勝しちまうだろ。お前は既に、昨年の世界大会でも活躍出来るくらいの選手になったからな。俺の野望を叶える時が来たようだ!  全日本でヴィンセントを優勝させ、日本人共を涙の渦に沈めてやんのさ!  ガハハハハ)」

「……Marcello. E non contro Karate?(……マルチェロ。それって空手道に反していませんか?)」

「Sia tranquillo!  Odio I un pensiero conservatore giapponese. Perfino l’istruttore di Noguchi di poco fa e cosi. Sonda  nei tipi che c’e principio per lasciare un giocatore esperto partecipare a tutto il Giappone, ma, veramente, e mezzofatto. Questo e perche difende tutto il trono giapponese alla morte per un giapponese. Vedi il mondiale incontrarsi di qui questi giorni. Un giapponese che rimane nei quarti di finale e Soma solo. Un livello del Giappone fallisce solo in perdita. Sono dal futuro dell’edificio d’ascendente di Dio(黙れ!  俺はな、日本人の保守的な思考が大嫌いなんだ。さっきの野口師範だってそうだ。強豪を全日本に参戦させるという建前はあるが、実際は中途半端な奴を探してんだ。全日本の王座を日本人によって死守するためだよ。ここ最近の世界大会を見ろよ。準々決勝に残る日本人は相馬一人だぞ。そんだけ日本のレベルが落ちてるんだ。俺は神覇館の未来を考えてんだよ)」

「Hanno la loro politica.(彼らには彼らの方針があるんだよ)」

「In tutta la distinzione di peso il Giappone, il tipo che ha detto Roberto e sembrato di vincere il campionato male in una coordinazione……Va bene. A proposito, andiamo per mangiare perfino la cottura locale.(タイミング悪く、体重別全日本はロベルトとかいう奴が優勝しちまったらしいが……まあ、いいさ。さて、郷土料理でも食いに行こうぜ)」
 

 

 

ホテルの部屋に着くと、野口は相馬に電話を掛ける。

「いよう。相馬君。今度の全日本だけど……」

『選手宣誓スか? やりますよ、今度は』

「ははは、良かった。また太郎君に任せるとか言うのかと思ったよ」

『ん? 押忍、野口師範。その太郎が師範に話したいことがあるそうなんですが』

「ああ、変わってよ」

受話器の向こうで、太郎に変わった。

『押忍。水河です』

「押忍。黒帯になったんだって? 早いなあ」

『押忍、ありがとうございます』

「ところで話しとは?」

『……実は、全日本のトーナメントなんですが』

「うん」

『私は体重別で優勝しているので』

「シード位置だね。原則的には。安心しなよ、最初は強豪にはぶつからないから」

『そ、その……シードの位置を辞めて欲しいんです』

「え? シードじゃなくていいの? せっかく体重別で優勝しているのに?」

森も野口の会話が聞こえ、少し驚いている。

『私は、まだ成長段階です。まだまだ試練を乗り越えなければならないと思うんです。なのでランダムの位置でお願いします』

野口は首をひねった。

「うーん。僕は全然構わないけど……よし、わかった。なかなか見上げた根性だ」

その後、相馬に変わり、二言三言話して電話を切った。

 

「森、板橋の水河君はなかなか面白い男だね」

「……押忍。そのようですね」

 


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