第107話  相馬の洗礼

 

7月の中旬。
ついに太郎とロベルトの昇段審査の前日となった。
相馬は夕方、普段より早めに稽古を切り上げた。
明日の審査を考えてのことだろうか。

「さてと……太郎、ロべ。ついに明日、昇段審査が行われる。てめーらが入門して、3年と……3カ月か。総本山の内弟子並みの早さでの昇段審査だ。俺も、師として鼻が高いぜ」

相馬らしくない言い回しにいよいよ気味が悪い。

「そこでてめーらの壮行を兼ねて、飲みに行くぞ!  あずさや美雪、岩村さん、正宗の糞野郎も呼んであっからな。池袋に繰り出すぜ!」

「(な、何ー!  明日が審査だってのに飲みだとおー! )お、押忍。その……審査の後に飲み会を開いていただいたほうが……なあ、ロべ」

「押ー忍。相馬先輩、明日にしてよ」

刹那、打ち倒され、太郎の前に横たわるロベルト。

「ひ、ひえー!」

「ったく、弟子想いの俺様の気持ちを踏みにじるとは……太郎!  用意せんかい!」

「お、押ー忍!」

 

 

池袋の繁華街に入り、予約を取っていた居酒屋にはあずさらが既に到着していた。

「キヨ。いいの? 二人は明日、昇段審査なのよ!」

美雪が相馬に詰め寄る。

「あ? わかってるよ。景気づけに軽-く、飲むだけだよ」

正宗は太郎らに十字を切って挨拶する。
最近、ますます真面目さがうかがえるようになってきた。

「押忍。太郎先輩、ロベルトの旦那。明日は頑張って下さい」

「オー、正宗君は明日がラストなんだよネ」

「あーそーだ。昇段審査が最終回だって言ってたな。テレビも入るんだろー? 恥ずかしいところ見せられないなあ」

「押忍。先輩方は超強いから大丈夫っすよ」

大きなテーブルを囲む席に座る。
相馬の両脇には太郎とロベルト。
太郎の隣には正宗。
ロベルトの隣は岩村。
あずさと美雪は太郎の正面に着いた。
あずさと目が合う太郎。

「(ほええ。可愛いにゃあ。あずさ先輩の前でダサいとこ見せられないぜよ! )」

 

ジョッキが配られ、相馬が音頭をとる。

「えー、今夜は俺様の弟子共の昇段審査の前夜祭です。大いに飲みましょう!」

「お兄ちゃん!  控え目に飲みましょうでしょ!」

あずさがつっこむ。

「ちっ!  そうでしたな。では、乾杯ー!」

「乾パーイ!」

「オー」

 

岩村が感慨深げに口を開く。

「いやー、しかし、入門3年で昇段とは……あっという間に抜かれちゃったなあ。あの時の初々しい二人が今や、体重別全日本で優勝し、そして黒帯を巻こうとしている。僕は素晴らしい後輩を持って幸せですよー」

岩村の後輩想いな言葉に涙腺が緩む太郎。

「い、岩村先輩ー!  ありがとうございますうー!」

 

その後何故か、太郎とロベルトの飲み物は相馬が持ってくる。

「よーし、飲めやー!」

一気飲みをさせられる二人。

「う、ロ、ロベ。さっきから相馬先輩が持ってくる飲み物、アルコール強くない?」

「うん……何かとてもキツイね」

二人の頭はくらくらしてきた。

 

正宗がトイレから出ると、相馬が店員の首根っこを掴んで何やら指図をしている。

「おいおいおいおい、それじゃあジュースだろーが!  もちっと、こう……な」

「ちょっと、これじゃあアルコールランプに使えるレベルですよー!」

どうやら太郎とロベルトの飲み物を細工して出しているらしい。

「ちょっ、相馬の兄さん!  太郎先輩達は明日、昇段審査っつーマジなガチイベントなんでしょ!  そりゃないっすよ!」

すでに酔っている相馬は正宗に襲いかかる。

「この糞芸人があー!  俺様の弟子に対する愛が分かってないよーだなー!」

「ひ、ひえーー! !」

 

 

相馬は二人の為に特性ドリンクを持って戻ってきた。

「よし、おかわりだぜーい!」

「う!」

「オーノー!」

またもや強烈な強さ。
二人は顔を見合わせる。

「も、もしや、相馬先輩は俺達をつぶす気じゃ?」

「そ、そうらしいネ。これも愛のムチなのカナ!」

「いやいや、ただの悪魔の所業だよ!  まいったなあ」

相馬もジョッキを勢いよく空けている。

「なんだ、てめーら!  俺様が持ってきたのが飲めないってか?」

相馬は二人のグラスを持って、浴びせ飲ます。

「ぐえー!」

「オーゴッド!」

 

 

しばらく相馬はハイテンションなまま、太郎らを飲ませ続けた。
美雪とあずさは心配そうに太郎らを見ている。

「あららら、キヨの奴。始めっからこうするつもりだったのね」

「タロちゃん、大丈夫かなあ」

あずさも酔っている。
美雪は強いので普段通りだ。

「そういえば、芸人君がいないじゃない」

「ふにゃにゃ、スモラベがあ」

「スモラバでしょ……あずさ、あんた、こっからはオレンジジュースにしなさい」

「にゃにゃにゃ」

 

と、その時、岩村の携帯が鳴った。

「もしもし……え? あ、はい……わ、わかりました。そうです。私が岩村です。はい……すぐ行きます」

岩村は焦るように帰り仕度をする。

「み、みなさん。ちょっと急用が出来ましたので、帰ります。ついでに正宗君の荷物も持って行きますんで」

「あれー、そうなんですか? 僕が入口までお送りします。

 

太郎は、正宗のリュックを持ち、店の入り口まで送った。

「お、押忍。……ヒック、岩村先輩。お疲れさまでした。……しかし、何かあったんですか?」

「じ、実はね。正宗君が……交番にいるんだ」

「はえ?」

「店の外で丸裸で寝ているところを警察に連行されたらしい。さっきの連絡がそうさ」

「ま、まさか……相馬先輩が!」

「お、おそらく。何があったかはわからないが、先輩も酔っているし……」

「お、鬼だ」

「太郎君!  これも試練だと思って、明日頑張ってくれ!  十分に黒帯を締める資格がある太郎君とロベルト君が簡単に昇段しないように、昇段の重さをわかってもらうようにとの相馬先輩の……愛だと思う!  ……たぶん……」

「お、押忍!」

太郎の夜はまだ続く。

 


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